第220話 コーヒーブレイク

「ふぅ。この苦みにもすっかり慣れてきたのう」

「よくそんなどぶ水みたいな代物飲めるな」

「口を慎みなさい? その発言は敵に回す数が多いですわよ?」

「ガブロや私達だけならばともかく、カケルも飲んでいるのだぞ?」


 うん。

 俺が言いたい事大体リリウムさんとラベンドラさんが言ってくれたから、俺からはマジャリスさんに一言だけ。

 ……おこちゃま舌め。


「昨日飲んだコーシーよりコクがあり、酸味もある。……全体的にスッキリとした苦みじゃな」

「昨日のとは豆が違いますからね」


 豆というか、インスタントとドリップの違いだけどね。

 あと翻訳魔法さん、コーシーじゃなくてコーヒーね。


「豆が違う?」

「です。コーヒーってのは豆を挽いて、そっから抽出して飲んでるんですけど……」

「その豆が変わっている、と?」

「ですです」


 コーヒーも奥が深いよな。

 豆の種類だけでも滅茶苦茶あるし、ブレンドとか考えたらそれこそ無限大なんじゃないか?

 ちなみに本日のドリップに使われている奴はコロンビアとのこと。


「な、何種類くらいあるんだ?」

「少々お待ちを……」


 そう来るとは思ってたけど、事前に調べたりはしてないんだ、ごめんよ。

 えーっと……、


「ベースとなる豆はざっと調べて8種類ですかね……」

「8か」

「それくらいでしたらまぁ……」


 予想の範疇ってか?

 だが甘い! リバースカードオープン!! ブレンド!!


「産地で大体を括ってるんで、もっと細かい種類になればまだまだありますし、豆同士をブレンドして自分好みのコーヒーを見つけるのが醍醐味ですからね」


 俺も一度はね? いくつかのコーヒーを淹れて、利きコーヒーなんてやってみたりしたわけ。

 その中で、一番美味しいと思ったコーヒーを贔屓にしようと思って。

 結果は全部美味しかった。

 ……俺は臥龍岡 翔。違いの分からない男……。


「ちなみにこのコーヒーは……」

「自然な甘さとフルーティさが特徴の奴ですね」

「俺のは!?」


 と、コーヒー談義をしてたらマジャリスさんが割って入って来た。

 すまない、コーヒー牛乳を飲んでるおこちゃまが入って来られる話じゃないんだ。


「子供でも飲めるように企業が甘く作ってくれた奴ですね。どの銘柄とかは分かりません」

「ぐぬぬ……」


 何がぐぬぬだ。

 せめてコーヒー牛乳を卒業してから来なさい。


「か、カケル! デザートはどうなっている!?」


 あ、話題に入って来られないから諦めて別の話題に持ち込んだ。

 だがいいのかな?

 その先も行きつくのはコーヒーだぞ?


「今日はコーヒーゼリーを作ってみました」

「コーヒー……ゼリー……」


 そんな、なんやて工藤みたいな顔せんでもろて。

 ちゃんとマジャリスさんでも食べられるように甘く作ってますから。


「ラベンドラ」

「? どうした?」

「カケルがイジメる」


 人聞きが悪いなぁ。


「せめて食べてから言え。食べる前からそんな事を言うんじゃない」

「そうじゃぞ。安心せい、食べれんようならわしが貰っちゃるわい」

「あら、公平に殴り合って決めませんこと?」

「自分が絶対に負けない勝負を提案するな。くじ引きでいいだろう」


 なんか物騒な会話が聞こえてきたけど無視だ無視。

 この家の中で暴れた日には、明日のご飯がめざし一匹とかになることを覚悟するように。

 と言うわけでこちらがコーヒーゼリーにござい。


「ほ、本当にコーヒーのゼリーじゃないか……」

「他に何があるというのですの」

「奇麗に固まっているな」

「もう既に美味しそうじゃぞい」


 ちなみに今はミルクソースをかけてない状態。

 まぁ、怯えた子犬みたいな事になってるマジャリスさんの為に、ソースを出してやるか。


「このままだとまだ苦いので、こちらをかけてお召し上がりください」

「……それは?」


 目の前に蜘蛛の糸でも垂れてきたかのような表情になるマジャリスさん。

 からかいがいがあるんだよなぁ。


「ミルクソースです。昨日マジャリスさんのコーヒーに入れた物をソースにしたもので分かります?」

「十分だ!! カケル! ありがとう!!」


 ものっそい速さで俺の手からミルクソースの入った器が奪われたんだが?

 あと、それマジャリスさん専用じゃないからね?

 みんなの分だからね?


「一人で使い切るのだけはダメですわよ?」


 あ、リリウムさんもマジャリスさんが何しようとしてるか気付いたらしく、転移でミルクソース入り容器を自分の手の上に持って来てら。


「リリウム!!」

「そんな顔しませんの。使い切るわけ無いんですから、皆が使った後に存分に使えばよろしいのではなくて?」

「そ、それもそうか……」


 と言うわけでマジャリスさんの説得? に成功し、各々がミルクソースを自分のコーヒーゼリーにかけていく。

 ガブロさんは表面が隠れる位の控えめな量。

 次に量が少なかったのはラベンドラさんで、その次にリリウムさん。

 で、マジャリスさんに渡る前に俺が横から奪い、割とたっぷり使いまして。

 ソワソワしっぱなしのマジャリスさんにソースを渡すと。


「い、一応味を見ながら入れるからな!」


 と、誰に言うわけでもなく呟きながら、たっぷりとソースをかけ。


「「いただきます!」」


 四人のコーヒーゼリー初体験が幕を開けるのだった。

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