第318話 グランメゾン

「祭りか!?」


 違うけど。

 まぁ、マジャリスさんがそう言うのも無理はないよ。

 テーブルの上にはマリネ、ビスク、エビグラタンパイに焼いたバゲットがずらり。

 こう、何と言うか、フランス料理!! って感じ。

 

「どれもこれも美味しそうな見た目ですわね」

「香りも良い。香ばしさがずっと鼻腔をくすぐるわい」

「担当したのはスープだったが、新しいスープの作り方を見つけた」


 で、食べる前のトークタイム。

 ちなみになんだけど、パイって主食よね? 小麦粉だし。

 そこにバゲットを合わせていいものか迷ったけど、ビスクには絶対に合うじゃん?

 だから、炭水化物が二つになろうとお出ししてみた。

 お好み焼き定食とかこの国にもあるし、普通普通。


「では早速」

「「いただきます!!」」


 という事で声を合わせて宣言し、それぞれ思い思いの料理へ。

 俺とラベンドラさんはマリネへ。リリウムさんとガブロさんがビスク。

 そして、マジャリスさんがエビグラタンパイに手を伸ばした。


「サッパリとした酸味と身の甘さが最高だな」

「ガブロさんの作ったスモークトキシラズの香りも合わさって滅茶苦茶美味いですね!」


 マリネ、滅茶苦茶美味い。

 玉ねぎのシャキッとした食感と、レモン汁の酸味。これらが清涼感を与えてて。

 口に入れた瞬間に香るスモーキーな香りが、一気に奥行きを感じさせる。

 そこに来るシャコナリケリの甘みと、いくらの旨味。

 もう何回押し寄せるんだよってくらいの美味しい波が、何度も何度も押し寄せるんだ。

 乗るしかない、このビッグウェーブに!!


「とても濃厚で美味しいスープですわ!!」

「トマトの旨味と酸味、『――』の身の味と風味、そこに野菜の甘みとチーズのコクが融合し、これだけでメインを張れるほどの味わいになっとる」


 こちらはビスク組の感想ですね。

 ちなみにビスクは飲む直前、温め直した時にチーズを投入してある。

 エビにもトマトにも合うって事で、入れてみた。

 結果は大成功だったらしい。


「ちなみに、ビスクにバゲットを浸して食べると絶対に美味しいですよ」


 まぁ、大体のスープはそうだと思うけどね。

 スープはパンを浸して食うのが美味い。行儀が悪いかもしれないけど。


「それは……」

「絶対に美味しい奴ですわ!!」


 俺からその話を聞いた二人は、早速試してみて……。

 ザクッという心地よい音と共に、大きく上体を仰け反らせる。


「パンの香ばしさまで加わると、もう最高じゃな」

「スープはパンを浸すものと見つけたり、ですわ」


 リリウムさんはよく分からない事口走ってるけど……。

 まぁ、いつもの事か。

 さて? 静かなマジャリスさんはどったの?

 ……、まさか。

 一口食べた状態で固まってる……? 綺麗な顔してるだろ、嘘みたいだろ、口周りパイクズまみれなんだぜ、それで。


「そんな固まる程の衝撃か?」


 と、ラベンドラさんが声をかけたら、カッと目を見開いて。


「これ、ヤバいぞ」


 さよなら語彙力また来て四角。


「そうか」


 まぁ、ラベンドラさんに軽くあしらわれているんですけど。


「マジャリスがそうなる程の味わいか」

「気になりますわね!」


 で、そんな様子を見て、リリウムさんもガブロさんもパイを手に。

 もちろん俺もね。

 

「っ!?」

「これは……」

「……うま」


 一口食べて衝撃よ。

 マジャリスさんが動かなくなった理由もわかるかもしれん。

 まずね、もう大ぶりのシャコナリケリがパイ生地のザクッとした食感から飛び出してくるの。

 プリップリのその身に歯が当たれば、プツッと繊維がほぐれる様に切れていって。

 切れたらそこから濃厚なうま味の肉汁がジュワッと溢れてくる。

 それがパイに沁み込み、ホワイトソースと絡み合い。口の中でずっと躍っててくれるの。

 これやっばいよ。過去最高のエビグラタンパイが完成したわ。

 ……作ったの初めてなんですけどね?


「バターの香りもいい、絶対にワインと合うだろうな」

「白。確実に白が合う」

「軽さよりもしっかりとしたワインがいいですわね」

「あんまりカケルに要求をするでないわ」


 ガブロさんが俺の事を案じてる……と思うじゃん?

 一番ガブロさんが俺の方をチラチラ見てるんだぜ?

 どの口が言うんだどの口が。

 ……ま、買ってあるんですけどね?

 ヴェルディッキオってワイン。


「欲しがってるみたいなんで、ワインです」

「は?」


 いや、は? って。

 欲しがったでしょ、ワイン。


「飲んで……いいのか?」

「その為に買って来ましたからね」

「……この世界のワインを……」


 なんか驚いてるみたいだけど、ビスクにも白ワイン使ったし。

 べ、別に、あんた達の為に買って来たんだからね!!


「ちなみに買って来たのは、ちょっと強めの白ワインです」


 まぁ、俺にワインの知識は皆無だからな。

 これも全部俺が見てる動画投稿者の知識よ。

 普通のワインはアルコール度数12%とか10%前後らしいんだけどね?

 今回買って来たのは14.5%のワイン。つまり酔うって事。


「早速味わってもいいか?」

「どうぞどうぞ」


 というわけでグラスを用意。

 それぞれグラスに注ぎまして……。


「奇麗な色じゃな」

「香りもいい。柑橘の皮のニュアンスがある」


 色も香りも堪能し、いざ、白ワインの実飲!

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