第2話 一番有名な保存食

 非常食糧庫解放!!

 カップ麺のフタ、オープン!!

 ポットの残存湯量、オールグリーン!!

 ゴー!! フルチャーーージ!!

 ……三分間待ってやる。命乞いはしなくていい。


「で? 何故皆さんは俺の家に?」


 お湯を注ぎ、出来上がるまでの三分間。

 俺はその時間を、質問に使うことにした。


「それなのですが……」


 そうして俺からの質問に答え始めたリリウムさんの話はこうだ。

 いつも通りに四人でダンジョンに潜っていると、急にダンジョン全体が大きく揺れた。

 それは、ダンジョンが大きく変化する前触れだという。

 その前触れが出て、しばらくすると、突如として足場が崩壊。

 一回層下に落とされ、立ち上がると……。


「目の前にサイクロプスが立っていまして……」

「サイクロプスって、目が一つの?」


 話を遮り、好奇心で尋ねてみる。

 ゲームの中の知識だけど、何となく想像は出来るな。


「そうだ。目が一つで腕が四本」

「腕が四本!?」


 どうしよう、想像の上を行かれたんだけど?


「全身を体毛が覆っておっての」

「毛深いんだ!?」


 もうこの辺から、完全に俺のイメージの範囲外。

 イエティとか、もうそっち方面に転がり始めた。


「四つの腕にそれぞれ武器を持っていたしな」

「あー……こん棒とか?」


 良かった。俺が知ってるサイクロプス……の持ち物だ。

 それ以外は俺が知らないサイクロプスだけど。


「いえ――剣と斧と槌と槍ですけど……」


 さようなら俺の中のサイクロプス。

 きっともう、二度と会う事はないだろう。


「それで、サイクロプスから逃げていると、壁に描かれた魔法陣を見つけたんです」

「魔法陣の模様と魔力で、転移魔法陣という事は分かったんだが、どこに繋がっているかまでは分からなかったんだ」

「というか、どこに繋がっているかを調べる前にサイクロプスに追いつかれた」

「じゃから、どうにかなれという思いで魔法陣に皆飛び込んだわけじゃ」

「そしたらこの家の中だった、と」


 ふ~む。

 ……いや、マジで何の冗談だよ。

 そんな簡単に繋がるの? 異世界と?


「ところで……まだなのでしょうか?」

「ん? ――あっ」


 そういや三分待ってたんだった。

 時間は……うん、大丈夫だな。


「もう食べられます。はい、フォークどうぞ」


 そう言って四人にフォークを配る。

 使い捨てのプラスチックで出来た個包装のやつ。

 割と便利だから買ってるんだよね。……洗い物めんどくさいし。

 カップ麺のフタを剥がし、誰よりも先に俺が一口。

 俺はもちろん箸を装備している。

 日本人たるもの、あらゆる食材は箸で食うべし。


「ズズ~~。……あー、染みるぅ」


 疲れた体に塩分が染み渡るわぁ。

 俺が食べているのは世界的に売れているカップ麺と言えばこれ! っていう商品のしょうゆ味。

 何だかんだ安定してる味っすわ。


「皆さんも遠慮せずにどうぞ」


 俺をじっと見つめる四人に促すと、それぞれ思い思いに食べ始める。


「……っ!? まぁっ!? 凄く美味しいのですね!!」


 リリウムさんはゆっくりと口を付け、スープを飲んでいた。

 ちなみにリリウムさんのはシーフード味。

 無性に食べたくなるよね、シーフード味。


「これは……美味いな」


 マジャリスさんには俺と同じしょうゆ味を。

 最初に口に運んだのは具みたいだね。

 エビをフォークに乗せてまじまじと見つめてるよ。


「未知の味だ。……そうか、これほど生きてもまだ未知と出会えるのか」


 なんか大仰な事を言っているラベンドラさんにもしょうゆ味を提供。

 仕方ないでしょ。一番買い込んでたのがしょうゆ味なんだから。

 麵を一口食べ、少しスープを飲んで何やら考え。

 また麺、スープと順番に食べていってる。

 ――んで、


「ズズー-ッ!! ズルズル!! ズーーーーッッ!!」


 感想すら言わずにひたすら食べてるガブロさん。

 彼に提供したのはカレー味なんだけど、どうやらクリティカルだったらしい。


「ンゴッ!! ゴッ!! ゴッ!! プハーッ!! 美味い!! 美味すぎるわい!!」


 誰よりも早くスープまで完食。

 ていうか食うの早過ぎね。ちゃんと味わった?


「早いなガブロ」

「こんなうまいもん、掻っ込むに決まっとろうが」

「もっと味わえよ」

「本当に美味しいですわねぇ」


 と、ガブロさんに色々言いながらも他三人の手は止まらないんだよな。

 なんというか、カップ麺でここまで喜んでくれるの、嬉しいよな。

 ……自分がカップ麺を創り出したわけじゃないんだけど、日本が作ったもので喜ばれるの凄く嬉しい。

 結局、俺含めてみんなすぐに完食し。

 容器は重ねて脇にどけ、話の続きを……と思った時。

 クゥ~~~~。

 と、先程も聞いたような音が。

 もちろん集まる視線の先は――、


「ちょっと足りんかったわい」


 ガブロさんだった。

 いやあんたかよ!!

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