第442話 (必要)ないです

 ……。


「ふむ、かなり美味い」

「十分ではありませんこと?」

「やはり微発泡のゼリーが入った事で食感に違いが出て美味いな」

「よかった……」


 異世界のフルーチェ……。

 正直、どっちかだと思ったんだよ。

 ラベンドラさんだし、完璧に再現してくるか、ラベンドラさんが匙を投げるレベルで酷いか。

 でもまぁ……う~ん……。


「普通に美味しいよね?」

「うん」


 なんだろう、フルーチェ……とまではいかないけど、食べられない程じゃないし、別に美味しいって感じ……。

 ただ、本来のフルーチェよりも甘さが弱いし、何より微発泡ゼリーが入っているとはいえ果汁が混ぜられていないとの事で、味わいがずっと物足りないかな。

 フルーチェってより、ババロアとかの方が近いかもしれない。


「タルトにしたのも苦肉の策か?」

「そうだ。食感の違う物を加えることで、より再現フルーチェの柔らかさを引き立てる目的だ」

「甘さがもう少しあっても良ろしかったのでは?」

「結構甘くしたつもりだったが……」


 ……ハッ!? この時、ピンと閃いた。

 このアイディアは、ラベンドラさんのスイーツに活かせるかもしれない。


「もう後乗せでジャム行っちゃいましょうよ」


 ――その時、ラベンドラに電流走る。


「……ずっと混ぜることばかり考えていた」

「そうですわ、食べる時に塗ればいいだけですわ」

「ジャムなら相応に甘いじゃろうし、果実感も補える」

「で、ジャムは?」


 掛かるなマジャリスさん。

 えーっと……マーマレードとイチゴジャムなら在庫がありますね。

 お、ブルーベリーもあった。


「これらでどうでしょう?」

「早速試そう!!」


 と言うわけで再現フルーチェ、現代のジャムを添えて~。

 再試食開始。


「うむ!」

「これですわ~!」

「美味いわい」

「最高だな!!」


 うん、一気に美味しくなった。

 と言うか、これならフルーチェに近いかもしれない。

 やっぱ果汁感と甘さは重要なんやなって。


「これなら微発泡ゼリーの作り方を聞く必要なかったのではなくて?」

「随分と鮫トレをされていただろう?」

「言うほどではない。未発表のレシピをいくつか持って行かれただけだ」


 ……久々聞いたな、鮫トレなんて言葉。

 本来はシャークトレードって言葉で、カードゲーム用語。

 割に合わない交換を吹っ掛ける側を指す言葉で、食い物にする、から鮫って呼ばれるようになったとかなんとか。

 ちなみに被害者はグッピーと呼ばれる。

 ……鮫ってグッピー食べるんかな?


「十分ぼったくりですわね」

「……いや?」

「強がりはよせ」

「大真面目にそこまで思っていない。第一考えてみろ、仮にレシピを手に入れたとして、材料はどうする?」

「どうするって……買うんじゃないですか?」


 再現用のレシピだろうし、向こうの世界にあるものだけしか書かれていないはず。

 だったら買って揃えればいいだけなのでは?


「私達Sランクが集めるような材料だぞ? おいそれと手が出る金額じゃない」

「……あー」

「つまり、レシピだけ持っていても使い道がない?」

「そうだ。調理士であるならレシピ通りに作ってハイ終わり、と言う訳にもいかない。試食、アレンジ、それを経てからの本番……と、材料はかなりの量必要だ」

「じゃが、そもそも材料が手の届かない食材だ、と」

「ラベンドラの方が十分鮫側ですわね」

「未発表のレシピ、という魅惑の言葉に食い付いた相手が悪い。しかも、考えを纏められる前に追加でレシピを乗せた。その時点で冷静に判断出来る状態ではなかっただろうな」


 聞く感じ、異世界での新料理のレシピって、マジで金のなる木みたいな扱いだからな―。

 目の前に積まれる未発表レシピを見ながら、捕らぬ狸の皮算用して、ホイホイとラベンドラさんと取引したんだろう。

 微発泡ゼリーと言う1ベットだけで、未発表レシピと言うどんな量か分からない資金を持つラベンドラさん相手にコールしたのが間違いだった、と。


「まぁ、大会決勝まで残ったんだ。これから店は繁盛するだろうし、近い内に渡したレシピの一つくらいは店に並ぶかもしれんがな」

「それでも一つか……」

「ふー、美味しかった」


 なんて話をしてたら、しれっと姉貴が完食してた。


「ちなみにジャムはどれがお気に入りだった?」

「マーマレードかな。皮の食感が再現フルーチェをマッチして、タルトともいい感じだった」

「なるほど」

「翔、紅茶淹れて。多分合うから」

「ほいほい。皆さんも紅茶飲みます?」

「「欲しい!!」」


 完食した姉貴の一声で、みんなに紅茶を淹れることに。

 確かに紅茶、合いそうだな。 タルト生地にはもちろん合うし、果物のジャムにも合うから。


「これも貴族のお茶会に並ぶことになるのかのぅ……」

「再現フルーチェを作り出した調理士次第だが、既に何人かの貴族は唾を付けていると思う」

「その辺の手回しは早いからな」

「位階の低い貴族は躍起になるでしょうね」


 ……やっぱりさ、こういう争いとかも含めて、異世界は俺には無理だと分かる。

 少なくとも、日本に産まれた日本人は異世界で生きていけないと思うよ。

 それこそ、チートスキルでも無いと、ね。


(む? 欲しいのか?)


 必要ないです。

 第一、貰っても使う機会無いので。


(散々世間を賑わせとる、人里に訪れる熊を素手で倒せるぞい)


 貰ってどうする。そんな怪力。

 後絶対に面倒な事に巻き込まれるので嫌です。


(あ、いや……その……。もちろん冗談で、別に本当に渡すつもりは……)


 ……?

 神様?


(じゃから、この世界の住人にはそこまで干渉せんとお主らに誓ったじゃろうが。あれに嘘偽りは無いわい)


 ……これ、八百万の神様に詰め寄られてる……?

 かみたまー、がんばえー。


(こ、こら! 変な事を言うな!! まっ……つぁっ!? ちょぎ……)


 ――合掌。

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