第221話 急に元気になるじゃん

「こ、これは……」

「何とも不思議な体験ですわ……」

「しっかりとコーヒーの味がする。……あれほど苦く、スイーツには向かないと思っていたが……」

「しっかりと美味い!!」


 コーヒーゼリー一口目の感想は、ちゃんと美味しくてびっくりした、みたいな感じだった。

 まぁ、あれだけ疑心暗鬼だったマジャリスさんが誰よりも大きな声で美味しいって言ってくれてるし、良しとしよう。


「香りやコク、味はそのままに、苦みだけを押さえてスイーツにしとるのか」

「クリームの甘さがコーヒーのほろ苦さと絶妙にマッチして、口の中で丁度良く調和しますの」

「良く冷えているのも苦みが軽減されている要因なのかもしれない。……美味いな」

「これなら俺もコーヒーを飲めるぞ!!」


 マジャリスさん? コーヒーゼリーは飲み物じゃなくて食べ物……。

 待てよ?

 そう言えば、コーヒーゼリーを砕いてミルクと混ぜ合わせた飲み物あったな?

 あれ作ってやれば飲めるのか……。

 流石に今すぐは作ってやれないけど。コーヒーゼリー、人数分しか作ってないし。


「この頬が綻ぶような甘さのソースがまたいい」

「甘さが過多になるかもしれませんけど、プリンなんかにもかけたくなりますわね」


 あ、リリウムさん正解。

 あるよ? クリームプリン。


「じゅるり」


 その話聞いて涎垂らさないマジャリスさん。

 まだコーヒーゼリー食べてる最中でしょうが。


「嗜好品であり、飲み物にもスイーツにもなる。……コーヒーっちゅうもんは物凄い可能性の塊じゃな」

「ソースの有無や量で甘味が苦手でも調整できる。……このスイーツはかなり計算された代物だぞ」


 ガブロさんとラベンドラさんが何やら話し合ってるけど、多分そんなんじゃないと思いますよ?

 少なくとも、俺はそんな考えてないですし。

 よし、一通り反応見たし、俺もコーヒーゼリーを味わいますか。


「うめ」


 これよこれって感じ。

 まずコーヒーゼリー単体ね、よく出来てるよ。

 酸味が控えめなやつ使って正解だったわ。

 僅かに感じる酸味がいいアクセントになってる。これ以上酸味があったら邪魔になってただろうよ。

 んで、深いコクとサッパリした苦みね。ラベンドラさんの言う通り、冷えてるせいなのか分かんないけど、淹れて飲む時より苦いとは思わないかな。

 そしてソース!! これ美味い!

 バカデカアーモンドッポイミルクのさっぱりした味が、コーヒーゼリーとスーパーマッチしてる。

 まんまコーヒーフレッシュみたいなベタつかない感じなのに、しっかりと甘い。

 ソース多めで口に入れて、コーヒー牛乳感を感じるもよし、クリーム控えめにコーヒーの香りやコクを楽しむもよし。

 これマジで美味い。

 市販品を悪く言うわけじゃあないけど、これはそうそう越えられないだろうね。

 量も含め。


「冷たいゼリーだからかスルスルと入っていってしまうな」

「口の中に脂っぽさが残っていてもスッキリ食べられますわ!」

「美味かったのぅ……」

「ラベンドラ! これの再現をぜひ!!」


 ……マジャリスさん、ここで食べたスイーツを手当たり次第に再現しろって言ってない?

 俺の気のせい?


「色々と言いたいことはあるが、今すぐに再現というのは無理だ」

「何故だ!?」

「何故も何も、向こうでどうやってコーヒーを作る?」

「……確かに」


 この口ぶりだと、ラベンドラさんには異世界でコーヒーに代替出来る素材の心当たりが無いな。

 それを理解したマジャリスさんも落ち込んだ、と。


「一応、これは? という素材があるにはあるが、かなり珍しい代物だ」

「そうなのですの?」

「ああ、かつて一度、東の方で採れるという『――』という植物を扱ったことがあるが、それの種子がコーヒーの香りによく似ていた」

「『――』と言うのはこれか?」


 ラベンドラさんが珍しい代物、と言ってのけた俺には聞き取れないその素材は。

 マジャリスさんがゴソゴソと差し出して。


「そうそうこれだ。――なぜお前が持っている!!?」

「以前、素材集めの時に商人と交換していたのを忘れていた」

「その商人はどこに向かった!!?」


 ……あの、喧嘩せんでもろて。

 明日の食事、シシャモ一匹にするぞ?


「北の方の町に向かうと言っていたはずだが……」

「カケル! 世話になった!!」

「え、あ、はい」


 あの、ラベンドラさん? ついさっきまでと態度が違いすぎません事?


「リリウム! 北の町への転移はもちろん可能だな!?」

「は、はい。それはもちろんですけれど……」

「マジャリス! 地図は当然あるな!?」

「無くても即座に作ってみせる」

「ガブロ!」

「言われんでも、解体に必要な道具は手入れ済みじゃわい」


 クッソ元気になったラベンドラさんに、一人一人呼ばれたメンバーは。


「あ、お持ち帰りは――」

「今日は大丈夫だ! ではカケル! また明日!!」


 有無を言わせない勢いのラベンドラさんによって、魔法陣に押し込まれていった。

 ……コーヒーでも淹れよ。



「バクセンカを持っているなら伝えておけ!」

「だから、忘れていたと言っているだろう!!」


 自分たちの世界に戻り、マジャリスと取引した商人を追って、北の村へと転移した『夢幻泡影』は。

 程なくして、件の商人を発見。

 その商人と、バクセンカをどこで手に入れたか、という情報を、未公開のレシピと周辺の詳細な地図数枚とで手に入れ。


「滝の近くに浮いていた、か」

「滝つぼの中か、滝の裏にでもダンジョンがありそうじゃな」

「とりあえずその場所まで行って、着いたら探知魔法で隅々まで調べましょう」

「これで供給ルートが拓ければ、毎朝コーヒーで目を覚ます生活も夢ではない」

「出来ればチョコレートもあると良いですわね」


 意気揚々と、手に入れた情報をもとに、バクセンカを探しに向かうのだった。

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