第182話 エルフ見て一杯

「さっぱりしたキャベツの後に、このサッパリした身もいいな!」

「やはり大葉の爽やかな香りが私は好きだ」

「茎ワサビのツンとくる刺激もたまりませんわ」

「酸味も辛みも、肉の甘みをよく引き立てとるわい」


 ささ身串、大好評。

 というか、もはや今回の焼き鳥において大好評じゃない串はない。

 みんな主役で、みんないい。


「この世界のベーコンも美味いな」

「中にプチトマトが入っているのがとても素晴らしいと思いますの」

「シイタケにレモン汁と塩をかけているのが一番美味い」

「なんの! ベーコンから出た肉汁を吸ったエノキが至高じゃわい」


 用意してた野菜串やベーコン串も当然の好評。

 やはり異世界人にも焼き鳥が受けることは確定的に明らかだったわけだ。

 ほう、経験が生きたな。


「にしても、こうして焼いてすぐに食せるスタイルはより美味いと感じる気がするな」

「焼ける様子を観察できるからな。肉が弾ける音や肉汁が滴る音、焼ける匂いなど、視覚以外にも訴えかけてくる情報がそうさせるのだろう」

「調理士ギルドにこの料理を伝えてはいかがですの? 実力はあれど目が出ない調理士が何人か開化しそうじゃありません事?」

「グリルと串さえあれば出来そうじゃしのぅ」


 焼き鳥を食い、ご飯を掻き込み、やみつきキャベツでリセットして、また焼き鳥。

 ガブロさんにどれそれ焼いてと言えば、最高の焼き加減で提供してくれるし。

 いやぁ、串に刺すの頑張って良かったよ。この美味しさで全部報われるってもんだ。


「カケル、興味本位で聞くが、魚などを刺して焼くスタイルもあるのだろう?」

「まぁ、あるっちゃありますけど、そうなると焼き鳥とは呼びませんね」


 ラベンドラさんから尋ねられたけど、そこまで行くと普通にバーベキューとかだよな。

 わざわざ焼き鳥という名前では出て来ないと思う。

 ……待てよ? 異世界の魚だったらもしかして、肉のような特性を持つ魔物だったりもいるのか?

 あの、ちょっと詳しく話を……。


「串焼きにして美味しそうな魚とか居るんですか?」

「かなり居る。思いつくだけでも二桁種はあるな」

「塩もタレも合いそうですの?」

「もちろんだ。……ただ、甘いタレもいいが、もう少し塩味が尖ったタレも合うだろう」


 はい、問題です。

 甘いタレが合う魚と聞いて、私が思い浮かべたものは何でしょう。

 正解はうなぎ。あるいはアナゴ。

 ……ワンチャン無い?

 うなぎ、どうしても高くてさぁ!

 異世界うなぎとか俺はちょっと冷静さを欠こうとしているかもしれない。


「野菜も重要な役割があるが、そちらはどうだ?」


 アスパラ串を頂きながら、ラベンドラさんに言うマジャリスさん。

 う~ん……今まであまり意識してなかったんだけど、こうして野菜串食ってるマジャリスさん見ると、ああ、エルフだなぁって思っちゃう。

 いや、耳は当然長いし身長高いし顔もいいから紛れもなくエルフなわけだけど。

 どうしても肉食ってるとなぁ……。

 エルフって草食主義なイメージがあって、今まではそれとかけ離れてたから……。

 まぁ、カップヌードル食ってたし今更か。


「そちらの調達は安定しては難しいだろうな。だが、肉や魚だけでも十分に成立する料理だと思っている」

 

 まぁ、間違いない。

 というか、俺も異世界焼き鳥というか串焼き食いたい。

 ワイバーンも美味しかったけど! 人生で食べた焼き鳥でも一番に美味かったけど!!

 未知なる味はやっぱり試したい!!


「ホイ、カケル。焼けたぞい」

「ありがとうございます」


 本日の〆はもものタレ。

 美味しくいただき、麦茶を飲み干しまして。

 ご馳走さまでした。


「串焼きだけを屋台にするか?」

「ダンジョン内で売っているだけで儲けは出るだろう。何なら、食材の提供で割引などをすれば、極論調理士であれば成り立つ」

「調理士需要がまた上がるのぅ。ただでさえ最近はどのパーティも調理士を入れようとしとるのに」

「まぁ、その原因となっているのは私達ですけど。あとは、ラベンドラが流すレシピもですわね」

「冒険者として必要な栄養を考えた上で、この世界で知見を得たレシピだからな。斬新かつ手軽で、さらには美味い」


 ご馳走さまとか言いつつ、ビールをグビリ。

 ツマミは四人の異世界談義と、定期的にガブロさんから供給されるお任せ串。

 ベーコンとプチトマトの串が、最高にうめぇんだ。


「こうして普段は食べない部分が美味い事も発見出来たしな」

「内皮も軟骨も、この世界に来なければ味わえなかっただろう」

「その二つは文字通り革命じゃぞ。酒によく合う部位として、ドワーフがこぞって求めるじゃろうて」

「ガブロに解体指南が相次ぐかもな。内皮と外皮を外すのは中々骨なんじゃないか?」

「いっそ手順を記したマニュアルでも売るかのぅ。とはいえ需要がなければ値がつかんじゃろうが」

「内皮と軟骨の串をオズワルドに食わせた上で、冒険者ギルドに持ち掛けろ。絶対に買う」


 にしてもすげぇな。

 ずっと変わらないペースで食い続けてるよ。

 ガブロさんとか焼きながら食って、食いながら焼いてるからな。

 そのくせ絶対に絶妙なタイミングで火から離すんだ。

 もしかして本職の方?

 鍛冶とかより向いてんじゃねぇの?


「いやぁ……大満足だった」

「本当に、美味しかったですわ」

「タレも塩だれも美味かった」

「また焼くことがあれば言ってくれ」


 というわけで串一本も残らず平らげてくれまして。

 そのタイミングでラベンドラさんが指を鳴らせば、ずっと燃え続けてた魔法の炎が一瞬で消える。

 ……便利だなぁ。


「というわけでカケル」

「デザートのお時間ですわ!!」


 なお、どれだけ食べたかとか、食事直後とか、そういうのは四人には一切関係ない。

 デザートは全てにおいて優先する。

 そう辞書に記されちゃってるらしい。

 というわけで、マカロン(ハンバーガーサイズ)を持ってきますかね。

 ……これ、俺食べきれるかな?

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