第95話 『ヴァルキリー』の目的

 休みです。

 仕事が休みです。

 大事な事なので二回言いました。

 というわけで休みの日にしか作れないものを作りましょ。

 正確に言えば、休みの日にしか作る気が起きないような面倒くさい料理、だけども。

 んじゃあ早速、材料の準備から。

 まずはトリニチカシイオニクを手動でミンチにしていこう。

 リリウムさん達から貰った異世界産のお肉、たびたび手動でミンチにしていくんだけどこれが美味しいんだよなぁ。

 手間だけど。

 マジで手間だけど。口に当たる肉っ!! て主張が凄く好き。

 下手したら今後ミンチ肉買わないかもしれないレベル。

 嘘です。絶対に面倒なので買います。

 肉がミンチよりひでぇや、状態になったらお次はお野菜。

 ネギをたっぷりと、ニンニク、ショウガをそれぞれみじん切りにしまして。

 準備はバッチリ。

 続いて調味料の準備。

 たっぷりのごまにコチュジャン、豆板醤、甜面醤、砂糖、醤油、酢、料理酒を合わせ。

 ここで隠し味にピーナッツバターを少し。

 香ばしさとコク、まろやかさがグンと増すんだよね。

 入れすぎると全然隠れてくれなくて困っちゃうけども。


「汁なし担々麺、久しぶりだなぁ……」


 本日のお昼ごはん、ズバリ汁なし担々麺。

 好きで何度も作ってるんだよね。

 そのせいで、豆板醤やら甜面醤やら花椒にと調味料が常備されてるくらい。

 そしたらさっき切った肉と野菜をごま油で炒めまして。

 ラー油と共に調味料を投入!!

 塩コショウ、花椒に山椒、一味唐辛子を後から振り、肉に火が通って汁気が飛んだら具の完成。

 もちろん調味料はお肉によ~~く絡めましょう。

 ……あ、辛い。もう辛い!

 目に染みるくらい辛い!!

 ……そしたら続いて麺の用意。

 今日は太めの中華麺にしてみました。

 担々麺には太めが合う……気がする。

 茹でて、ザルに上げて水で洗ってぬめりを取り。

 先にお皿に盛りまして。

 ハイ問題! 担々麺の名を関する料理にとって欠かせない野菜は?

 ハイそこのあなた早かった! チンゲン菜? その通り!!

 というわけで湯に潜らせたチンゲン菜を添え、彩りと心なしかの野菜を取っている安心感を演出。

 そこに先程の具を好きなだけ盛り付けて~。

 完成!! 特製汁なし担々麺!

 ……店の雰囲気を出すために糸唐辛子もこそりこそり。


「もう絶対に美味いんだよなぁ」


 普通に作って美味しいんですよ?

 それが普通の鶏肉より美味しいトリニチカシイオニクで作ったならなおさらよ。

 食べる前に卵黄を落とし、よー-くかき混ぜて。

 いざ! 実食!!


「ほぁっ!?」


 口に入れた瞬間、舌を刺す辛さは一味とラー油か!? だが、まだだ、まだ終わらんよ!!

 太めの麺を噛み切り、口の中で咀嚼して……。

 きた来たキタ! トリニチカシイオニクの肉汁の洪水!!

 油は辛さを溶かすって言うし、気持ち多めに振って正解だった。

 肉汁で辛さが流されていくわ~。

 ……と思ったらここで花椒の痺れる辛さ!

 そこに山椒も合流しやがる……っ!!

 ビリビリと舌先を突いてきますわ。

 だが全然耐えれる。その間にもう一口……。

 って口を開いた瞬間、口の中に流れ込んできた空気が口内の花椒に力を与える。

 新たな空気を纏った花椒が、口内で元気に活動開始。

 痺れる舌を歯で噛みながら、次なる一口に手を伸ばす。

 からひ。……辛いけど美味い!

 冬というのに汗は噴き出し、頭皮が辛さで痒くなり。

 一口食べ進める度に、口内の痺れは強まり、広がり。

 けれど、食べる手は、動く口は。

 その動きを止める気配はない。

 本能が分かってるんだわ。美味いってさ。

 その美味さを求めて体が勝手に動いちゃうんだ。


「ふぅ。……ご馳走さまでした」


 完食。過去一美味しかった汁なし担々麺だった……。

 なんて満足しながら一息つき、コップに注いだお茶を飲もうとして……。


「んぶっ!!」


 口に含んだ瞬間、花椒の刺激が倍くらいに膨れ上がり、危うく噴き出しかけた。

 そういや、水分は逆効果なんだったな……。



「それじゃあ、お疲れさま」

「お疲れ様でしたわ。とても有意義な探索になりました」

「それはこちらの台詞だ。ふふ、貴方のパーティとの共同探索ではこちらのメンバーも形無しだな」


 ダンジョンの探索を終えたリリウム一行と『ヴァルキリー』は、ダンジョンボスを討伐し、それまでの取得物や素材などを山分けし。

 入口に戻り、挨拶を済ませ。


「それじゃあ、我々は向かう所がある」

「もしご縁があれば、またよろしくお願いしますわ」

「それもこちらこそ、だ」


 しっかりとトリタツタバーガーを受け取り、『ヴァルキリー』は歩き出す。


「まさか本当に野心が無さそうなのには驚いた」


 リリウム達から離れ、声が聞こえない事を確認し、ヘスティアが口を開き。


「実力も申し分なく、それぞれ自分の役割も完璧」

「犯罪を企ててるようにも見えねーし、マジで食材の為に『OP』枠を脱却する気なんだろーな」

「解体、調理、結界、それぞれがトップ層どころか天辺と言ってもいいような方々でした」


 それに続き、他のメンバーもリリウム達の報告を開始。


「国王には『OP』枠から外しても問題なし、我々が保証すると伝えるぞ」

「にしても今までで一番楽だったな―。ダンジョン探索も監視も」

「メンバーは統率が取れていましたし、無駄な動きもありませんでした……」

「他のパーティも見習って欲しい」


 どうやら、国王からリリウム達の監視を命じられていたらしい。

 それが、『OP』枠を脱却する最後の試練であったようだ。


「ていうか、あいつら店構えて欲しーな。あいつらの出す料理、どれも美味かったぞ?」

「『頂の一皿』と評された、あらゆる貴族が迎えたがっていた料理人があのラベンドラ。だから当然」

「本当なのですか? ……なぜそんな方が冒険者に?」

「彼は貴族の会食に料理を出す予定だったんだがな……。一か月後に控えた会食に出す料理に、最高の食材を使うべく――二年も探しに出かけていたそうだ」

「……エルフが時間にルーズなのは本当だったのですね――」

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