第47話 翻訳の秘密
「ん? 一度揚げたものをまた揚げなおすのか?」
「そうです。二度揚げと言って、衣がカリッカリになるんですよ」
「ほほぅ」
一度油を落とすためにバットに置いておいた唐揚げを再度油に投入すれば、ラベンドラさんから質問が飛んできて。
それに答えてやれば、何やら考え込んでいる。
……ちなみに、俺が知る中だと三度揚げも四度揚げもある。
魚の唐揚げをする時に、包丁を入れて骨まで食べるためにそうやってる配信者が居たからだけど。
流石にそこまでしようとは思わんね。
衣が固くなりすぎると口の中怪我しちゃうよ。
「と言うわけで皆さんの分出来上がりましたよ。おかわり分を揚げてるんで先に食べちゃってください」
とりあえず五人分は揚げ終わったし、そう言って先に食べといてもらう。
山盛りのキャベツにカットしたレモン。そこに、二種類の味の、一度揚げ二度揚げの唐揚げを一つずつ。
みそ汁を添えて、唐揚げ定食の完成。
「味と揚げ方の好みを言って貰えれば、その唐揚げをおかわりできますからね」
と言って自分は唐揚げに専念。
ただ、五人から聞こえてくるであろう唐揚げの感想には耳を傾けるけども。
「じゃあ、申し訳ありませんがお先しますわね」
「先に頂くぞい」
という事で、いざ、実食!!
それぞれザクッと言う二度揚げの唐揚げを食べたであろう音と、それよりは軽い、サクッという一度揚げの唐揚げを食べたであろう音が響き。
「――!!?」
それぞれから、声にならない声が上がった。
「美味すぎる! なんじゃあこりゃあぁっ!?」
「噛んだ瞬間から溢れる肉汁。そして、肉にしっかりと付いた味がその後から襲ってくる……」
「お肉はしっとり。けれど、弾力があって時折歯を押し返してきますわ」
「そして押し返されまいと力を入れると、シャキッと心地よい音を立てて噛み切れる」
「あー……うっま。や。やっぱり唐揚げは最高だね」
いつもの四人の感想に姉貴も混じり、思わず頬が緩むことを言ってくれますなぁ。
「あ、好みでレモンを絞るとまた味が変わるわよ」
「この黄色いやつだよな?」
「そそそ。皮を下に向けて絞ると風味がよくなる」
「早速試してみるか……」
姉貴がレモンの存在理由を四人にレクチャー。
なお、姉貴はレモンをかけない派である。
「むほっ! さわやかな酸味と香りが美味いのぅ!」
「脂臭さが吹き飛ぶな。さっぱりと食べられる」
「どんなにしても飯に合う。……と言うか、米が止まらん」
「揚げ方が違うだけで味わいにも差がある気がしますわ。……私は、衣は軽い方が好きですわね」
「分かるが肉のうま味を受け止めるには固い衣の方が合わないか?」
「衣との調和という点では一度揚げが勝つだろう。二度揚げの方は噛んだ直後の肉汁の量で圧倒しているだけだ」
あ、なんか戦争の予感。
いや、流石に大丈夫か。
「塩味と醤油味の違いはどう見る?」
「どっしりと構えた味が醤油、あっさりとした味わいが塩だな」
「どちらも甲乙つけがたく、美味しいのはそうなのですが……私は塩派ですわね」
「醤油の二度揚げが最高じゃな。これにビールがあると天国じゃわい」
「醤油の一度揚げだな。いや、両方美味いんだがな」
「醤油が多数か。なるほどな」
話聞く限りリリウムさん以外は醤油味が好きみたいだ。
美味しいんだけどなぁ、塩唐揚げ。
「あー、美味しかった。……ところで、このお肉ってコカトリスの肉だったりするの?」
一人黙々と食べていた姉貴が食べ終えたか、そんな事を言いだした。
それは確かに気になる。
「いや、コカトリスの肉だともう少し固い。……ん?」
あれ? なんか違和感……。
「コカトリスは通じるのか?」
あ、確かに。
モンスターの名前は基本翻訳されなかったはず……。
待てよ? そういや、サイクロプスは普通に通じてたよな?
……てことは、こっちでも認知されているモンスターなら翻訳可能?
「ゴブリンとかは居ますよね?」
「居るぞい。っちゅーか居すぎて大変じゃわい」
「ゴブリンが通じるとなるとトロールはどうだ?」
「伝わってます。ユニコーンとか、ケルピーとかだと?」
「いけるみたいだ。……これなら、翻訳されなかったモンスターも他のモンスターを引き合いに出すことで大体の情報を伝えられるんじゃないか?」
どうやら有名どころと言うか、こっちの世界でも知られているモンスターなら翻訳可能らしい。
これでようやくブタノヨウナナニカとか、トリッポイオニクとかの仮称で呼ばなくて済みそう。
あ、
「唐揚げおかわりいる人~?」
「醤油二度揚げ」
「塩味の一度揚げを」
「醤油の二度揚げをガッツリと頼むぞい」
「俺は塩にしよう。二度揚げで」
マジャリスさんとガブロさんが醤油味の二度揚げ、リリウムさんとラベンドラさんが塩味で、リリウムさんは一度揚げと。
ホイホイ。
「二度揚げ組は揚がるまでもうしばらく辛抱してください。リリウムさんお皿を」
「ありがとうございますわ」
揚げる回数の都合上、どうしても一度揚げの方が先に提供できる。
そんな事は明白なのに、男三人は羨ましそうにリリウムさんを見ないの。
二度揚げがいいって言ったのはあなた達でしょ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます