突撃! 隣の世界の晩御飯!
瀧音静
第1話 全ての始まり
自宅への帰り道、中々に深いため息をついて空を見上げ。
明日の事を考えながら、トボリトボリと足を延ばす。
大体さぁ……週明けまでの仕事を金曜に寄越すなっての。
しかも大量発注。おかげで午前様だわちくしょう。
「はぁ~あ」
折角最近は残業が少ないからって喜んでたのに、これじゃあな……。
と、大きめのため息も出たところで。
止めだ止め。仕事の事考えたって気は晴れん。
今日はもう遅いからカップ麺で食事を済ますとして、明日何作るかを考えよう。
……買い物は明日行くとして――豚の角煮でも作るか?
あー……いいかも、角煮。
豚バラのブロック買って来て、下茹でからじっくりするやつ。
折角の休みだし、これでもかと時間かけて料理したいわ。
んで、夜はそれをツマミに晩酌ね。
最高かよ。
決めた、明日は豚の角煮作る。
と、自宅の前に辿り着き。
「ん? 人の気配?」
田舎にある大きめの一軒家。
ばあちゃんの遺産として受け継いだその家は、今現在住んでいるのは俺一人。
数年前は姉ちゃんも居たけど、
「勉強してくる!!」
と飛び出して今の今まで連絡はない。
まぁ、死んでは無いと思う。死ぬくらいなら弟の俺を頼ってくるはずだし。
人の気配は……気のせいだな。
深夜で変に敏感になってるアレだ。
気にしないが一番。
「ただいま~」
鍵を開け、玄関の扉をスライドさせ。
誰に言うでもない帰宅の言葉を口にした時――
「んえっ!?」
喉元に、光る刃が押し当てられた。
*
「大変申し訳ございません、まさかこの家の住人だったなんて……」
俺の前には正座をし、深々と頭を下げる金髪の美女。
どう見ても日本語が堪能ではない見た目をしているが、彼女の口から出る言葉はアクセントまで完璧で。
「勝手が分からず、迷惑をかけてしまった。面目ない」
同じく完璧な日本語で、同じく頭を下げている茶髪のイケメン。
背中には弓を背負っており、服は違うが某タライとホースで有名な勇者に近いような顔立ちだ。
「危害を加えるつもりはないんだ。この通り……許してくれ」
俺の喉元に刃を突き付けた張本人、褐色肌で頬に大きめの傷のあるイケメンが、やっぱり頭を下げながら弁明。
「ワシらも、
これまでの美男美女と違い、ひげを蓄えた身長低めの小太りのおっさんが、やっぱり頭を下げながら。
これまた流暢な日本語でそう言って。
「未だに信じられないんですけどね、異世界から来たって」
俺がそう言うと、四人ともが顔を見合わせて頷く。
自分たちも同意見だ、と。
あの後、よく分からない言葉で叫ばれ、俺は両手を上げて抵抗の意思が無い事を示し。
それでもここは俺の家だと主張すると、一瞬だけ光が発生し、次の瞬間には四人の言葉が分かるようになっていた。
「何をしている!?」
というイケメンの言葉に、
「ここは俺の家なんだよ!」
と返すと、四人は顔を見合わせて。
「あの、申し訳ありませんがここはどこだかお聞かせいただいても?」
美女の物腰柔らかな態度には、
「ここは日本! んで――」
現在地を説明。
日本の後には都道府県と市区町村も続けた。
すると……、
「ニルラスではないのですか?」
と、不安そうに尋ねられ。
「どこそれ? そんな国あったっけ?」
そう呟いた瞬間、黒イケメンが俺を解放。
そして、玄関先で四人とも頭を下げはじめ。
「と、とりあえず居間に行きましょう」
仕事帰りで疲れた最中、さらに疲れる出来事に出くわした俺は、とにかく座りたいという思いが強く。
俺は風貌様々な四人組を連れて居間へと向かった。
……みんな土足だったから、玄関で靴を脱がして、だけども。
*
で、上の状況になるわけだ。
居間に入り、俺が座ると四人とも同じように腰を下ろし。
金髪美女が俺に頭を下げたのを筆頭に、他三人も謝りだして。
「あー……まぁ、俺死んでませんし、大丈夫ですよ」
と声をかけるとようやく頭を上げる。
にしてもほんと、マジで美男美女だな。
SNSとかに投稿したらめっちゃバズリそう。
「そう言って貰えると助かるわい」
こう言った身長が低い小太りおっさんを除いて、だけども。
「それで? あなたたちは?」
とりあえず明らかに日本人でない、この不審者四人の話を聞くことにした。
本当は警察を呼ぶべきなんだろうけどね。
田舎過ぎて交番が遠くて、電話してどれくらいで来ることになるやら……。
その間に、警察に連絡したからとこの人らにこう……お命取られる可能性も無いとは言い切れないわけで。
――あと、こんな深夜に警察呼んだとか、あらぬ疑いを近所の人に掛けられるのを避けたいってのもある。
そういう話は、マジで一瞬で広まるし。
田舎ネットワークこわひ。
「申し遅れました私、このパーティのリーダーを務めさせていただいてます。
金髪美女のお姉さんがそう言って会釈。
……なんて? ちょっと脳みそが理解を拒否しかける単語があったんだけど?
「エルフの『コンパラリア・マジャリス』だ」
某勇者似の人が続いて自己紹介。
あなたもサラッとエルフとか言いましたね?
「ダークエルフの『サバウディア・ラベンドラ』」
続いて褐色肌イケメンの自己紹介。
まぁ、何となく察してたよ。前二人がそうだったしね。
んで? 順番的には次は小太りおっさんだよな?
まさかおっさんもエルフとか言い出す感じ?
「ドワーフの『グラナイト・ガブロ』じゃ」
あ、スー……。
そう来る? この人だけドワーフか。
……納得。
ていうかそうじゃん。今見たら三人は耳が長くて尖ってるのにおっさんだけ普通の耳じゃん。
もっと早く気付けばよかった。
――って、ちょっと待って?
「エルフがドワーフと一緒にパーティ組んでるんですか?」
俺の知識の中のエルフとドワーフって、犬猿の仲というか、水と油というか。
顔を合わせたら口喧嘩をしているってイメージしかないんだけど?
「皆に言われるが、そう驚く事でもない」
俺の疑問に最初に口を開いたのはラベンドラさん。
「種族だけで判別していがみ合うなど愚行もいいとこ。ガブロは、このパーティには居なくてはならない存在だ」
続いて、マジャリスさんがそう言うと、ガブロさんを除く三人がうんうんと頷く。
「前線で戦ってくださいますし、その攻撃力も目を見張ります。それに、解体士としての腕も相当なものですから」
最後にリリウムさんが締めると、ガブロさんは恥ずかしそうに鼻の頭を掻きながら、
「エルフに褒められるっちゅうのに未だ慣れんのう」
なんて言ってるし。
少なくとも、俺の知るエルフやドワーフの関係ってわけじゃないらしい。
後サラッと流したけど、解体士ってワードとか、異世界から来た発言とか、ニルラスとかいう俺の知らない単語とか。
もうこれ確定ですよね? この四人、この世界じゃない場所から来ちゃってますよね?
「一体何があってここに来たんですか?」
俺の疑問に答えてもらおうと尋ねた時だった。
クゥ~~。
と、小さなお腹の音が鳴った。
当然、その音を発した人に視線が集まるわけで。
……顔を真っ赤にし、恥ずかしそうにお腹を押さえながら。
「も、申し訳ないのですが、食べ物を少々恵んで頂けませんでしょうか?////」
リリウムさんが、小さな声で尋ねてきたのだった。
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