第82話 宝箱の謎

「そういや、貰った後に言うのもなんだけど、あんだけ宝石貰って大丈夫だった?」


 現在、オリーブオイルでじっくりと刻んだニンニクを炒め中。

 姉貴がリリウムさん達へ質問してた。


「今現在、私たちは高位のパーティと共同でダンジョンの攻略をしておりまして」

「そこで手に入れたものは山分けという事になっている。昨日渡した宝石も、そのダンジョンで手に入れた物たちだ」

「高難易度のダンジョンだけに、未開封の宝箱や未発見のミミックが多くて懐が潤うんじゃ」


 ほーん。

 やっぱり宝箱なんですね。

 にしても……ダンジョンの宝箱ってどうやってそうなったんだろ?

 魔物が人間にとっての宝をわざわざ箱に詰めたりするんかな?


「ミミックが多いと擬態するために宝箱を多く作りますし、本当に掘り出し物のようなダンジョンですわ」


 あ、なるほど。

 狩りの為に擬態してるミミックが作ってるんか。

 なんか腑に落ちたな。

 というわけでアンチョビを投入。ついでに刻み玉ねぎも。


「ん? 待って? ……てことは四人はダンジョン攻略中?」

「そうだぞ? それがどうかしたか?」

「いや、ダンジョンから抜け出してるんだなーって。ていうか、他のパーティと一緒に攻略してるのに姿消して大丈夫?」


 うん。思った。

 ていうか、流石姉貴。俺が疑問に思ったことを全部聞いてくれるじゃん。


「大丈夫だろう。向こうのパーティも似たようなことをしている」

「異世界に来てるって事です?」


 トマト缶を入れる前にここでカニミタイナカタマリを投入。

 炒めて香りと風味を強めていきまする。


「いや、そうではなくてな……」

「セーフゾーン、と呼ばれる空間を自ら作るんだ」


 俺の問いにラベンドラさんとマジャリスさんが反応。

 どうやら異世界には行かないらしい。


「魔物除けの結界と、気配遮断。あとは空調関係なども調整した、疑似的な魔法テントとでも思って貰いたい」

「一応、そういった効果があるテントも売っていたりするが、設営に時間が掛かるしの」

「魔法であれば詠唱するだけですもの。そちらの方がお手軽ですわ」


 なんてリリウムさんが言ったけど、俺は知ってる。

 リリウムさんの言うお手軽ってのは、あまり信用がならない事を。

 俺は詳しいんだ。


「とまぁ、こんな感じでパーティごとに独自の空間を作り出すから、我々のように異世界に赴いていても誰にも知られることはないという事さ」

「その場に居ないことがバレても地上に戻っていたと言えばいいだけですし、よもや異世界に行っていたなんて発想は出てきませんわ」


 まぁ、そりゃあそうか。

 ダンジョンの中から居なくなったら外に出たって普通思うわ。

 世界を出たとは思わんさね。


「カケル、そろそろ煮詰まってきたぞ」

「あ、はい。ありがとうございます」


 話に夢中になってたらソースの状態をラベンドラさんに教えて貰った。

 んじゃあここに生クリームとバターを入れて~。

 カニクリームソースの完成。

 コロッケの時と違い、トマトが入ってるから、その酸味でさっぱりといただけますわぞ~。


「この匂いじゃよな! あ~、腹が減ってくるわい!!」

「脳に直接訴えかけてくるんだ。美味しいぞ~、美味しいぞ~って」

「『――』の身の時も格別な美味しさでしたもの。今回も絶対に美味しいのでしょうね」

「愚弟ー? スープの準備しとくー?」


 異世界三人組が期待で胸を膨らませておられる。

 あと姉貴、ナイス気遣い。

 それぐらいは出来てもらわないと困るんだけどもね。


「よろしく。あー、でもクリーム系のスープしかなかったよね? クリームパスタとでクリーム被りになっちゃう」

「気にするのあんただけだっての。ポテトとベーコンのポタージュでよい?」

「よいよ」


 というわけで本日のご飯はカニミタイナカタマリクリームパスタとベーコンとポテトのポタージュです。

 ……色合いが足りんな。サラダも追加だ。

 生ハムも乗せてやろう。特別だぞ?


「というわけお待たせしました、いただきましょう」


 ちなみにドレッシングにはイタリアンドレッシングをご用意。

 生ハムが乗ったサラダはこれで食べるって決めてるの。

 

「むほほほほー!! 美味そうじゃあぁっ!!!」


 まるで食べたかのようなガブロさんのリアクションだけど、信じられるか? これ、まだ食ってないんだぜ?


「匂いも見た目も、全てが食欲をそそる」


 マジャリスさんもフォークとスプーンを持っていつでも食える体勢に。

 どんだけ待ち遠しかったんだよ。


「ズズー。……まぁ、このスープも美味しいですわよ? 滑らかな舌触りと香辛料の風味と刺激がたまりませんわ」


 リリウムさんを見習いなよ。

 落ち着いてカップスープに舌鼓を打って――そのまま飲み干しちゃったんだから。

 ……やっぱり見習わなくていいかも。


「さて、中の具材が変わる事でどれほどの変化があるか、見定めさせてもらおう」


 せんせー、ラベンドラさんがハンターの眼してまーす。

 くっそ整った顔のエルフがクリームパスタ前にしてやっていい顔じゃねぇだろ。

 シリアスを安売りするんじゃありません。


「いただきま~す」


 唯一の普段通りな態度は姉貴だけだよ全く。

 ……と思ったらこいつ椅子の上に正座してやがる。

 さては楽しみだったな?

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