第282話 ほぼ斬鉄剣
「で、なんでまた自分呼びだされたっすか?」
やや不機嫌そうに。
それでも素直に『夢幻泡影』の呼び出しに応じたアエロスは。
聞かれたくない話がある、という事で現在、それなりに値の張る宿屋の一室を確保し。
そこで『夢幻泡影』と相対していた。
……テーブルに乗せられた、見たことも無いようなパンの数々を挟んで。
「そう不機嫌になるな。こうして対価として食事を振舞っているだろう?」
「そのせいで自分、色んな方面にとんでもなく追及されてるっすけどね」
メロンパンを手に取り、アエロスに勧めてくるラベンドラに。
アエロスはジト目で返す。
そんな後ろでは……。
「チョココロネの美味さったらぁない!!」
「やはりクロワッサンが一番ですわ!!」
「このソーセージとエールの相性が最高じゃわい!!」
三人が、二人の事など無視してパンを貪っているが。
「はぁ……いただくっす」
もはや諦めの域に入り、メロンパンを受け取って食べたアエロスは。
「!!?」
一口食べた瞬間、目を見開き。
「うめぇっす!! パン、フワフワで! でも、外側カリカリで!!」
「ここにあるパンのレシピは覚えてきた」
「てことは教えて貰えるんすね!?」
「無論。だが、教える代わりに一つ頼まれごとをしてくれないか?」
「なんすか!?」
口の周りをメロンパンのパンくずで汚し。
キラキラした目でラベンドラにずいっと迫ったアエロスは。
「このレシピを……酒造ギルドに届けてくれ」
特大の爆弾を渡されたことに、この時はまだ、可哀そうな事に気が付いていなかった。
*
……うん?
朝起きて、リビングに行ったらさ。
テーブルの上に包丁が聳え立ってた。
そんな経験はあるだろうか?
あってたまるか!!
そういやそうだったね、包丁研いでってお願いしてたね。ガブロさん、もう研いで送ってくれたのか。
お仕事速いね。
「手紙?」
あと、包丁が聳え立ってたインパクトで気付かなかったけど、包丁の脇には手紙が添えられてた。
……とても嫌な予感。
弁当の時みたく、過剰な能力付与とかされてたらどうしよう。
こう、風圧だけで食材切れる、とか。
なんて思い恐る恐る手紙を読んでみると……。
「…………しゃいっ!!」
思わずガッツポーズ。
手紙の内容はトキシラズに関することで、凄く要約すると生でも食える、という話だった。
なんでもこのトキシラズ、過去や未来へ泳いでいけるとかいうよく分からん特性を持っているらしく、その特性のせいで呪いや状態異常の一切が効かないそう。
それは自分自身の呪いも効かないらしく、生でも安心して食べられる……らしい。
「生でもいけるならマリネとか、イクラの醤油漬け買って来て海鮮親子丼とかも出来るじゃん!」
って、声に出して確認してたら。
ガタン、と姉貴の部屋から物音が。
……まさかな。
「マリネ」
……。
「イクラの醤油漬け」
……カタッ。
「海鮮親子丼」
……ガタンッ!!
なるほど、海鮮親子丼に反応したのか。
「炙って炙りサーモン丼とか」
ガタッ! ドタバタタッタッタッタ……。
「今美味しそうな話した!?」
えー、姉貴、起床です。
俺この人と血が繋がってると思われたくねぇなぁ……。
「貰った鮭さ」
「うん」
「生で食えるって」
「マジ?」
「まじ。……今すぐにイクラの醤油漬けの手配を」
「らじゃ。即日発送のサイトはいくつか見つけてるから片っ端から送らせる」
「あの人らにも海鮮親子丼食べて貰おう」
「あたまえ」
でもまぁ、この時の動きの早さは尊敬するよ、うん。
「にしても今まで生で食べられる異世界食材ってあった?」
「無かった」
「だよね。どうしてまた急に?」
と、当然の疑問を持ったので、送られてきた手紙を読ませてみる。
「はぇー、不思議生物なんだねぇ異世界鮭って」
「かなりランク高いっぽいし、というかそもそも過去や未来に行けるこいつをどうやって倒したんだって話ではあるけどね」
「リリウムさんがなんやかんややったんじゃない?」
まぁ、うん。
だろうね。
……んで、本題なんだけどさ。
包丁、どうなっちゃったかなぁ。
手紙には包丁の事一切触れられてなかったんだよね。
いきなり実践するの怖いなぁ……。
「翔、朝ご飯」
「何がいい?」
「買って来た食パン切って、サーモンとマヨネーズ乗せて焼いて」
「りょ。……普通に美味そう」
「あ、チーズも乗っけてね」
そんな俺の思いは露知らず、今日の朝ご飯をオーダーする姉貴。
美味しそうだし俺もそれにしよ。
まずはパン、か。
研がれた包丁の最初の相手は食パンになります。
いざ……!!
「……普通」
特に変なところも無く、スッと食パンが切れました。
以上、終わり、閉廷。
あっれぇ? あの四人が関わったものがこんなまともなはずが……。
絶対なんか変な機能付いてるはず……。
そう思いながらトキシラズをスライスするも、こちらも特に変なところも無く。
結局そのまま姉貴の言った通りのレシピで朝ごはんを作った。
けど……怖ひ。
得体が知れない包丁ってだけで怖ひ。
四人が来たらどんな包丁なのか絶対確認したろ。
*
「ガブロ」
「なんじゃい?」
「カケルの包丁なのだが、あれだけで良かったのか?」
「わしらみたく解体に使わんのならアレ程度で十分じゃわい」
「そうか……」
「『どんな食材でも同じように切れる』効果さえありゃあ、骨でも身でも楽に切れるってもんじゃろうて」
「……そうだな」
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