第488話 異世界干渉
うん、買っといて良かった。
本日の持ち帰りにオリーブオイルを要求されたからさ。
本場イタリア人程じゃないけど、今後使うだろうと思って買っといたんだよね。
ほとんど渡す形になったけど。
「恩に着る」
「これであちらでもさっきのパスタが味わえるのですわね!?」
「本当に素晴らしい油だ。感謝する」
「楽しみじゃのぅ」
この分だと、本当にイタリア人みたいに何にでもオリーブオイルかけそうだな。
オリーブオイルなんて美味しければドレッシング。
そんな発言が飛び出すような人たちだし。
「一応、明日はアヒージョの予定なんでそれだけは先に作らないでくださいね?」
「安心していい。作るのはパスタだ」
「ホッ」
「こちらの世界より質は落ちるが、ワインと合わせる」
「まぁ! とても楽しみですわ!!」
「アヒージョには是非ともワインを合わせたいが……」
……こっちを見るなこっちを。
瓶を捨てるのも大変なんだぞ。
決まった日にしか捨てられないから、飲み干すタイミングを見計らうと場所とってしょうがないんだから。
「まぁ、買って来ておきます」
買ってくるけど。
「助かる!」
(わしには無いんか?)
割って入って来ないの神様。
う~ん……別にあげてもいいんだけど。
(だけど?)
一つお願いがありまして。
(なんじゃ?)
異世界にもオリーブオイル、作って貰えません?
このままだと、オリーブオイルを一斗缶で買うハメになりそうで。
(なんじゃそんな事か。お安い御用じゃわい)
安易に手に入っても困ると思うので、ある程度の実力じゃないと届かない程度で……。
――お願いして思ったけど困るかな? 困らないんじゃない?
やっぱ安易に手に入って大丈夫です。
(なんじゃそりゃ。ま、ええわ。調整しとくかの)
じゃあ、明日は四人よりも先に神様にアヒージョと白ワイン、提供しますね。
(うっひょ~~!! これじゃからこっちの世界の人間は好きじゃあ!!)
異世界の神職に就いてる人が聞いたらブチギレそうだな……。
う~ん……こっちの世界の神様にも解呪でお世話になってるし、そっちにもお供えしよう。
神様、何がいいか聞いておいてください。
(任せておくのじゃ)
よし、八百万の神様たちにリクエストを聞いてる間に、『夢幻泡影』の見送りをしましょうかねぇ。
「ちなみにパスタ麺は大丈夫です?」
「大丈夫だ。向こうの麺を使う」
「のぅ、ラベンドラ」
「どうした?」
「あの蟹が溶けたオイル……ラーメンに入れてみたら美味くなりゃせんか?」
……いや、正直俺は関係ないんだけどさ。
異世界の料理人、可哀そうだなぁって。
こうやって美味しそうなものをドンドン先に潰されていくの、たまったもんじゃないだろ。
――え? 俺のせい? まっさかー。
「一考の余地ありだが、オイルなのだから水には溶けん」
「麺に練り込むというのはどうでしょう?」
それ以上はいけない。
本当に誰もかなわない蟹ラーメンが出来上がるぞ?
……いっその事それを作って国王に献上すればいいのに。
あ、ダメか。まだオリーブオイルが異世界で確認されてない……。
オリーブオイル確認後に試作したとして国王に献上。
このチャートが一番丸いか?
「アイデアが尽きん。戻っていろいろと試すとしよう」
「賛成ですわ!」
「カケル! 明日を楽しみにしとるからな!!」
「ワイン!!」
……ふぅ。
みんな魔法陣に消えていったや。
さて、と。
(お~い翔や~い)
どうしました神様?
(神々たちからのリクエストを伝えるぞい)
お、待ってました。
(ご飯一膳にみそ汁、漬物と酒じゃそうじゃ)
……かしこまりました。
なんと言うか、もっと豪華なものとかをイメージしてたけど、そうだよね。
日本の神様だもんね。そのラインナップが凄くらしいよ。
(ちなみに一汁三菜でもええそうじゃぞ)
家庭科の教科書以来かなぁ、その言葉。
今度の休みにこしらえさせていただきますよ。
三菜は蒸し物、焼き物、煮物でいいんだっけ。
教科書引っ張り出して勉強しとくか。
(めちゃめちゃ騒いどるが……)
嬉しいんだ。
なんか可愛いな、神様。
(……照れとる)
*
「はぁ~……」
大きな、大きなため息。
その主は『無頼』であり、その眼前には、例の宝石蟹パスタが置かれていて。
「美味過ぎ」
ポツリと漏らしたように零れたその言葉は。
「レシピ横流しして?」
隣に居るアメノサの声にかき消される。
「まだ国王にも教えてない。そんな事をしたら私たちの首が飛ぶ」
「好都合」
「もう少しこう……隠した方がいいのではありませんの?」
焼き菓子地獄を終え、海底ダンジョン探索の準備を行い。
さぁ出発、という状態の『夢幻泡影』と『無頼』の所に。
本当に何の前触れもなく、アメノサは現れ……五人に付いていくと一方的に宣言。
『無頼』が慌てる中、実力が伴っていれば問題ないと受け入れた『夢幻泡影』に向けて、返されたのはアメノサの腹の音。
出発前に飯にするかと宝石蟹パスタを振る舞ったところ、目を輝かせて一心不乱に書き込んで。
先の、横流し発言である。
「すまねぇな、こいつ、ちょいとバカだからよ」
「バカが丞相を務められない」
ソースで汚れた口元を拭き、カケルが顔をしかめそうな異世界バナナジュースを飲みながら話すアメノサに、『夢幻泡影』は。
「あら、丞相様でしたの」
「護衛も付けずとは本当にバカか、あるいは単独行動でも安全だという自信があるか」
と口々に言うが。
「はぁ……アメノサ、本当の所は?」
「迷った」
「だよなぁ」
五人の前に現れた真相は、どちらかというと前者であるようだった。
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