第128話 与えちゃった……
盛り付けた甘露煮にネギを散らし。
千切りにした生姜をちょっと乗せまして。
これにて、おばあちゃん直伝、秋刀魚の甘露煮が真の姿に!!
……うん、秋刀魚かどうかは分からんのだ、スマン、ばあちゃん。
でもまぁ、味は間違いないと思われる。
というか、そうじゃないと困る。
「む、かなり身が柔らかいな」
最初の一口を持っていこうとしたガブロさんが、力を入れすぎたのか箸で掴んだ身を空中分解させてた。
レンゲが必要なら言ってくださいね。
「箸というのは素晴らしいな。どんなに柔く、脆いものであっても持ち上げることが出来る」
ほら、ラベンドラさんを見て見なよ。
絶妙な力加減で今にも崩れそうなシロミザカナモドキの身を持ち上げてるぞ。
んで、そのままパクリ。
「む!! 文字通り身が蕩けるようだ。煮汁と脂が相まって一瞬で口の中を満たす」
「この煮汁がたまりませんわ! 濃厚で、それでいてコクと深みがありますの!!」
「一番は魚の臭みだろう。『太刀魚』の臭みがここまで抜けているとは驚きだぞ?」
と箸の扱いが完璧なエルフ達が先に食べた感想を言ってる中。
ガブロさん、まだ格闘中。
これ多分あれか? 素の力が強すぎるとかなのか?
「ガブロさん、レンゲ渡しましょうか?」
「い、要らん!! ようやくコツを掴んだところじゃわい!!」
俺からの提案を即断わり、言葉通り、今度は崩さずに持ち上げたガブロさん。
ようやく口に運べた甘露煮のお味はいかに――。
「ふほぉ。美味いのぅ」
破顔でした。
美味しかったんだね。
……う~ん、少しだけならいいか。
「ガブロさん、この料理にはそれはもう日本酒が合いますよ?」
「なぬ!? ……言うからにはくれるんじゃろうな?」
その答えは、おちょこと酌でどうぞ。
「むほほほ! すまんのう!!」
箸の扱いに苦戦してた時の険しい顔はどこへやら。
顔面緊張度は驚異のマイナスに突入しておりますわ。
「ほどほどにしておけよ」
「大丈夫じゃわい」
マジャリスさんも、ガブロさんが酒を飲むのは止めないし、節度さえ保てば文句は出ないらしいな。
「米が異様に進むっ!!」
「ご飯の美味しいのを引き立て、ご飯もこの甘露煮の美味しさを引き立てる相乗効果ですわ~」
「っ!! 今日の漬物はまた……凄いな」
お、ラベンドラさん、気が付かれましたか。
特に説明してなかったワサビ菜の醤油漬けだけど、ラベンドラさんは俺の思いに気が付いたようだ。
甘露煮のべっとりとしたうま味や味の濃さ、更には魚からの脂を洗い流すのはやっぱりワサビでしょうって事でね。
……まぁ、ワサビの葉ではないんだけども。
で、そのワサビ菜の漬物を食べた後の米がまた美味いんだなこれが。
ほんと、米似合う食材が多すぎて困るね、日本って国は。
「んっ! 鼻にツンとくる感じがたまりませんわ!」
「んぶっふぇっ!? わ、わ、ワサビだったのか!!」
あー……マジャリスさん、確か前もワサビに困惑してたような……。
もしかしておこちゃま舌ですか~?
「酒が進む進む」
ガブロさんとか見習いなよ。
ワサビ菜の醤油漬けで延々酒を呷ってるぞ。
……あの、そろそろ止まってもろて。
「圧力をかけての調理、これほど効果があるとは……」
「普段より高温で調理してるだけなんですけどね。その普段とは違うって条件で、色々と変化があるのが料理の面白いところです」
「その技法を使えば、固くて食べられないような肉も調理できたりしますの?」
「どうでしょう……? 固くて食べられないような肉は処理を工夫したり、調理に時間をかけたりする方が多いような気がしますけど……」
牛スジとかね。
処理から調理から大変だけど、じっくりと煮詰めた牛スジはとろけるような食感と味ですこぶる美味い。
向こうの世界の固い肉がどんなもんかは分かんないけど、煮詰めればいけると思うよ。
知らんけど。
「む、そうだ、カケル」
「なんでしょう?」
「ご飯のおかわりはいいから、ワインを飲ませて貰えないだろうか?」
早々にご飯を空にしたラベンドラさんからそんな提案が。
まぁ、別に俺は構わないけど……。
「構いませんけど、合います? ガッツリ和風の味付けしちゃってますけど」
秋刀魚の甘露煮、ワインに合うのかなぁ……。
ちょっとだけ調べるか。
――流石に甘露煮とワインを合わせたような記事は見当たらなかったけど、これは……。
ぶりの照り焼きと赤ワインが合うって記事ならあったぞ。
……てことは赤ワインか。
「合わなければ別で楽しむだけだ」
「そうですわ」
「異世界のワインは非常に興味がある」
エルフ達三人はワインのスタンバイオッケーと。
ガブロさんは……まだ日本酒飲んでるな。
どれどれ、
「ワイン」
「飲むわい!!」
耳元で囁いたら即反応したわ。
じゃあ四人分のワイングラス(なぜかある)を用意しましてっと。
ワインって、あんまり注がないんだよね?
俺の記憶にあるワインの量を目安に、それぞれのグラスに注ぎ入れてっと。
本日のワイン――赤、酸味と甘みのバランスが丁度いいと書いてある、飲みやすさ重視(ボトル表記)のワイン也。
値段はまぁ、お札一枚で買える程度。
果たして異世界人の反応やいかに!
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