第228話 声掛け実施ヨシ!

「カケルが用意してくれたお肉も十分美味しいですわよ?」

「『――』の肉がレベチというだけだな」

「このサンチュという野菜で肉や調味料などを巻くスタイルは評価されるべきだと思う」

「どれもこれも肉に合うし、自分好みの味も追求できる。美味しく楽しく食べられるわけじゃな」


 なんて評価をしつつ、休まず食べ続ける四人。

 なんだっけ? 韓国のサムギョプサルが確かこんな感じなんだよな?

 多分これよりも用意する食材とか調味料とか多いと思うけど。


「正直野菜も侮っていたが……肉の合間に食べる野菜は特別美味い様に思える」

「やはりこの世界の野菜はレベルが高いのでしょう。私、こんなに甘い玉ねぎやカボチャを食べたのなんて初めてですもの」

「調味料の豊富さもやはり強みだろう。香味野菜もそうだが、当たり前に使われる調味料の数がおかしい」

「肉の部位もじゃろ。……カケル、この肉はなんじゃったか?」


 一人既にご飯は完食。お酒も完飲。

 ゆっくりお茶を飲んでたところに、ガブロさんから質問が飛んできた。


「それはせせりですね。鶏の首の所のお肉です」


 好きなんだよなぁ、せせり。

 焼き肉でも美味いし、焼き鳥にしても美味い。

 あのプリっとした食感と、しっかりした歯ごたえ。

 噛むほどに強くなるコクと、しっかり出てくる肉汁がもう最高。

 ……ちょっとお腹すいてきたな。

 せ、せせりは別腹だから。


「うむ。我々の世界では、そうした細かな部位分けはあまりせん」

「そうなんです?」


 ガブロさんがせせりを焼き始めたので、それに便乗して焼いてもらうことにした。

 せせりに、味噌とコチュジャンを少し。

 そこに白髪ねぎをのせて、サンチュで包む。

 これが俺の行きついた答えね。


「基本的に食えるところとそれ以外じゃわい」

「あー……確かに今までも味や身質が違うのに全部一塊で渡された記憶が……」


 記憶に新しいのはシロミザカナモドキか?

 あれなんて三つの身質が混ざってたからな。

 そうやって部位分けしてなかったからこその仕様だったのか。


「例えば今回渡した肉も、一番脂がのった美味しそうなところを渡したんだ」

「そりゃあもうとってもいいサーロインでしたよ?」


 見た目的に多分そう。

 ラベンドラさんの問いかけに間髪入れずに答えまして。

 だって、肉屋に見せたら多分十人中十人がサーロインというはず。

 ちなみに寿司屋に見せたら十人中十人が大トロって言う。

 貰ったお肉はそういう見た目だし。


「他にはどんな部位があるんだ?」


 と、お肉焼ける待ちのラベンドラさんに言われたので、スマホでちょいと失礼しまして。


「俺らの世界の一般的な名称ですよ?」


 と前置きをした上で。

 牛の部位の説明と、その部位の肉の見た目の紹介動画を見せてあげた。

 もうね、凄かったよ。

 肉が焼けるのは耳に届く音頼り。

 二つの目は一切スマホから離さず、魔法で肉を浮かせてひっくり返し、焼けたらノールックで箸で掴んで口の中へ。

 これまたノールックでワイングラスを取り、この時だけワインを飲むために顔を動かした。

 どれほどワインが優先やねん。

 ……ちなみにこの時、スマホが視界から外れないように、魔法で浮かせて必ず自分の視界に入るようラベンドラさんが調整してた。

 ――スマホ持った俺ごと。

 いやぁ、ビビったね。

 急に重力感じなくなったんだもん。

 で、ワインなんて飲むのにそんな時間掛からないから、理解する前に元の場所に降ろされてさ。

 リリウムさんが、


「ラベンドラ! カケルに魔法をかける時は一言くらいは声をかけなさい?」


 って怒ってくれた。

 さて、この言葉でリリウムさんは何回カケルと言ったでしょうか?

 まぁ、冗談は置いといて。


「ふむ……あらかた理解した」


 リリウムさんの説教に耳を貸しつつ、それでも視線をスマホから離さなかったラベンドラさんはそう呟くと。

 虚空へと手を伸ばし、伸ばした手は肘から先くらいがどこかに消えて。


「つまりこの部位がテンダーロインというわけだな?」


 数秒後、大きな肉の塊を掴んで戻って来る。

 ……テンダーロイン。つまりはヒレ肉。

 牛の部位の中で、特に高級なイメージのあるそれは、見た目はもう素晴らしいピンク。

 きめ細かいサシ、見るだけで柔らかそうな赤味。

 そして満腹の俺。

 うっぷ。なんでお腹一杯の時にそんな美味しそうな部位を見せるんだちくしょう……。


「厚めに切っても噛み切れるほど柔らかいらしい」

「はやく! 早く焼きましょう!!」

「カケル、ビールが無くなったぞい!」

「ハイボールでいいです?」

「濃い目で頼むわい!!」

「俺にはもう少しぶ厚く……」


 と言って、何度目か分からないステーキ肉がホットプレートへと投下される。

 流石に俺はもう食べられないからパスしたよ。

 そしたら、


「残ったテンダーロインはカケルの分も取り分けるから安心しろ」


 とラベンドラさんから優しい言葉が。

 ありがてぇ……っ! 涙が出る……っ!!

 ふんふふーん♪ そしたら、明日会社に弁当持って行っちゃおうかなー!

 ラベンドラさんにも持たせたことがあるドカベンにさ、ご飯と焼いた野菜を敷き詰めてさ!

 上から、デリシャスビーフイッシュと貰う予定のテンダーロインをこれでもかって乗せるの。

 どこぞの焼肉弁当顔負けの、特製カケル焼肉弁当を作っちゃうもんねー!!

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