第209話 贅沢朝食
さぁて、上手くやったかなぁ、ラベンドラさん達。
一応説明したし、動画も見せはしたけど……。
美味しく食べられてるかなぁ、ひつまぶし。
「順番、間違えてないと良いけど」
なんて心配しながら、俺用の出汁を温める。
本当はひつまぶし食べたいんだけどね。
流石に朝から三杯も食べらんないという事で、俺は出汁茶漬けだけを頂くことにした。
いやぁ、朝から鰻――じゃないけどそれに近いものを食べられるってのは贅沢の極みだねぇ。
出汁も普段じゃやんないくらいのを作ったし。
ラベンドラさんに鰹節を削ってもらい、その間に昆布を水に浸して戻しまして。
昆布を浸してた水をそのまま鍋に入れ、火にかけて。
昆布は沸騰直前に取り出し、沸騰したらぬめりを取り。
削って貰った鰹節を全部入れ、ついでにいつぞや使ったトビウオだし――あごだしも入れまして。
最後に香りつけに醤油をサッと一回ししたら、それを漉して完成。
もう匂いから美味いお出汁が出来ましたよっと。
そしたら、おにぎりにして冷蔵庫に入れておいたウマイウナギマガイ入りのかば焼きおにぎりを電子レンジでチン。
その間に出汁を火にかけて温めなおし、丼にチンが終わったおにぎりを入れましてっと。
刻み海苔、あられ、いりごま、ワサビと欲しいものを全部入れていって。
「香りが全日本人を喜ばせるソレなんよ」
湯気が昇る程に熱くなった出汁を、ワサビにかけないように回しかけ。
おにぎりをほぐし、中のウマイウナギマガイを露出させて完成!
ご機嫌すぎる朝食だぜ。
「いただきます」
気分は最高、その状態で、やけどをしないようにそっと一口。
「うっま。そりゃそうだろうけどうっま」
しっかりとタレとウマイウナギマガイの脂を吸ったご飯をさ。
最高のお出汁が包み込んで口に届けてくれるんだ。
かつおと昆布の黄金出汁に加えられた、あごだしのシャープなうま味。
そこに加わる醤油の香りが、これまた一段とうま味を引き立てる。
タレに対して全く負けてないこの出汁は、それでも味が濃いというわけではない。
ギュッとうま味が凝縮されて、それがうま味を感じる舌の部分にダイレクトで届けられてる感じ。
幹部に止まってすぐ溶ける……違うな。忘れていい。
「また身と合うんだ」
箸でほぐしたウマイウナギマガイの身に、ワサビをちょっとだけ乗せまして。
それを口に含んだ後、ご飯と出汁とを口の中に掻っ込めば、もう口の中はパラダイス。
脂っぽさもワサビで消えるし、出汁は美味いしタレも美味い。
ごまの風味は醤油の風味と手を組んで、ズッ友よろしく鼻を目指すし。
海苔の風味も素晴らしい。
あと、あられね。ポリポリと歯ごたえのあるあられは、マジで良いアクセント。
こんな美味い物朝から食って、罰当たらないか心配だわ。
……たくあんあったな、欲しい。
「あと緑茶……いや、玄米茶だな」
ついでに玄米茶も追加して、お茶漬け食べて、たくあんポリポリ。
玄米茶でホッと一息ついて、またお茶漬け。
おいおいおい、美味すぎるわ。
どっかの高級旅館の朝かよ。
「四人も成功してると良いけど」
出汁の一滴のお残しも無く、しっかり完食玄米茶完飲。
過去最高のコンディションかもしれない。
それじゃあ、労働にでも渋々行きますかね。
*
「なんっっっっすかこれ!! 美味すぎるっす!! 最高っす!! べらうめぇっす!!!」
「ホワイトサーペントの最高な食い方を見つけてしまったようだ」
「ほんと、あの人は一体いくつこんなレシピを隠しているのかしら!?」
「もっと!! もっとだ!!」
「ここまで来るともはや呆れるわい」
翔が心配するその別世界で、ひつまぶしを食べた『夢幻泡影』の四人とアエロスは。
その美味しさに絶叫。
アエロスがよく分からない方言で美味いと絶叫するし、ラベンドラは出汁茶漬けこそホワイトサーペントを最も美味しく食べる調理法だと認定。
リリウムは翔の……と言うよりは現代のレシピに興味が尽きず、マジャリスはずっと掻っ込んでいる始末。
唯一落ち着いているガブロも、落ち着いているというよりは、理解の範疇を越えたせいで反応がおかしくなっている様子であり。
「ちょ!? この!! このレシピは!!!」
「落ち着け! 慌てるな!! ちゃんと公開する!!」
「是非うちの紙面に!! ギルド新聞に掲載させて欲しいっす!!」
「分かった! 分かったから足に縋るな!!!」
なんとしてもギルド新聞に掲載させたいアエロスが、ラベンドラの足にしがみ付いて物乞いを開始。
もとよりそのつもりで振舞ったラベンドラから了承を得ると、すぐさま席に戻って食事に戻る。
「にしても、このタレも美味いっすけど、このスープっすね。これ、何が入ってるっす?」
異世界の料理しか知らないアエロスからしたら、珍しいことこの上ない出汁という概念。
しかもそれが、
「魚から水分を抜き、しっかりと干した物から煮出した物だ」
「魚っすか!?」
これまた自分の知る用途と違う使われ方をした食材からだと言うのだから、驚きも二乗。
「魚からこんな繊細な味が出るっすか」
「無論全部ではないがな。そうそう、魔物の種類によって微妙に味が異なるぞ?」
「……それって、店ごとにオリジナルのスープが創り出せるって事っすけど?」
「そうじゃぞ? と言うかこのスープも、三種類の魔物から煮出したスープをかけ合わせとる」
作り方を見ていたガブロが説明に加わり、アエロスが目を白黒させ。
「海で獲れる魔物の需要は確実に上がるだろうし、そのスープを別の料理にもいかせるだろうな」
そこに追撃として、誰よりも先に完食したマジャリスが口を挟み。
「物凄い競争になるでしょうね。あ、新聞に掲載するより先に、王へレシピを献上しなさいな。私たちは忙しいからと、あなたに預けたことにしますわ」
更にはリリウムから、半強制的に王への献上を頼まれて。
「あ、アハ、アハハハ」
このレシピを公開するまでにしなければならない事、そして、公開した結果、あらゆる町のあらゆる飲食店で発生するであろう切磋琢磨の腕磨きを想像し。
アエロスは、思考を放棄して、残った出汁茶漬けを平らげるのだった。
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