第93話 背景に花とか浮かんでそう
「しっとりとしていてジューシィなお肉!! 噛めば噛むほど肉汁が溢れ、ソースのさっぱりした酸味がその肉汁を洗い流してくれますの!!」
大きな声で食レポし、ご飯を掻っ込み。
「そして口の中に残ったうま味でご飯を食べる!! これが最高と言わずして何と言いましょう!!?」
そう言って、ゆっくりとみそ汁の入った椀を持ち上げ、口を付け。
音を立てずにみそ汁を飲むと……。
「ふぅ。落ち着きましたわ」
さ、さいですか。
いやぁ……リリウムさんがああなるとは、正直驚いた……。
うん。ラベンドラさんとか目を見開いてリリウムさんを見てるし。
同じパーティメンバーでも驚くほどの豹変っぷりだったってわけか。
「おお! リリウムの言う通り肉は柔らかくジューシィ! さっぱりとした酸味のソースが後を引くわい!」
なお、毛ほども気にしていない様子のガブロさん。
普通にチキントマト煮込みを食べてるよ。
なんか、いちいち驚いてられんわい。とでも言いたげな雰囲気だな。
ガブロさんは過去にリリウムさんの豹変を見ているっぽい?
「このソースの中の野菜たちはなんだ?」
「あ、キノコと玉ねぎです」
まだ固まってるラベンドラさんの代わりに、マジャリスさんがソースについて質問してきた。
……ん? そういえば……。
「向こうの世界に、キノコって生えてるんですか?」
「? 普通にマイコニド程度生息してるぞ?」
キノコが通じてるかどうか聞いたのに、気が付けば魔物になっていたでござる。
なんだこれ、エキサイト翻訳よりひどいぞ……。
「あ、えっと……こっちの世界にはマイコニドは生息してなくて……」
「カケル、大丈夫だ。今のはマジャリスがふざけてみせただけだから」
ようやく戻ってきたラベンドラさんにそう言われ、マジャリスさんの方を見ると。
してやったり、と言った顔で、ペロリと舌を出していた。
……そう言えばまだ牡蠣はあったな? ……何も言わずに牡蠣食わすぞ?
そっちの世界ではフルーツなんでしょ? フルーツだと思って牡蠣を食べた反応が俺は気になるなぁっ!
「む!? なんだこの肉の柔らかさは……」
俺の邪悪な考えの横で、ラベンドラさんが一口食べて驚愕。
そんな驚く事?
「ナイフを入れた時も思ったが、この肉はもっと固いはずなんだが……。何がここまで柔らかくさせた?」
「マイコニドだろ」
マジャリスさん、もういいって。
ラベンドラさんは真剣に考察モードに入ったんだから邪魔しちゃダメ。
というわけで、俺もいただきます。
……ふゎ。馬ぁ……。
美味すぎて、ウマになったわね……。
「うまっ」
いや、嘘じゃん? こんな美味くなる?
リリウムさんが言った通り、噛むとジュワッと溢れる肉汁。
それをトマトの酸味が上書きした後、舌にズドンとくるニンニクやら、コンソメのうま味よ。
それでソースの味わいが終わると、まだ出続ける肉汁が再び口の中を占拠。
脂のうま味を口内に塗りたくって、ようやく嚥下される、と。
肉もしっかり歯ごたえというか、噛みごたえはあるのに固くないし、かといって柔らかすぎるって事も無い。
力を入れて噛めば噛み切れるし、噛み切れる寸前まで肉汁を染み込ませたスポンジみたいに歯を受け止めながら肉汁を吐き出す。
例えるなら何だろう……ちょっとお高めのレストランで食べるような超上質な鶏肉みたいな。
ダメだ、俺の貧相な語彙では上手く例えられない……。
「ラベンドラ、これはこの世界の素材だからここまでになったのかしら?」
「試してみなければ分からん。だが、メタボレッドマンドラゴラならば比較的手に入りやすい。色々と思考錯誤してもそこまで値は張るまい」
? メタボレッドマンドラゴラ?
太った、赤い――トマトか? トマトだな?
「このソースに加えられた香草、どこかで……」
早々に肉とご飯、みそ汁を完食し、さらに残ったソースを食べていたマジャリスさんがポツリ。
香草って事はローズマリーの事か。
美味しいよね。肉全般に合う万能香草ですわよ。
「あぁ、あの時商人から――」
「出せ」
んで、ローズマリーに覚えがあると口走っちゃった瞬間、もの凄い勢いでラベンドラさんがマジャリスさんに詰めた。
その距離、鼻がぶつかりそうな距離。
もっと言うなら、ポッキーゲームでもしてるんか? くらいの距離。
「ま、待て! あれは俺が買ったもので……」
「いくらだ?」
ラベンドラさんの圧が怖いよぅ。
助けてリリウムさん!
「はぁ……。美味しかったですわぁ……」
ダメだ! お茶を飲んで落ち着いていやがる!
ダメだと思うけどガブロさん!?
「酒に合いそうな料理じゃったな。……酒が飲みたいわい」
やっぱりか! 誰か!? 誰か、イケメン二人を止められそうな方は居ませんか!?
「今後二回、お前のリクエストで飯を作ってやる。それでどうだ?」
「……三回だ」
「分かった」
あ、決着ついたようです。
二人の距離が離れていきますわ。
「受け渡しは向こうでだ」
「了解した」
うん。二人ともちゃんと自分の座ってた場所に戻っていったよ。
で、一番遅い……というか、じっくり味わい、考察しながらのラベンドラさんが食べ終わるのを待ち。
皿を片付けて、お土産の料理へと着手。
本日のメニュー、チキンタツタバーガーなり。
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