第35話 増えた……

 掃除に洗濯を終え、人をダメにするクッションに埋もれながら動画視聴。

 休みの日にのみ許される怠惰な時間を謳歌して……。

 あー……明日はサウナにでも行こう。さっぱりしたい。

 なんて考えて、立ち上がる。

 鋼の意思で俺をダメにしていたクッションにさよならを告げ、台所へ。

 さてさて、夕飯の支度をしましょうかね。

 まぁ、支度と言ってもエビダトオモワレルモノを成形して塩を振る位なもんだけど。

 というわけでお楽しみのエビの成形タイム。

 ちょっと大きめのクルマエビくらいの大きさに包丁で切り出し――ません!

 今回作るエビフライは一味違うぞっ!

 目指すはアジフライみたいな魚を開いた時の形。

 ……少し前に会社の先輩に連れられて回らないお寿司のランチをご馳走になったんだけど、そこで出会ったんだよね。

 大エビを開いてフライにしたエビフライに。

 これがまた美味しくてさぁ!!

 普段のエビフライしか頭に無かった俺は衝撃を受けたわけよ。

 んで、思ったね。いつか俺もこんなエビフライを作るんだって。

 それが今、ナウ。

 というわけで二等辺三角形みたいになる様に包丁を動かし、人数分切り出していく。

 ……あの人らなら五枚とか食いそうだな。

 俺は多分三枚とかで限界……。

 なんて考えてたけど、余ったら四人にお持ち帰りさせればいいんだし、別に多くても問題ないか。

 というわけで張り切って30枚も切り出したわけですよ。


「並べると壮観ですなぁ」


 それら全部に塩を振るためにまな板に並べたけど、流石に入りきらなくてさ。

 とりあえず乗るだけ乗っけて塩振って、残りはテーブルにラップ敷いてそっちでやった。

 で、思ったんだけど、


「流石にやり過ぎたか?」


 やったの自分なのに、思わず反省しちゃった。

 そんな食べられないと思うからさ。

 いや、エビフライだけならいけない事も無いと思う。

 ただ、普通に米炊くしなぁ。って。

 そもそもエビフライも通常の大きさよりもかなり大きいからね。

 下手すりゃとんかつと同じサイズですわよ。

 あんまり分厚く切ってもってことで、厚さはとんかつの半分未満だけども。

 ……これ、本当に俺は三枚も食えるか?

 ま、まぁ、食べきれなかったら四人にパスしよう。

 誰かしらが食ってくれるでしょ。

 あとはバッター液作って、パン粉も用意してっと。

 四人がいつ来てもいいように準備して、四人が来るまでリラックスタイム。

 人をダメにするクッションにダイブし、蒸気の出る使い捨てアイマスクを装備。

 極小音でスマホからクラシックを流し、四人が来るのを待つ。

 ……気を抜くと寝そうになるから逆にきつかった。



「お邪魔しますわ」

「腹減ったわい」

「やっと飯だな」

「カケル、今日はどんな料理を作るんだ?」

「ただいまー」


 いつも通りに四人が――うん?

 今一人多くなかった?

 でも目の前にはいつもの四人しかいないし、気のせいか。


「今日は――」


 気を取り直して今日のメニューを四人に伝える瞬間、俺たちの居る部屋の扉が力強く開き、


「愚弟ー!! お姉ちゃん様の帰還だぞーっ!! 今日のご飯はなんだーっ!?」

「エビフライを……」


 数年前にどこかへ飛び出していった俺の姉。

 『臥龍岡 咲苗さなえ』が飛び出してきた。

 ……うん、全員ポカーン状態。

 もちろん、姉貴も。

 まぁ、イケメン二人と美女、身長が小さい小太りおっさんが部屋に居たら誰でも驚くよな。

 ……どうしてくれんの? この空気。



「じゃあ、リリウムさん達は実力派冒険者って事だ!」

「そうなりますね」


 あれから三分。

 姉貴は、俺の状況を理解し、さらにはすっかり四人に馴染んでいた。

 いや、俺が言えたことじゃないかもだけど順応早過ぎね?

 カップラーメンが出来る速度と同じ速さで馴染んだぞこやつ。


「にしても翔がねぇ。人様に料理を振舞っているとは」

「成り行きだけどね。……んで? 姉貴は今まで何してたわけ?」


 ラベンドラさんは既に俺の隣に配置済み。

 というわけで油を熱してバッター液にエビを浸し。

 衣をつけて油に投入。揚がったのは片っ端からバットの上に乗せていく。

 バットってあれね、揚げ物の余分な脂を切るためのタッパーと金網が一緒になったみたいなやつ。

 揚げたままじゃ脂っこいと思ってさ。

 いやまぁ、俺が歳で油物がきつくなってきたってのもあるんだけども。


「仕事の為の勉強と、人脈とコネ作り」


 いやあの、そんな伝えてたじゃん? みたいな顔されてもさ。

 そもそも勉強の為に家を出て行ったのは知っているわけで、その勉強の内容をですね?


「……? あれ? 私、翔に将来の夢言ってなかったっけ?」

「ウルトラマンと結婚する?」

「いつの話してんだっての。それ言ってたの小学生なりたての頃とかでしょ」


 あ、覚えてんだ。


「じゃなくて、私将来宝石商になりたいって思ってたのよ」

「そんな事言ってたっけ?」

「言ってないんじゃない? なりたいと思って目指し始めたの、五年位前だし」


 あ、結構最近ですね。将来の夢を持ったの。


「それよりお腹すいたー。ご飯まだー?」

「今揚げてるからもうちょい待って」


 突然帰ってくるもんだから用意なんて出来ちゃいないよ。

 まぁ、今日はたまたま多めに作ってたから、ご飯は問題ないけどさ。


「はーやーくー!」


 駄々をこねない。

 リリウムさん達が真似したらどうすんだよ全く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る