第106話 秘中の秘
豚丼。
豚肉を具にさえすれば、その名を冠することが出来るどんぶり飯。
人によっては、牛丼みたいに玉ねぎと一緒に煮込んでみたり、豚肉の照り焼きを乗っけてみたり。
というわけで今回の料理、当たり前に普通の豚丼にはしません。
ただし、する工程は焼く事だけ。
つまりどういうことかと言うとですね……。
「カケル、そのタレは?」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくださいました」
ラベンドラさんが尋ねた、俺の手にあるこのタレこそ!
スーパーで見かけたうなぎのかば焼きに使うタレ!!
極論、これさえあれば飯が食えるモノの筆頭候補!
タマゴかけごはんに使うと宇宙が見える、そんな美味しいの権化とも言えるタレ!!
こいつを! ブタニクタカメウマメに絡めて焼く!!
美味いだろ! こんなの!! 終わり!! 閉廷!!
「こいつこそ、俺たちの国の最終兵器と言っても過言ではないタレになります」
多分過言だけど。
でも、このうなぎのタレは他の国には真似できない味だと思うよ。
うなぎ食う度に思うもん。
日本に産まれて良かったって。
「そ、そこまでか……」
というわけで、ラベンドラさんにはみんなより先に味わってもらいましょう。
ほんの少し手の甲に垂らし、タレをペロリ。
――その時、ラベンドラに電流走る。
「なんだこの……なんだ!?」
あ、語彙が……。
ラベンドラさん――もういい! 休め!!
「甘み、うま味、香ばしさ、塩味。そのどれものバランスが良く、鼻に抜ける香りも華やか」
何が入っているんだ? と目を見開いて、タレの成分表を凝視するラベンドラさん。
「大体、この香ばしさはなんだ?」
香ばしさ……? 多分、うなぎの骨を焼いてダシ取ってるからじゃないですかね?
いや、市販のうなぎのタレに入っているかは知らんけど。
何なら、それっぽいもの入れてるだけかもだけど。
「このタレで、あの肉を焼くのか?」
「はい、そのつもりです」
あの肉ってブタニクタカメウマメの事だよな?
何かまずかったか?
「間違いなく、とんでもない美味しさに仕上がるだろうな」
「でしょうね」
そう言う事か、ちょっとびっくりしたよ。
というわけで早速調理へ。
ややぶ厚めに切ったブタニクタカメウマメを焼いて、火が通ったらうなぎのタレをかけて絡めて完成!
……簡単すぎる。
肉の厚さはしょうが焼きを作る時よりもぶ厚く。
普通の豚肉だと噛み切るのが大変な厚さだけど、ブタニクタカメウマメはそんな心配ナッシング。
どんな厚さだろうが歯が当たったらそこから解れて肉汁に変わる。
じゃあ分厚い方が得じゃん、って事で、この厚さ。
「じゃあ、お任せしますね」
「ああ」
もうキッチンに立つ姿が様になっているラベンドラさんに肉を任せ、俺は漬物とみそ汁の用意。
漬物はスーパーで買った奴だし、みそ汁もいつも通りインスタントだけども。
極限まで楽させてもらうぞ……。
「今日の漬物も、これまでと違うのぅ」
「今日ははりはり漬けって名前の漬物ですよ」
本日の漬物ははりはり漬け。
切り干し大根を核に、塩昆布やら色々と混ぜられたこの漬物。
結構好きなんだよなぁ。……過去に自作してた事がある位には。
結局切り干し大根さえ用意出来ればそこまで大変なものでも無いし、切り干し大根はスーパーに売ってるし。
ベストオブはりはり漬けを見つけるまで、毎食と言っていいほど作っては食べてたな……。
「見た目もこれまでの物と異なりますわね」
「というか、漬物と言うだけで一体何種類あるんだ? ほとんど同じ漬物が出てきてないぞ?」
マジャリスさん、驚くだろうなぁ。
日本には、ご飯の漬物すら存在するとか知ったら。
一般的なものじゃなく、限られた地域でしか食べられてないみたいだけども。
「む? 爆発的にいい匂いが漂ってきたぞい?」
鼻をふごふごと鳴らしたガブロさんが言うように、部屋の中に美味しい匂いが充満。
ははーん、さてはラベンドラさんがタレを入れたな。
じゃあ、俺もちょっと焼き物に入るか。
「ちょっと隣失礼します」
「ん? 構わないが……まだ何か作るのか?」
ラベンドラさんの脇にフライパンを持ってはいれば、他にも何かを作るのか? という質問が。
もちろん作りますよ~。
……と言っても、そんな大したものじゃないけども。
「丼の上に目玉焼きを乗せます」
肉には絶対的に卵が合う。古事記にもそう書かれている。
なので、今日の豚丼には目玉焼きがオプションで付きます。
もちろん、黄身が半熟のやつ。
というわけでフライパンを熱し、サラダ油を引いて。
人数分の卵を割り入れ、中火。
白身が固まってきたところに水をぶち込み、湯気を発生させたらすかさず蓋。
これで火を消してしばらく放置すれば、片面焼きでも白身がしっかり固まった目玉焼きになるって寸法よ。
……両面焼き、苦手なのよ。ひっくり返す時に黄身が破けるし、火を通し過ぎて黄身が固まるし。
そんなわけでこの半蒸し焼き? みたいなやり方が、俺の中では主流ってわけ。
「焼けたぞ」
「こっちもOKです」
というわけでラベンドラさんの完成に合わせて目玉焼き、完成。
息ピッタリですわね。
そしたらどんぶりにご飯を盛り、肉を乗せ。
目玉焼きを、黄身が破れないように慎重に乗せて、完成!
豚丼にみそ汁漬物付き!
……腹減った、早く食べよう。
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