第252話 えっ、そうなの?

「これは……美味いな」

「これまでのデザートに比べても遜色ないくらいに甘いな!!」

「しかもスッと消えるような上品な甘さですわ!!」

「ウッと来るような甘さじゃなく、素朴な感じなのがいいわい」


 なんだろう……四人を纏う雰囲気が心なしかほっこりした気がする。

 こう、和みの雰囲気って言えば伝わるか?


「皮の食感も面白い」

「物凄くやわらかで、プニプニとした食感が癖になりますわね」

「薄い所も、ぶ厚い所も、それぞれ良さがあるな」

「食感の違いを楽しめるのもええもんじゃ」


 そこそこ大きく作ってあったとはいえ、あの四人が一口で頬張らないのは意外だった。

 最初の一口は試しというか、恐る恐るという感じで口に運んだんだけど、そこからがっつくんじゃなくて、ゆっくり食べよう、みたいな空気になってんだよな。

 分かる。分かるよ。

 滅茶苦茶分かる。

 この美味しいきんつばを一気に食べたくないんだよな。

 大事に大事に食べたいんだ。


「ずずー。……お茶の苦みが深い」

「緊張が解れているのが分かりますわぁ」

「紅茶もデザートに合うと思ったが、このデザートにはこのお茶だな」

「茶の香りも爽やかでいいのぅ」


 で、緑茶との相性も好評と。

 ま、この組み合わせは外れないわな。

 というわけで俺もいただきますか。

 ……うま。

 いやうま。味見の時の少量じゃなく、ガッツリ頬張って食べるきんつばうめー!!

 食べたのサツマイモだけど、時間が経って一層甘くなってない? お前。

 マジで滑らか。何なら、舌が触れただけで流れるように崩れていっちゃうんだこのきんつば。

 噛んだ後にすすらないと流れて落ちちゃうほどの滑らかさだぜ? 

 現代の材料で再現出来んのこれ? 俺には作れないと思うな。


「うんまいっすねぇ」

「カケルでもそう思うか」

「いやいや、確かに作りはしましたけど、普通にこの美味しさのきんつばは初めてですよ?」


 何なら、サツマイモやカボチャのきんつばは初めて。

 きんつばって、基本は粒あんで作られてない?

 あれはあれで美味しいんだけど、正直このサツマイモきんつばとは別物として考えた方がいいかな。

 近いのは芋ようかんかな。

 あれにきんつばの皮付けたのが、多分一番近い。

 ……何が言いたいかって言うと美味しいって事だね。


「む、こっちはスッキリした甘さじゃな」

「こちらはねっとりと濃厚な甘さ……」


 で、一つ目のきんつばを食べ終え、それぞれ食べなかった方のきんつばへ。

 ガブロさんとマジャリスさんは、サツマイモのきんつばへ。

 カボチャのきんつばよりも甘さは控えめ、それでも緑茶でリセットされた味覚には十分すぎる。

 で、リリウムさんとラベンドラさんがカボチャのきんつばへ。

 こちらはサツマイモのきんつばと比べた時の糖度の濃さに驚いてるな。

 俺もカボチャのきんつばをパクリ。

 ……うめぇ。

 確かに言われた通り、サツマイモに比べて粘りがあるな。

 サツマイモみたくサラッと流れる感じじゃなくて、ねっとり舌にまとわる感じ。

 ただ、それが不快かと言われるとそんな事はなく。

 むしろ甘さがずっと口に残り、その甘さもクリームのような重いものじゃないから全然あり。

 というかマジで両方美味いな。

 ――その後に飲む緑茶がまたうめぇや。

 さっぱりとした苦みと渋みが、口の中に残り続けるカボチャの甘さを全部攫って流してくれる。

 緑茶最高。


「むぅ……両方美味い」

「私はカボチャのきんつばの方が好みですわね。あのねっとりと濃厚な甘さはこれまでのデザートでも類を見ない程の美味しさでしたもの」

「サツマイモに一票。ただ甘いだけでなく、風味も良かった」

「わしもサツマイモじゃな。デザートは甘いもんじゃろうが、わしにはカボチャは甘すぎたわい」

「断然カボチャだ。あの強い甘みは思考を活性化させ、身体に沁みるようだった」


 えーっと……まとめると、ラベンドラさんとガブロさんがサツマイモのきんつば派で。

 リリウムさんとマジャリスさんがカボチャのきんつば派、と。

 俺は……うーん、どっちだろうなぁ。

 確かに疲れてる時はカボチャのきんつばの甘さが欲しくなるかもだけど、食事の後のデザートとしてはサツマイモのきんつばかな。

 つまりはケースバイケースってこと。


「あ、そう言えば、揚げたら衣がカリっとして美味しいってあったような……」


 で、ですね。

 きんつばのレシピを確認した時に書いてあったんだけど、冷めて衣のモチモチ感が無くなったら、油で揚げると良いってあってさ。

 こんな事を口走ったわけですよ裁判長。

 その後? もうどうなったか分かるよね?


「……確かに食感が変わるな」

「モチモチなのも美味しかったですけど、こうカリカリしたのも美味しいですわね」

「油で揚げた事でなお甘さが際立ったように思える。火を通せば通すほど甘みが増すのかもしれない」

「この料理なら向こうでも再現は容易いだろう?」


 まぁ、揚げますよね、そりゃあ。

 好評だし良かったけどさ。


「カケル、確認だが、塩茹でにして潰しただけなのだな?」

「あ、はい。潰す時に塩と砂糖は入れましたけど、ほぼほぼ野菜の甘みですね」

「向こうで再現してみてどうか、と言ったところだが、この味が再現出来るならマンドラゴラの倭種はデザートに使えることになる」


 ……ん? 今マンドラゴラの倭種って言ったか?


「倭種なんですか?」

「渡す時に言っただろう? いくつか見たことが無いマンドラゴラがいる、と」


 言われたっけ? 言われたような気がする。

 てっきり珍しいマンドラゴラかと思ったけど、まさかそれが倭種の事だったとは。

 いや、珍しい事には変わりないんだろうけども。


「てことは……」

「このきんつばに使われているマンドラゴラは両方とも倭種だ」

「なるほど」


 そうなるか。

 どうりで馴染みのある見た目だと思ったんだよな。

 異世界でサツマイモとか、不思議に思うべきだったんだわ。

 ……カボチャは正直、倭種とか言われても違和感あるけど。


「ふぅ。何だかんだ、マンドラゴラ尽くしの料理を楽しんだのぅ」

「デザートまでマンドラゴラで、大満足でしたわ!」

「正直、今日でマンドラゴラに対する見方が変わったように思う」

「ご馳走さまでした。さ、カケル、持ち帰りの料理を始めよう」


 てなわけで、みんなしっかり食べきりまして、ご馳走様。

 ……で、張り切ってるところ悪いんだけどラベンドラさん、持ち帰りの料理はドライカレーサンドなわけでして……。

 やってもらう事……目玉焼きを作るだけなんだけど……大丈夫そ?

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