第498話 海底に咲く花

 持ち帰りの商品はカニ餃子になります。

 ……餡だけ作って向こうで包むらしいけど。

 本当の予定だと違ったんだけど、どうしてもってラベンドラさんたっての希望でね。

 皮を買ってくれば俺も楽しめるから、多めに作っちゃう。


「焼き、よりは蒸し、や水餃子なんかのほうが合いそうだ」

「ですね」


 エビ餃子も蒸しのイメージあるしなぁ。

 そもそも本場中国では焼き餃子はそんなに作らないとかなんとか。

 あと、餃子は主食って認識だから皮が厚いとも。

 向こうでどんな餃子の皮にするかは分からんけど、こっちは普通に市販の餃子の皮を使うよ。

 ちなみに今回の餡は、ちゃんと宝石蟹の個体ごとに分けて作ります。

 クリーム煮の時みたく、七色にはしない。


「皮を作る時にラピスラズリ個体を溶かした油を混ぜたら美味いでしょうね」

「採用しよう」


 白菜、しいたけ、生姜、ネギ。

 お馴染みの餃子の具を切り刻み、叩いた宝石蟹の身と混ぜまして。


「うむ」


 満足気に頷くラベンドラさん。

 しかしまぁ、こうしてみると本当に七色だなぁって。

 あ、ボウルの個数が足りなかったから、三つ作ったら俺はラップに包み、ラベンドラさんは虚空へと保管。

 ボウルを洗って再度、と繰り返しました。

 俺がラップに包んだ餡を並べて言ってるだけね?

 流石に一般家庭の俺の家にはボウルは七個も無かったよ。

 

「カケル! 明日は楽しみにしておくからな!!」

「しっかりチョコレートを用意しておきますよ」

「果物などの用意も任せていいのか?」

「……モチロンデス」


 ある程度食材は持ち寄って貰いたいのは本音。

 たださ、牡蠣バナナの件がある以上、そう簡単に言えないんだよね。

 もうだいぶ牡蠣バナナは慣れたんよ。トラウマだけど。

 でも、じゃあ例えばマシュマロの見た目だけど食べたら中身入りの繭だったとか起きかねないじゃん?

 ……自由の国にはチョコをコーティングした蝉が売られてるとか聞くけど、絶対に俺は食べたくないし。

 というか、今までがほぼ奇跡的に見た目と味が乖離してないだけで、可能性としてはマジで無限大なわけで。

 まぁ、大人しくしておいてもろて。


「では!」

「向こうでワインを捧げておく。反応を聞いておいてくれ」

「任せてください」

「お邪魔しましたわ」


 という事で、魔法陣へと消えていく四人。

 ……さて、神様。


(ん? なんじゃ?)


 さっき四人が挙げてたワインの銘柄と魔物の素材、合いそうなのはあるんですか?


(こればっかりはわしも初めてじゃからなぁ。ある程度の予想は付くが、ある程度止まりじゃ)


 なるほど……。

 アテは生ハムとチーズでいいですか?


(ええんか!?)


 お酒だけで飲むより何かと合わせた方が味がよく分かるでしょう?

 ……知らんけど。


(それならトマトもぜひお願いしたいぞい)


 トマトとチーズと生ハムのカプレーゼでも作りますか。


(おお!!)


 ……明日。


(…………)


 材料無いんですもん。



「また潜るのか?」

「うむ。フローラパールを探す」

「あンな希少宝石、そうそう見つかンねぇぞ」


 異世界に戻り、ラベンドラはせっせと餃子の皮の仕込み中。

 暇なガブロ、リリウム、マジャリスと『無頼』は、異世界オリーブオイルの為に、フローラパールを探しに出かけ。

 向かったのは海。

 というのも、フローラパールは海底に咲く花の蜜が水圧により凝縮されたものであり、その花の養分は周囲に落ちてくる魔物の死骸。

 そんな花がたまに漁の網に引っ掛かり、引き上げられたものが、現在市場に出回っているフローラパールである。

 そして、そのフローラパールを狙って海底へとダイビングを行い、一攫千金を狙う者たちももちろん居るが。

 ……あまり成果は上がっていない。


「ほとんどのダイバーは魔法に長けておりませんもの。魔法で身体を防御出来ないから浅瀬の探索しか出来ない」

「だが我々は、防御魔法の重ね掛けでもっと深場の海底まで探索できる」

「見つかる確率は十分期待できる数値じゃと思うが?」


 なお、本来の肉体の強度で言えば、ドワーフであるガブロよりも『無頼』の方が高い。

 ……つまり、何故『無頼』を巻き込んだかというと……。


「と言う訳で魔法をかけますので行ってくださいますわね?」

「お、俺が!?」


 『無頼』に取りに行かせるためであり……。


「見つけたフローラパールは折半。仕事を終えたら、美味しい飯が待っているぞ」


 仕事に対する報酬と、さらに追加で美味い飯もプラス。

 ため息を吐き、頭をかいた『無頼』は。


「俺が嘘つかねぇ可能性は?」

「あら、私の眼が誤魔化せると思うのならば過少申告してみればよろしいのではなくて?」

「……なるほどな」


 そんなつもりは無いまでも、一応は三人を試すような発言をし、あっさりリリウムに返される。

 そして、


「この辺で一番深いのはこの方角、距離八百」

「面倒ですからいきなり深度二百からで構いませんわよね?」

「大丈夫じゃろ」

「ちょっと待て!!」


 マジャリスが地図を取り出し、周辺の海域から深度を割り出し。

 素潜りではなく、転移魔法によるいきなりの深度突入を実行され。

 異を唱えた時には、既に視界は暗闇へ。


(上がったら一発ぶん殴る)


 と心に決めた『無頼』は、魔法によって強化された視界を頼りに、海底を目指して進んでいく。

 ――そして、時を同じくし、周辺国の国王が集う会談が、静かに始まったのだった。

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