第112話 解放

「じゃあ、『OP』枠じゃなくなったんですね!」

「そうなんです!! それもこれもカケルのおかげですわ!!」


 地球上に居ながら無重力感じてたけど、リリウムさんが俺から離れたことでソレは消え。

 なんでリリウムさんに抱き着いて来たのか尋ねたら、王への謁見が上手くいったとの報告。

 結果、無事に『OP』枠を脱却でき、喜んでいるとのこと。


「塩釜と共に献上した、この世界産の純白の塩も大層喜んでいたな」

「あんなんで良かったんですかねぇ……」


 ちなみに俺が持たせた塩は重量にしておよそ十キロ。

 そこまで値段がするかといえばそんな事はなく。

 特にブランドの塩でもない、スーパーで買える奴。

 アレを、流石にビニールに入れたままというわけにもいかず、一応はラベンドラさんが差し出した革袋に入れたけど……。


「我々の世界では『白い』というだけで貴重だ。不純物がない、という証左だからな」

「砂糖なんかもそうじゃし、もっと言うなら宝石類も濁りなどがない程高い」

「塩を見た時、王はおろか周りの人間もどよめいていたな」

「この世界に来なければ私も数えるほどしか見たことありませんもの。あんな奇麗な白い塩は」


 ふぅむ……。

 こっちの世界だとむしろピンク岩塩とか、ミネラル分が多いちょっと茶味がかった塩とかのがいいイメージあるけどなぁ。

 向こうの世界じゃ、純度が高いって言うの? そういう塩とかが高級の証拠なのか。


「それから、『OP』枠が外れて、更には色んな方向から進言があったらしくてな。私たちは一気にBランクへと上がることになった」

「約一名、オズワルドだけは渋い顔をしてましたけどね」


 何故に? と思ったけど、オズワルドって人は確かリリウムさん達に餌付けされてた人だよな?

 その人、多分だけどある程度権力ある人なんだろう。

 で、今回『OP』枠が外れてさらには元のランクより引き上げられたって事例が出来ちゃって、リリウムさん達の後を追え! って考えを持つ人が出てくることを危惧してんじゃないかな。

 そもそも『OP』枠自体がポジティブなものじゃないし。

 リリウムさん達はただ向上心とかが無いからぶち込まれてたみたいだけど、確か前聞いた時は犯罪者予備軍みたいな扱いに聞こえた気がする。

 そこに入ろうと目論む人たちがどんな行動を起こすかなんて、ある程度は俺でも予想できるわけで……。

 まだ顔すら知らぬオズワルドとやら――南無。


「そうそう! それで、Bランク以上になった冒険者には二つ名が与えられてな。前に相談した事を王に伝えたら、無事にそれを二つ名として賜ったぞ!」

「私達にピッタリの二つ名ですわ!」

「最初は意味が分からんかったがな。よくよく考えたらこれ以上ない二つ名じゃわい」


 ……あー。採用されたんだ。俺の案……。

 二つ名だの、称号だの、確かに相談されたけど……。

 まさか本当に採用するとは……。

 俺、思い浮かばずに普通に調べたんだよな。過去にやってた某狩りゲーで、カッコいい二つ名! みたいな感じで。

 そっかぁ……この人たち、アレなのか……。


「『夢幻泡影』! まだ見ぬ、存在するかも分からない未知なる食材を求めて旅する者。夢幻の如く儚く、泡や影のように脆く、不定であるその道のりに、我々は身を委ねる」


 夢幻泡影。都合よく解釈してくれてるけど、要は人生って儚いよね、みたいな意味。

 それを人間よりはるかに長命のエルフ達が自分たちの二つ名として掲げてるんだぜ?

 どんな皮肉だよって話。

 ……でもまぁ、カッコいいんだよなぁ。

 丁度四人だし、漢字一つをそれぞれに当てはめたりしない?

 夢は……ラベンドラさんかな。こっちの世界の料理を向こうで再現するって夢を追ってるし。

 幻はリリウムさん。転移魔法とかいうバグレベルの魔法を操る、幻みたいな存在だから。

 あと、実態だと思ったら転移済みで、


「残像ですわよ?」


 とか言いそうだし。

 泡は……マジャリスさんかな。いや、特に理由とかないけど。

 弓と魔法を操る戦闘スタイルって言ってたし、宙を漂う位置で攻撃してそうっていう俺の偏見。

 影はガブロさん。理由は一つ、異世界産の食材とかいう俺にとって未知なものを定形にして持ち込むから。

 不定を定められるのは不定のみ。うん、それっぽく聞こえる。

 なお、ここまで俺の脳内妄想なり。


「ちなみに、一応Bランクの実力に相応しいかの実技試験的なものもあったんですが……」

「王の前で試験とか言われてな……」

「リリウムは転移魔法で跳びまわるし、わしとラベンドラは、万が一にも王に余波が及ばぬように手加減して立ち回らねばならんかったし」

「俺なんて、不可視かつ必中の矢があるんだぞ……。撃ったら最後、王の直属の騎士に怪我を負わせる……」

「それらだけで騎士団は呆然としてましたし、あれだけでBランクとされたのは不服ですわ」

「脇で見てた『ヴァルキリー』は顔を伏せて肩を震わせていたがな」


 ……んーっと?

 実力が全然出せてないのに評価されて不服だったって話?

 まぁいいじゃないですか。『OP』枠から抜け出せたんですから。


「さて、報告はこれくらいにして」

「そうじゃ! 今夜のメニューはなんじゃ!?」

「手伝おう、指示をくれ」

「豪勢なものがいいですわ」


 いつもの調子に戻った四人。

 なお、ラベンドラさんはさも当然のようにドラゴンエプロンを身に着けていますっと。

 豪勢……かは分からないけど、今ある手持ちの食材で腕を振るいますか。


「それじゃあ今日は、ミックスフライにしますか」

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