第378話 ナンでも美味い

 あー……包みピザにするなら揚げた方が良かったかも。

 揚げピザも好きなんだよなぁ。


「確かに見た目は違うし、これをピザとは声高に主張出来ないだろう」

「俺らの世界では当たり前に分類はピザですけどね」


 で、焼き上がった包みピザなんですけど……不味いはずある?

 ないよね。

 

「これは生地が薄い方が美味いな」

「生地が厚過ぎると具材に届く前に口が一杯になってしまいますわ」


 包みピザを一口食べ、従来のピザとの違いを比べ始めるエルフ達。


「噛んだ瞬間に中からチーズが溢れてくるのが最高じゃな」

「包むからか食材の香りが閉じ込められているような感じがするな」


 ワインを片手に食べているからか、口がよく回りますわ。

 いや、この人らはこれが平常運転か。


「これもクレープみたいに甘いものを乗せても美味しいでしょうね」


 デザートピザなんてもちろんあるわけで、それを包みピザにしても美味しいよね? って俺は確認のつもりだったんだ。

 けど、


「ピザに……甘いものを?」

「デザートのピザと言う事ですの?」


 この人達、ピザ=トマトソースに野菜と肉の世界の住人だったわ。

 そりゃあ衝撃かもしれん。


「例えば?」

「手軽なのだと、チーズとはちみつとかですかね? 後はブルーベリージャムなんかを乗せる奴もあります」


 とりあえずパッと思いついたものを挙げてみたけど、最近はデザートピザも結構な種類があるからなぁ。

 リンゴとカスタードのピザとか、チョコとマシュマロとかもあったな。


「ちなみに今日、その用意は……?」

「? デザートはクレープですよね?」


 今思いついたのに用意とかしてるわけ無いでしょ。

 俺は末来視も持ってなけりゃあエスパーでもないんよ。


「……くっ」


 ラベンドラさん、ドラゴンエプロンの裾握りしめちゃってるよ。

 しょうがないなぁ……。


「レシピを渡すので、向こうの世界で作ってください」

「助かる……」


 まぁ、これ位はね。

 レシピ渡すって言っても、ネットで調べてラベンドラさんに写してもらうだけだけど。


「あと、包みピザの派生で油で揚げるピザもありますよ?」


 ついでだしこっちも教えとこう。

 一時ハマってた時期があるんだよね、揚げピザ。

 職場の近くに移動販売車が来ててさ。

 昼飯を揚げピザにしてたもんだ。

 最近来なくなったんだよな……。


「包むというより畳むって感じにして油で揚げて……」

「そうすると外側はカリカリとした食感になるか?」

「なりますね。外はカリカリ、中はモチモチで、そこからトマトソースやチーズがトロリと流れてくるんです」

「ゴクリ」


 なんでこの人達は当たり前に飯食いながら他の飯で喉を鳴らせるんだ?

 今似たような料理を食べてるでしょ。


「カケルが挙げる料理はどれも美味そうだ」

「想像を駆り立てる料理ばかりだしな」

「さらに発展の余地が多数あるのがいい。あらゆるアレンジがされることを考慮して料理を考案しているとしか思えん」


 なんて言いつつ、包みピザを完食。

 これきっとあれだよね。

 たこ焼きみたく、異世界でも流行りそうだなぁ。

 

「さて、一応はこれで用意したピザを焼き終えた」

「何!? まだまだ全然足りんぞ!?」

「最後まで聞け。だが、カケルが用意してくれた生地はまだある」

「……つまり?」

「好きな具材を言え。即席でお好みピザを作ってやる」

「シーフード!!」

「トマトチーズバジル! 包みで!!」

「肉とチーズだけのピザをお願いしますわ! ソースはあの甘辛いソースで!!」


 で、ラベンドラさんと作りながら話してたんだけど。

 折角だし、こうした方がいいよねって事で、あえてトッピングが決まったピザを三枚にして、足りない分は各自でトッピングできるようにしてみたよ。

 何故三枚か、それは俺が余裕をもって食べられる量であり、更には俺もお好みトッピングピザを食べるため。

 ……だったんだけどねぇ。

 包みピザの登場で、俺の考えは脆くも崩れ去ったわけですよ。

 いや、全然美味しかったし、俺もお好みピザではシーフードを頼むつもりだったんだけどね?

 ふぅ……、ちょっと休憩。


「包みピザは軽食にいいな」

「片手で食べられて移動中でも食べられる。町の出入り口付近で売れば、売り上げは上がりそうだ」

「揚げピザというのも試したい」

「油も最近では手に入りやすくなりましたものね」

「褒めていいぞ」


 ……?

 なんでマジャリスさんが胸を張っているんだろう?

 まぁいいや、ほっとこう。


「ちなみにカケルはもういいのか?」

「もうデザート分しかお腹のスペースが空いて無いです」

「そうか」


 ラベンドラさんに気にかけて貰ったけど、大丈夫ですよ。

 ……食べなくては大丈夫なんですけどね?

 出来れば、やっぱり俺を見つめてるゴーレムはどうにかして欲しいなって。


「のぅ、カケル」

「どうしました?」

「わしが喜ぶようなトッピングはないか?」


 ゴーレムの視線をどうしようか考えてたら、ガブロさんからそんな言葉が。

 う~ん……ガブロさんが喜ぶようなトッピング……ねぇ。


「ちょっと待っててもらえます?」

「ほいきた」


 じゃあ、まずは冷蔵庫に走りまして。

 買ってて良かったあらびきソーセージを掴んで戻り。

 ピザ生地にチリソース、トマトソース、ソーセージを中央に寄せてトッピング。

 仕上げにブラックペッパーとチーズをたっぷり乗せたら半分に折り畳み。

 簡易ピザドッグとでも言うような料理が完成。

 後はラベンドラさんに焼いてもらいましてっと。


「ガブロさん」

「なんじゃい?」

「ビールはありませんからね?」


 ソワソワと、焼き上がりを待つガブロさんに。

 どうせ一口食べたら聞かれるであろうことを、先手を打って潰しておくのだった。

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