第319話 神様憤怒

「とても……とても美味しいワインですわ」

「カケルの言った通り、しっかり強めのワインじゃな」

「酸味だけじゃなく、苦みもしっかりとある。こういうワインはそれだけで美味い」

「当たり前な魚介とかよりも、こうした濃厚な味付けの料理に合いそうだ」


 ワイン品評会見たくなってる。

 ちなみに俺はそのまま飲むとアルコール度数が高すぎるからと、勝手にカクテル作って飲んでるよ。

 白ワインに炭酸水を1:1。そこにレモン汁と氷を入れて混ぜて作るはスプリッツァー。

 白ワインハイボールとでも言えそうなそのカクテルは、まずスッキリしてて飲みやすい。

 まぁ、ワインに比べたら、だけどね。

 んで、加えたレモン汁がいい仕事するんですよ。

 さっぱりとした飲み口になるのよね。


「マリネの酸味が白ワインによって広がり、そこから顔を出すスモークトキシラズと『――』の旨味が一層膨らむようだ」

「ビスクの濃厚な風味がワインと混ざり合い、深みをもたらしていますわ!」

「サクサクのパイ生地、ソースの濃厚さ、『――』の身のうま味。全部がワインと最高のマリアージュじゃわい」

「今日の料理のどれにでも合う。そして単体で飲んでも美味い……。この世界のワイン――美味すぎる」


 料理と合わせてみても相性はバッチリ、と。

 俺も合わせよ。……エビグラタンパイだな。


「あー……最高」


 まず前提として、エビグラタンパイが美味い。

 とてつもなく。

 で、そこに流し込んだスプリッツァーのまずは弾ける炭酸。

 これで口の中にへばりついたような、シャコナリケリの肉汁やチーズのコクとかが洗い流されてさ。

 レモンとワインの酸味は、ホワイトソースとシャコナリケリの肉汁の甘さで中和され、最後に来る苦みが口の中での味わいの終わりを知らせる感じ。

 飲み込んだ後に尾を引くようなうま味は無くなるけど、口の中が滅茶苦茶サッパリする。

 次はビスク行くか。

 ――うめぇ。

 マジでうめぇ。

 トマトとチーズ、エビとトマト、エビとチーズ、それらとワイン。

 もう合わない要素皆無。逆にどうしたらこれらの材料でワインに合わない料理になる?

 それくらい合ってる。

 ワインとトマトの酸味、ワインとシャコナリケリの甘み、チーズとワインのコク。

 ビスクの中の全要素と手を取り合って、美味しさを押し上げていくじゃん。

 最高かよ。最高だったわ。


「カケルが飲んでいるのも美味しそうですわね」

「だがワインを薄めるんじゃろ? このワインを? 勿体なくないか?」

「だが、ワインと何かを混ぜるという発想は我々の世界には無い。味わうべきだと思うが?」


 なお、スプリッツァーに目を付けられた模様。

 いやまぁ、作るけどさ。


「ほぅ。グッと飲みやすく、さらにサッパリとした飲み口に」

「これなら多少酒が苦手なやつでも飲めそうだ」

「そこから湧き上がってくる泡が奇麗ですわ。見栄えもよろしいですわね」

「当然だがワイン本来の味は薄れるのが……」


 基本的にはスプリッツァーも好印象。

 ただ、やっぱりマジャリスさんはワイン本来の味を楽しみたいって。

 これに関してはマジで人それぞれだからね、しょうがないね。


「ワインとこのスプリッツァー? 両方で食べ合わせをするのが面白いな」

「自分の中でこれに合う、という組み合わせを探す楽しさ、ですわね」

「バゲットに染み込ませたスープと共に飲むワインが一番至高じゃて」

「マリネとのマリアージュが一番だろう?」


 ……やめな?

 何が一番とか、マジで人の味覚次第だから……。

 ナンバーワンにならなくていい、元々特別なオンリーワンって有名なフレーズ知らないのかよ。

 知らないだろうな。知ってたらびっくりするわ。


「ふぅ……とても満足ですわ」

「やはりこの世界のワインは美味い。はやく向こうの世界でもワインのクオリティが追い付いて欲しいものだ」

「そんなに違うんです?」

「なんと言うか、風味が弱かったり、ただアルコールが強いだけだったりするんじゃ」

「こちらの世界で飲んだワインは、そのどれもがワインとしてバランスが取れていてな。そのようなワインは、私たちの世界ではごく一部だ」

「それも、高級なワインに偏っていますの」


 異世界ワイン事情、正直俺には関係ないけど、興味はあるよね。

 逆にどんな出来なんだろうって。


「水よりも安く提供される、『全ワイン中最悪の出来』なんて呼ばれるワインもあるくらいじゃからな」


 ……ボージョレ・ヌーヴォーかな?

 あれ褒め言葉ばかりじゃないんだよね。過去最低の○○年を下回る出来、とか、上にも下にも色んな意味でバリエーションが豊かだったりする。

 そんな感じなのかな。


「高いワインにも、香辛料が混ぜられて風味も何もないようなものもありましたし」

「流石に国王が激怒して規制していたがな」

「香辛料もワインも勿体なかった。残念でもないし当然だろう」


 ……そんなのもあるのか。

 いや、多分だけど香辛料を混ぜるワインはあると思うのよ。

 香辛料の種類次第だけど。

 流石にカレー粉とか混ぜはしないと思うんだけど……もしかしてそういう感じの事をしたのか?


「カケル、時間だ」

「……はい?」


 マジャリスさんからいきなり宣言されたんだけど……。

 何の時間?


「デザート」

「あ、はい。すぐ持ってきますね」


 だと思ったけどさ。

 まぁいいや、さてさて、エルフの口に合いますかね、この世界のドーナツは。

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