第358話 とある来場者の独白・前編伝説
~とある来場者の独白。
友人がチケットを二枚当てたから参加したけど、私は正直乗り気じゃなかった。
イカルガエンターテイメント大感謝祭。
今や飛ぶ鳥落とす勢いで成長を続ける、一大冒険配信者企業。
そこが大きな展示場を使って行う、年末のお祭りだ。
正直、ここがこんなに大きくなるなんて思ってもいなかった。
私はそう、この企業をここまで大きくしたある少女のことを知っている。
きら星はづき。
現役女子高生配信者。
確かに顔は可愛いし、スタイルだってちょっとふくよかとは言え、悪くない。
動作はあざといなって思うくらい、わたわたしてる。
で、明らかに人とコミュニケーションするのが苦手なんだなというのが端々に見えたり。
つまり、なんか……。
男たちが好きそうだなって思う女だ。
私がキライなタイプの女……だった。
私は彼女の兄である斑鳩という配信者のファンで、ガチ恋勢だった。
それで、全てを賭けて彼を応援していたけど、彼はいきなり引退して、私はすべてを失った。
茫然自失の日々を送っていたら、彼女がデビューした。
きら星はづきだ。
いきなり、彼女がいた。
そして彼女の配信の中に斑鳩の声があった。
斑鳩の妹!?
妹だって言うだけで、ずっと一緒にいて、手伝ってもらって、それで配信者になったの!?
舐めんじゃない。
ふざけんな!
私は怒った。
それで、私の他に何人もいた斑鳩のファンだった子たちと一緒に、彼女の配信を荒らした。
見事、彼女はBANされて……。
ざまぁみろと思った。
そして少ししてから、恐ろしくなった。
BANされた配信者はどうなる?
それって、つまり、恐ろしいダンジョンで何の力もなく孤立することになる。
私は幼い頃、ダンジョンに巻き込まれたことがあった。
そこを配信者に助けてもらっている。
だから、冒険配信者のチャンネルを幾つも登録しているし、彼らに感謝してもいる。
そんな彼らも、ダンジョンで命を落とす。
自らの実力に見合わないダンジョンに挑んだ時とか、あるいはBANされた時とか。
ザッコ伝いに、大喜びするかつての仲間たちをよそに、私は青ざめていた。
あ、あの娘は死んじゃうんじゃないか。
斑鳩の妹である彼女は、どれだけいけすかない女だからって、死ぬのは良くないんじゃないか。
そうしたら……。
いきなり、チャンネルが復帰した。
彼女のチャンネルの同接数が、跳ね上がっていく。
数字の回転が止まらない。
なんだこれ、なんだこれ。
見たことがない光景だ。
だけど、なんか分かってしまった。
彼女は本物だ。
そう、自分の奥深いところで分かってしまった。
復活したきら星はづきはダンジョンをクリアして、コラボしていたベテラン配信者、チャラウェイを助けた。
そこから、彼女は有名になった。
私と他の実行犯だった子たちはみんな捕まり、一応執行猶予ということになる。
でも前科がついてしまって、私は決まっていた大学には入れなくなり、理解があった彼氏には振られ、両親はフォローしてくれたけれども最悪の状態になった。
一応バイトでも受け入れてくれるところがあって、そこで働かせてもらってはいるけど。
そんなきら星はづきが大きくしたイカルガエンターテイメント。
まだ友人でいてくれる彼女が、私を誘ったのはどうしてなんだろうか。
ソシャゲくらいしか楽しみが無くなった、今の私を見かねてなのか。
大きなお世話だな、と思う。
気持ちはありがたいけど、私は今も、きら星はづきがキライだ。
前とは違う意味で、だけど。
それに……。
「いろんな企業が協賛してんのね」
「そうだねえ。はづきっち、どんどん有名になるよねえ。すごい! 全然年下なのに、バンバン配信して、どんどん新しいことして! 歌みたも良かったー」
友人は目を輝かせている。
本当にきら星はづきが好きなんだな。
私にはその気持ちが分からない。
いや、なんか、分かってしまうと戻れなくなる気がして。
「でもさ、それって大人が子供を食い物にしてるわけでさ。お金とかそういうので、きら星はづきって娘でどうやって儲けようかしか考えてないでしょ」
しまった。
いらないことを言ってしまった。
今でも友達をやってくれる彼女の気分を損ねたら、最後の友達までいなくなってしまう。
私は己の憎まれ口を呪った。
だけど、彼女はきょとんとしていた。
「そうかなあ? はづきっちは楽しそうだけど。それに、突然二人になっちゃうし、アメリカ行ったと思ったらイギリス行っちゃうし。それくらいのこと、なんでもないと思うな」
何も言えなくなった。
確かに、きら星はづきは意味のわからない大活躍をしている。
私が彼女をBANさせようとした時には、想像もできなかった活躍だ。
彼女を知らない人はもういない。
誰だって、きら星はづきを知ってる。
「ほら見て見て! はづきっちのメモリアルジオラマ! うひゃー! 150万円だって! こんな小さいのに」
「小さいって言っても、部屋においたら身動きできなくなるよ。私の部屋はベッドしか置けなくなる……」
「あはははは! そうかも! でも、ほら、売約済みだって。欲しい人たくさんいるんだねえ。あ、次行こ、次! コラボフードでね、はづきっちのスイーツの空海両断ゼリーソーダっていうのがあってね、ミニサイズだけ二つ予約したから……」
私は彼女に引っ張られて、フードコーナーへ行った。
冗談みたいに広いフードコーナーで、みんなが食事をしている。
コラボフードって、もっと軽食みたいなものじゃないの?
なんであそこの人は普通の定食を食べてるの?
そして、彼女が持ってきたきら星はづきのコラボフードは、レモンソーダにライムゼリーが浮かんでて、チョコバーがあしらえられた高カロリーっぽいものだった。
ま、まあ、彼氏もいない私が体型を気にする必要はないし。
きら星はづきとやらのプロデュースしたスイーツを食べてやろうじゃない。
お味はなんというか、柑橘系にチョコバーだった。
カロリーモンスターの味がする……。
このミニサンデーサイズの器で、一食分のカップラーメンくらいのカロリーがあるよね?
うわっ、あそこで男三人で巨大な器のスイーツをシェアしてる……。
冗談でしょ、あんな大きさのスイーツ。
「あれね、はづきっちが配信で作ってたんだよー」
「自作なの!?」
意味の分からない女だ……!!
少しすると、ステージイベントが始まった。
イカルガの配信者たちが出てきての、クイズ大会みたいな。
メンバーが10人ほどだから、みんな出ずっぱりだよね。
大変そう。
というか、冒険配信者はダンジョンを攻略して人を助けるのが仕事なのに、こんなイベントを大々的にやってる暇あるわけ?
私は自らが、かつてなうファンタジーの大規模イベントで盛り上がっていた過去を棚に上げた。
そうしたら、銀髪に白いコートを纏った男性が現れて、司会席につく。
私の頭がショートした。
い、い、斑鳩様ーっ!!
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