第269話 茄子百面相

 焼けた焼き茄子は皮を剥きまして。包丁で一口大にカットしたら鰹節をかけ。

 さらに出汁をかけましてっと。

 お皿の端に生姜チューブを絞り出せば完成。


「お待たせしました~」

「来た来た! 私焼き茄子大好きー」


 と持って行ったら姉貴が早速一切れパクリ。


「あー美味! しかも白と合う」


 とかなんとか言って、速攻白ワインをグビリ。

 日本人なんだから米に行きなさいよ米に。



「ただ焼いただけか?」

「ほぼそうです。焼いて皮剥いて出汁かけるだけですね」


 そう、だけ……なんだけどねぇ。

 なんだろうね? それだけなのになんでこんなに美味しくなるんだろ?

 日本の八百万不思議の一つだと思うわ。


「冷えた茄子も美味かったが、焼きたても当然うまいのじゃな」

「揚げても、焼いても炒めても美味い」

「お味噌汁に入れても美味しいですしね」

「万能食材なのか……? この茄子は……」


 まぁ、うん。

 色んな食べ方あるよね、茄子。

 ちなみに夏のおすすめは細ーく切って、片栗粉まぶして茹でてさ。

 つるつるプルプルの茄子麺にして、そうめんみたく食べるのが美味い。

 一時それしか作らなかった時期があるくらいには好き。


「カケル、この料理は?」

「ムサカですね」

「茄子にポテト……ソースの層を作るのか」

「そう言いますけれどほぼソースメインですわよ? トマトを使っているソースの」

「トマトのソースの濃厚さと、チーズの味。それらをどっしり受け止めたじゃがいもと、茄子の食感のマリアージュじゃな」

「上の白いソースを忘れるな。このソースのおかげで全体にクリーミィさがプラスされ、より品のある味に押し上げているのだ」


 ムサカ、好評。

 これには某大佐もにっこり。


「両方のワインに合うのがいいですわね」

「赤でも白でも合い、その両方で違う表情を見せる……」

「米も進む味だ」

「やはり茄子は万能なのでは?」


 異世界組で議論始めたし、俺もムサカをパクリ。

 ……なるほどな?

 まず、さ。

 そもそもナイフとフォーク使って切るって動作がワクワクさせるよね。

 で、固めにソース作ったおかげで切っても流れないしさ。

 それをしっかりフォークに乗せて口に運べば、最初に来るのはやっぱりミートソースだね。

 ただ、トマトピューレを使わずに角切りトマトを使ったから、水っぽさとか一切無くて。

 また異世界のトマトがいい味出してるわ。濃厚なのにサッパリしたトマトの旨味を、ひき肉の一粒一粒に染み込ませてる。

 ひき肉も染み込むだけ染み込んだトマトの旨味を肉汁と共に放出しやがるしよぉ。

 まずこのミートソースが美味い。

 ちょっとここで白米を一つまみ……じゃ足りないからガッツリ頬張り。

 ちょっと注いでもらった白ワインを流してみる。


「……あー、合う」


 肉系って赤のイメージだったけどさ。

 なんだろう、茄子とかのおかげなのかな……。

 全然合うよ。てかそうだな、茄子のおかげだわこれ。

 今顔を出したけど、口の中で茄子の旨味がずっとミートソースの味から顔出してんだ。

 最初こそ主張しなかったけど、飲み込んでみてやっと前に出てきやがった。

 お前がいるから白が合うんだ。なるほどな。

 んでベシャメルソース……ホワイトソースもいい。

 チーズと合わさって、濃厚かつクリーミィなハーモニーを奏でていますわ。

 このコンビはもはや鉄板。不味くならない約束された勝利の味。

 当然茄子との相性が悪いはずもなく、全体がひとまとまりとして料理になってるんだな。

 憎いのは底にあるじゃがいもよ。

 上から垂れてきた茄子の旨味や僅かなソースの水分を全部吸い上げてる。

 じゃがいもがうめぇ……。


「これ、大成功ですね」

「だな。こうして層を作る事で、口に入れた時に味の変化を演出できる」

「一番下に敷いたじゃがいもが出て来た旨味を全部吸い上げてますよ」

「確かに。底に敷く食材はそのように吸い上げる食材が適しているだろうな」

「上にチーズやソースで蓋したのもデカいですね」

「うま味の逃げ場が下にしかなくなるからな。気付けば気付くだけこの料理の完成度に驚かされる」


 そりゃあラベンドラさんとの話も弾みますわ。

 きっと、今ラベンドラさんの頭の中で、このムサカの作り方を参考にしたレシピがいくつも浮かんでるんだろうな。

 ……食べてみたいな、異世界料理。

 もちろん、ラベンドラさんが料理したやつを。


「米は麻婆茄子とムサカ、白ワインは焼き茄子、揚げびたし、ムサカ……」

「赤はムサカと麻婆茄子ですわね」

「茄子という一つの食材がここまで広く合う料理になり得るのか……」

「奥が深いだろう? マジャリス。料理というものは」

「レシピなんて、まだまだありますしね。最も、茄子のマンドラゴラはもうそこまで量ないですけど」


 あ、やべ。

 思わず言っちゃったけどこれ良くない流れ。

 学べ……っ!! いい加減……っ!!

 こんな事言ったら、


「追加のマンドラゴラだ」


 とか言われるだろうが……っ!!

 ――ところが、


「そうか……残念ではあるな」

「他のマンドラゴラはまだあるのでしょう? そちらに期待ですわ」


 おろ? 無いのか?

 追加のマンドラゴラ。

 ……ガハハ、勝ったな。


「……!? いい匂いがするぞ!!」


 なお、そんな時にラベンドラさんが叫んだと思ったら。

 丁度ベイクドチーズケーキが焼き上がるタイミングと重なりました。

 きっと本能で甘いものの出来上がりを察知したんだろうね。

 だって、ケーキの焼けるいい匂いはずっと漂っていたはずだもん。

 ……まさか、ワイン飲み終わったから意識がそっちに移っただけの食いしん坊説……ある?

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