第342話 早口の外国人歌手も大好き
さて、ここで問題です。
俺は旬の物をデザートに用意すると四人に伝えました。
では、今日用意したのは何でしょうか?
シンキングタイムは二秒です。
答えは巨峰。
前に七色果実酒の時に、秋になったら食べさせるって言ってたからね。
有言実行。翔君は約束を違えないのだ。
そうそう、巨峰の発祥は福岡県ですって。意外だよね。山梨とかかと思ってたわ。
「今日のデザートはフルーツか」
「かなり大きなブドウじゃな」
冷蔵庫から取り出したら、巨峰を見たマジャリスさんとガブロさんが反応したよ。
まぁ、巨って漢字使ってるぐらいだし、そりゃあ大きいよね。
「実が大きいと大味になりませんこと?」
「カケルが用意したフルーツだ。食べてみよう」
というわけで早速実食タイム。
ケーキとかと違って説明の必要が無いから早いわね。
「むぉ!? 実はしっかりとしとるが蜜のように甘いぞ!?」
「とろけるような甘さですわぁ!」
「濃い甘さの中に程よい渋味。これは美味い」
「種! 種を持って帰ろう!!」
ちなみにこの人達、皮ごと食ってる。
日本人は皮食べないよね。でも海外の人って結構皮ごと行くみたいよ?
この四人もそれに漏れずって感じ。
……俺? はは、やだなぁ。
ちゃんと事前に皮を剥いて、実だけにして食べますよ。
爪の間に紫の色素が溜まるんだよね。
「む、皮は食わんのか」
「あまり食べる習慣は無いですね」
「美味しいですのに。というか、皮を剥く時間を待つ自信がありませんわ」
「そうなんでも種を持ち込むものでも無い! 第一、スイカですらあのような狂暴性があったんだぞ!? このブドウもどうなるか分からん!!」
「分からないからこそ試すんだろうが!!」
マジャリスさんとラベンドラさんは無視でいいかな。
巨峰……育つのかね、異世界で。
ていうかみんな食べるペース速いな。
「どうしましょう。いくらでも入りますわ!!」
「一つの実で満足感が凄い。粒の大きさは正義じゃな」
「濃い甘さの中に酸味や渋味が隠れているのがいい。甘さ一辺倒では飽きが来るが、このブドウは飽きがこない」
「これでワインを作ったらどうなるのだろうな」
「贅沢で濃厚な厚みのあるワインになるでしょうね」
「従来のワインより少ない粒の量で作れるじゃろうな」
「やはり持って帰ってマンドラゴラ化を……」
好き勝手言ってるなぁ。
あ、一房食べ終えたみたいなんでお代わりだしますね。
本日は4房程買って来たので。
(ちょっといいか?)
お、神様からの交信だ。
お供え物に巨峰を追加ですかね?
(それもある。が、こちらの世界に持ち込むのは辞めるよう言うてくれるか?)
ご自身で言えばいいのでは? 俺の口から伝えるより、神様から直接伝えた方がいいと思いますけど……。
(いや、それがのぅ。あまり奴らに干渉し過ぎると、神として示しがつかんのじゃ。かと言ってそっちの国の神様たちから今絶賛睨まれとる最中での)
神様って大変そうだなぁ……。
まぁ、言いますけどね。
「あー、神様が持ち込むのはダメだって言ってますね」
「む、何故だろう。スイカの時は特に言われなかったはずだが……」
だそうですよ。理由はどうするんですか?
(こちらの世界のブドウを持ち込まれると、わしが干渉出来んのじゃよ。そのブドウで作られたワインに)
……嘘やん。
(マジじゃ。だから割と死活問題なんじゃ)
でもさっき、こっちの世界の神に睨まれてるとかなんとか……。
(もちろんそれもある。じゃがわしとしてはワインの方が……)
はいはい。まぁ、流石にそれを直接伝える訳にもいかないだろうし……。
う~ん――。
「こちらの世界のブドウって言うのが、神様の管轄から外れちゃうらしくて。それが広まると、様々なものが神様の手から離れて行っちゃうみたいです」
「……なるほど?」
「そうなると、世界の均衡がどんどん崩れていっちゃうみたいで……」
「ブドウで崩壊する世界、というのは見たくありませんわね」
「そういう事なら仕方ないな。マジャリス、諦めろ」
「……分かった」
これでいいですか神様?
(感謝するぞい。ちなみに割とマジで起こり得る未来じゃったから、全然笑えんわい)
……やだなぁ、異世界からブドウを持ち込んだら滅びました、なんて。
創作でそんな結末迎える物語あったら爆笑するわ。
(だから笑えんて)
「ちなみにカケル、このブドウを使ったワインはあるのか?」
「あります。というかもう味わってますよ?」
「? ……もしかしてあのお酒で作ったゼリー!?」
「ですです。あれが巨峰ワインです」
七色の果実酒ゼリー。その紫担当が巨峰のワインだった。
てことは既にそのワインはみんな飲んでるんだよなぁ。
(あー……それなんじゃが――)
「あれは持ち帰る時に神様から全て徴収されたからな。我々の口にはゼリーとしてしか入ってないんだ」
……神様?
(いや、違うんじゃよ。あれはな……)
美味しかったです?
(もう最高じゃった!)
…………。
(申し訳ないように思う)
――いや、申し訳ないと思ってくれ……。
申し訳ないように思うのは全然反省してないんよ。
「近々仕入れときます……」
「すまない、恩に着る」
「神様、きっと今頃味を思い出しているのでしょうね」
味は……思い出してましたね。
あと、姿見えないけど多分小さくなってるよ。
申し訳なくて。
「ふぅ。十分に堪能した」
「シロップと言われても納得するほどの甘さでしたわ!」
「これが旬のフルーツというものか」
「明日以降も期待が高まるな!!」
というわけで三房の巨峰を奇麗に食べ終わり。
全員でお茶を飲み干して。
「よし、カケル。この世界でウニクリームパスタのソースだけを作らせてくれ」
「構いませんよ。それが持ち帰りという事ですね?」
「そうだ。こちらの世界の材料の方が圧倒的に美味しく仕上がるからな。これならばマジャリスも文句は無いだろう?」
「……別に、今までラベンドラの料理に文句を言った事は無いと思うが……」
帰る前に、パスタのソースだけ作ることに。
このやりとりの後、しばらくマジャリスさんの口がとんがっていたけど……。
あれは心当たりあったんだろうなぁ。料理に文句を言った。
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