第317話 ふとした閃き
「……待たせたか?」
「いえいえ」
魔法陣から出てきたラベンドラさんが、俺の顔を見るなりそんな事を言って来た。
そんなに待ってたのが顔に出てたかなぁ? 反省。
「それで? 今日の料理は?」
「マリネとスープ、後はパイを焼きます」
「今から作ると時間がかかりませんこと?」
「なので時間がかかりそうなのは先にある程度終わらせてますよ」
そこら辺は抜かりないって。
任せなさいな。
「私は何から手を付ければいい?」
「スープをお願いします」
当初の予定通り、ビスクをラベンドラさんに丸投げする。
一応、作り方の指示は出すけどね?
「まずは野菜を刻んで、オリーブオイルで炒めていきます」
「分かった」
手渡した野菜は玉ねぎ、セロリ、そしてニンニク。
炒め終わるまでに俺はマリネの準備。
まずはシャコナリケリを塩茹でにしまして~。
「そう言えばなんですけど」
「む?」
「揚げると爆発したって言ってたじゃないですか?」
「そうだ。油を吸い上げて急に爆ぜた」
「どれくらいの油までなら大丈夫なんですかね?」
「……分からん。が、俺の予想だが、身の体積以上の油に入れるとダメなのだと思う」
「……なるほど」
玉ねぎを薄切りにしながら、シャコナリケリが油に入れたら爆発した話を掘ってみる。
やっぱり揚げ物にはしたいじゃん? だから、何か出来る抜け道みたいなのが浮かばないかなぁと思ったんだけど……。
そもそも、油を吸い上げるから、炒めるとかも出来ないんじゃなかろうか。
中華系ほぼアウト説ない?
エビチャーハンとかめっちゃ作りたかったんだけど……。
「ちなみに野菜を炒めた後は?」
「こいつを適当な大きさに切って炒めます」
こいつってのはシャコナリケリね。
未だにこの人達になんて呼べば通じるか分からないからさ、向こうの食材。
必然、こいつとか、これとかって呼び方になっちゃうよね。
あ、薄切りし終わった玉ねぎは塩水に浸してしっかり水気を切りましてっと。
「分かった」
そう言えば、オリーブオイルも油だけど吸うのかな?
ちょっと鍋の中を確認……。
うん? 別にオリーブオイルは吸ってる様子なくない?
「ラベンドラさん?」
「? なんだ?」
「それ……油吸ってないですよね?」
「? 油? 植物のエキスだろう? これは」
「いやまぁ、植物から抽出はしてますけど……」
俺の感覚からしたらオリーブオイルは油なのよね。
オイルって付いてるし。
でも、どうやらラベンドラさん達には植物エキスみたいな翻訳のされ方だったらしい。
……てことはもしかして、植物油だったら吸わない説、ある?
「ちなみに、ラベンドラさんが油として使ったのはどんな油でした?」
「私が使った油? これを揚げるために使った、という事でいいのか?」
「ですです」
「あれは……魚の魔物から絞った油だったな」
あー……鯨油的な?
まぁ、聞く必要もないくらい動物性の油だなぁ。
ちょっと今夜、ラベンドラさんに実験を託してみるか。
菜種油……もっと言えばキャノーラ油。
これは植物性の油だから、ひょっとしたらシャコナリケリが吸わないかもしれない。
ただ、かもしれないのであって、確証はない。
そして、それを確かめる勇気は俺には無い。
というわけで丸投げしちゃえと考えたわけですよ。
「後でお願いがあります」
「? 分かった」
多分今の時点では何も分かってないと思うけどね。
とりあえず塩茹でし終わったシャコナリケリを氷水で締め、その間にガブロさんのスモークトキシラズを薄切りにし。
ボウルにスライスした玉ねぎ、スモークトキシラズ、水気をしっかり切ったコシャコナリケリをぶち込んで。
オリーブオイル、レモン汁、薄口しょうゆに塩コショウ。
これらを入れてしっかり混ぜ合わせたら、冷蔵庫に入れて食べる前まで放置。
続いてパイの準備。
「火が通ったぞ」
「じゃあ、白ワインを入れて、水気が無くなるまでまた炒めてください」
白ワインって発した瞬間に背中に視線が突き刺さった気がするけど、無視だ無視。
「水気が無くなったら水と、このトマト缶、あとこの葉っぱを入れて、また水気を飛ばしてください。アクが出てくると思うのでそれらは取り除いて貰って」
「分かった」
トマト缶は既に切り開けているし、多分こんな説明で大丈夫なはず。
ちなみに淹れる葉っぱはローリエの葉ね。
香りつけ目的。
「よし」
で、俺は俺で気合を入れて、パイシート広げて準備しておいたシャコナリケリのグラタンを敷き詰めていく。
パイって言っても、あんまり大きくても焼けないから、こう……市販のアップルパイくらいのサイズ感で作ってみてる。
多分、俺はこれ二つとかで満足しそう。
たっぷりの具とチーズを乗せたら、もう一枚のパイシートを上から被せ、具の乗ってない端っこに卵黄を塗って、フォークで押してくっつけて完成。見た目ラビオリみたいだな。
あとはこれを可能な限り作って、焼くだけと。
今の内にオーブンも温めておくか。
「既に美味そうだ」
「目の前で料理されると、中々にクるものがありますわね……」
「バカは無視でいい。カケル、次は?」
バカて。普段一緒に冒険してるエルフ二人をバカて。
「葉っぱを取り出して貰って、フードプロセッサーにかけて……」
ここでふと思う。
漉すの勿体なくない? と。
こうビスク的にアウトなのかもしれんけど、俺の心の中のおばあちゃんが叫んでる。
『勿体ない』と。
まぁ、漉しても漉さなくても味に変わりはないだろうし、どちらかというと漉さずに残した方が食べた感じはするよね?
食いしん坊エルフ達だし、そっちの方がよさそう……。
誰かは分からないけどビスクを発明した人ごめんなさい。
たった今からこの家のビスクは漉さない事に決めました。
「滑らかにしたら完成ですね」
「なるほど。そちらはどうだ?」
「こっちも後は焼くだけですね」
「ならば、焼き上がる前にこちらも出来上がるように調整しよう」
という言葉に俺は頷き、パイをオーブンへ。
焼き上がりはおよそ十五分後。それでは……焼き上がるまでカット!
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