第226話 サラダ:焼き野菜

 ガブロさんが次に焼いてくれたのは牛ロース。

 うっすらとサシの入った綺麗なお肉。

 それが今、タレを付けられサンチュで巻かれ。

 更にはキムチも一緒に巻かれているというね。

 ……絶対に美味いじゃんかこんなの。


「この世界の肉も十分に美味いな」

「というか、一部魔物の肉を除けばこちらのお肉の方が上なのではなくて?」

「それを言うならこの世界にも安いお肉は存在しますからね?」

「だが、焼いても噛み切れない程固いような肉があるわけでもないだろう?」


 ……ありそうじゃね?

 いや、どうだろ……。

 焼くと固くなる肉はあるはずだし、ひょっとしたらあるんじゃないかな?


「この野菜で巻く、という発想がいいな」

「お野菜の瑞々しさと、さっぱり感が手伝って、スルスルと食べられてしまいますわ」

「酒がいくらでも進むわい」

「こちらのワインとの相性も抜群だ」


 ガブロさんはガブロさんでハイペースに飲んでるし、リリウムさん達もカパカパとワイングラス傾けてるんだよな。

 まぁ、どちらも美味しそうだからいいんだけど。


「次は何を焼くか……」


 で、いつの間にか焼き係になってたガブロさんが、次に何を焼くか思案中。

 と言うのも、俺が用意した牛肉は一巡は焼いたわけで、そのままデリシャスビーフイッシュに行くか、それとも別の肉を挟むかで悩んでいるらしい。

 なるほどなるほど。

 だがここは、


「一旦野菜にしましょう」


 切ってた玉ねぎ、ピーマン、カボチャを焼くように指示。

 そうそう、やみつきキャベツも出さないとね。


「野菜も焼くのか?」

「ですよ。肉の合間に挟んで、口休め……と言った感じです」


 本来の目的がそうなのかは知らん。

 でも、俺は野菜をそうやってとらえている。


「まぁ、カケルに従うか」

「だな」

「基本食べ物については間違えませんものね」


 あ、そんな信頼せんでもろて。


「……すまん、わしにもワインをくれんか?」

「どうぞどうぞ」


 で、ビールだけじゃ物足りなくなったガブロさんもワイン戦線に参戦っと。


「ごくっ。……かなり膨らみのあるワインじゃな。果実の香りがサッパリしちょる」

「上質なワインだ。……これがそこまで値が張らないとは、何とも信じがたい」

「可能なら、この世界のワイン作りも見て見たいですわね」


 ……信じられるか? これ、やみつきキャベツでワイン飲みながら言ってるんだぜ?

 合うんか? その飲み合わせ。


「焼けたみたいじゃぞ」

「カケル、野菜には塩か?」

「でもいいですけど、俺はタレですかね」

「ふむ」


 で、野菜も焼けたようなのでいただきます。

 へへ、ピーマンいただき!

 子供のころは苦くて嫌いだったけど、大人になってその苦みの良さに気付いたんよな。

 特にこういう肉食ってる時の、ピーマンの苦みって妙に美味く感じるのよ。

 おかげで青椒肉絲チンジャオロースーとか大好きになったわ。

 タレに浸して食べると、タレの甘みや味に紛れた苦みが丁度良くてね。

 米が進むとかじゃあないんだけど、気持ちをリセットするのにちょうどいいと言うか。


「この玉ねぎ! とても瑞々しくて甘いですわ!!」

「カボチャが……甘い!」

「このピーマン、かなり味が濃い」

「キャベツが美味いぞーい」


 ……それぞれ野菜も楽しんでいるようで結構結構。

 本当はね、新玉ねぎでも買おうと思ったんだけど、流石にもう売ってなかった。

 でも、普通の玉ねぎでも喜んでもらえてるみたいで何より。


「この世界のカボチャは果物のように甘いのだな」


 マジャリスさん、カボチャの甘さに感動してる……。

 こう、焼肉と言えばで買ってきたけど、どうしてもカボチャは冬のイメージある。

 冬まで待ってください。そうしたら本物のカボチャをご馳走しますよ。


「色も味も濃いピーマンは美味いな」


 で、ラベンドラさんはピーマンと。

 と言うか、一人で食いつくす勢いでピーマン焼いて食ってる。

 ストップストップ。あくまでメイン肉――デリシャスビーフイッシュまでの口休めなんだから。


「じゃあ、そろそろこちらの肉を」


 このままだと野菜が全滅しかねないので、ガブロさんに焼くように促して。


「む、任せんか」


 いざ、デリシャスビーフイッシュ、加熱。


「……で、どれから焼くんじゃい?」


 まだでした。

 このデリシャスビーフイッシュさ、俺の遊び心でいろんな形にスライスしたんだよね。

 オーソドックスな焼肉タイプ、ステーキタイプ、サイコロステーキタイプだったりさ。

 薄く長く引いた、焼きしゃぶスタイルなのも用意してる。

 と言うわけでまずはそれから。


「その薄切りの奴からお願いします」

「分かった。……すぐ火が通りそうじゃから、各自皿を持って待機じゃな」


 と言うガブロさんの言葉通り、焼きしゃぶ切りした肉をホットプレートに乗せた瞬間、胃を誘惑する音と共に一気に色が変わってさ。

 間髪入れずに裏返し、物の数秒で焼き上がり。


「焼き――」


 あがった、と言う前にその肉はリリウムさんの取り皿の上に転移してて、誰よりも先にリリウムさんがパクり。


「んまぁ♡」


 口元を手で押さえ、そう呟いたリリウムさんの顔は、これ以上ない程の飯の顔。

 堕ちたな。確信がある。


「ほい次!」


 次はマジャリスさんが確保し、そのままタレにつけて口の中へ。


「んんっ!!」


 リリウムさんと同じく口元を押さえ、目を見開き。

 もう何よりも驚きの表情を見せたところで、三枚目が焼き上がった。

 それを手にしたラベンドラさんは、サンチュで包み、味噌を少し載せて口の中へ。


「ふまい」


 やっぱり口元を押さえつつ、そう感想を漏らした様子を見ながら。


「ほれ」


 焼き上がった肉をガブロさんから受け取り、タレに浸して俺も口の中へ。

 すると、


「あっぷ」


 皆が口を押さえた理由が分かった。

 肉汁が溢れそうになるんだ、口から。

 口に入れた瞬間にジュース? と思うほどに溢れる肉汁。

 脂だけじゃない、肉自体から出たうま味のスープは、その膨大な量で口の中を満たし。

 噛む事無く、もはや飲めるその肉は、飲み込んだ後も口の中に確かな存在感を残し続け。

 米は進むしワインは美味い。

 多分、俺が生きてきた中で一番美味い肉だと思う。


「わっぴゅ」


 なお、最後に焼きしゃぶ肉を口に入れたガブロさんも、同じく口を押えてましたとさ。

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