第263話 二人のデビューと、はづきコメンター伝説
「お前ら、こんきらー。今日はですね、イカルガエンターテイメントの新人二人のデビューイベントでして、これをみんなで見ながらやいのやいの言おうという配信です」
「みんなー、本日もかいてーん!」
「よく来たわね。地獄の底まで付き合ってもらうわ」
「オッス! みんな今日もよろしく!」
「オタクくんってこう言うの好きなんでしょ? 今日もよろしくね」
※『うおおおおおおおお!?』『まさかの五人コラボ!!』『イカルガエンターテイメントの先輩配信者五人で新人の配信を見ていくのかあ』『これは豪華だなあ』『あっ、それぞれのチャンネルでもやってるんだ』
そうそう。
なので、推しの配信者のところに行ってね。
※『みんなの背景が真っ黒なんだけど』『スタジオで配信してる?』
「今日はですねー。デビューイベント用に攻略する特別なダンジョンがあって」
私は宇宙さんと企画さんが一緒に作った図を、Aフォンから表示した。
「ジェミニビルってご存じの方もいると思うんですけど、都心の雑居ビルで、チョーナンビルとジナンビルの二つのそっくりなビルを間の大きな空中回廊で繋いでるんですね。チョーナンをカナンさんが、ジナンをファティマさんが攻略します。で、私たちは……」
ぐーんとカメラが遠ざかっていく。
リスナーさんたちがみんな、『!?』と反応した。
お分かり頂けただろうか。
「はい! 私たち五人はここです。空中回廊からお届けしていまーす」
※『よりによって二つのビルの間で中継w』『確かに両方のダンジョンにすぐ行けるけどさw』『ビルがダンジョン化してるならどうやってそこまで行ったんだ?』
「これはですね、普通にビルに突入してここまで突っ切ってきました。迷宮省のカラスがあると便利なんですけど、あれって一応国のものなんで」
お前らは納得してくれたようだ。
※『まあ、はづきっちならやるよな……』『巨大ダンジョンに突撃して、空中回廊まで強行突破かw』『これでダンジョンを攻略しない辺りがはづきっちだ』『それにしても……。新人にいきなりビルのダンジョン任せて大丈夫なのか?』
「何かあった時のために私たちがここにいるわけで……。あ、始まりましたねー。まずはカナンさんからです」
横の画面にカナンさんの配信が映る。
ぜひ、二窓してこの配信を見て欲しい。
※
「私はイカルガの新たなる配信者、カナン。弓と風の魔法を得意としている。お見知りおきを願おう」
※『こんばんはー』『こんばんはー』『かわいい』『よく知ってます』『はづきっちの配信によくいるもんね』
「なに? 知っている? それは結構なことだ。はいこんばんは。こんばんは。私は見ての通り、あまり喋るのが得意ではないのだが、ハヅキと斑鳩に誘われたのでこの配信者というものをやってみようと思っている。しかし人間の作った建物というものは大きいな……。ファールディアにまだ人間が存在していた頃、彼らが作った城塞を見に行ったことがあるがこれほどの大きさではなかった。カブキザというのがあっただろう。あれくらいの大きさだった」
※『めちゃくちゃ喋るじゃんw』『うんちく系配信者だったのかw』『きれいなエルフの声でさらさら淀みなく喋ってくれるの心地良い』
「そうかそうか気に入ってくれたか。では私の拙い会話にも少しばかり付き合ってくれるとありがたい。ではダンジョンを攻略していこう。以前の私であったらダンジョン攻略など考えられなかった。それはあくまで一人のエルフとして、戦闘力に限界を感じていたというものもあるのだが、この世界の仕組みは不思議なものだ。こうして皆に見てもらっていることで、今までにない力が外側から私に与えられるのがよく分かる」
※『流れるように喋り続けてるなw』『こんなに喋る人だったんだw』『頭の回転が早いから、どんどんトークが出てくるんだろうな』『天性の配信者であったか……』
※
「カナンさん、めちゃくちゃ喋ってる」
「普段は無口な方なのにねー」
「カナンは他のみんなが喋っている間は、意識して聞き役に回っているわ」
「ほえー、大人なんだなあ」
「社会人ってそういうものよ。たぶん」
※『この五人の会話が一度に聞けるのもレアだ』『今回の配信は大当たりだなあ』『あっ、カナンちゃんがモンスターと遭遇した』
「大丈夫大丈夫、カナンさん強いから」
私は彼女の力をよく知っているので、まったりと構えている。
今の彼女のチャンネルの同接数は1万人。
これだけの力を集めれば、生半可なモンスターなんか鎧袖一触なのだ。
ほら、風の魔法がフロアを丸ごと薙ぎ払った。
フロアにあった机とか椅子とかパーテンションもバラバラに引きちぎられたけど。
まあセーフ。
※
「お、驚いた。同接の力というものはこれほど凄まじいのか! 私の魔法が、まるで百人単位で行われる儀式魔法のような威力に変わっていたぞ……!! これではおいそれと魔法が使えないな……。おや? フロアのあちこちにキラキラ輝くものが散らばっている。ダンジョンコアか。この世界ではこれを集めて資源にしているのだろう?」
※『そうですそうです』『私たちはダンジョンコアに支えられて生活してるんだよねー』
「そうか。では余さず回収……なに? Aフォンから斑鳩の声が……。配信者協会から派遣されてくる回収チームが全部拾ってくれる? なるほど、便利なものだ」
※『状況全部喋ってくれるから、本当にこの配信は分かりやすいなあ……w』『読み聞かせみたいだw』
「ああ失礼。このまま進んでも構わないそうだ。では行こう。上の階へ向かっていくわけだが、階段の他にこのエレベーターというものは便利だな。もちろん、ファールディアにも似たようなものはあった。魔法の力を使った昇降機なのだが、あくまで大きな箱に入って魔法の力で三階程度の距離を上下するような」
※『立て板に水の勢いで喋る喋るw』『イカルガで一番喋るんじゃないかこのひと……というかエルフw』
「とまあ会話をしながらエレベーターに乗ったのだが、天井を開けてモンスターが乗り込んできたな。いつもならば追い詰められている状況だが今の私はこのように皆の同接力を受けている。安心して欲しい。近接武器であるダガーも素晴らしい威力を発揮してこのように」
『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』『ウグワーッ!』
「今の連中はダストストーカーという粉塵状に変異する魔法生物のようなモンスターなのだが、彼らの影に当たる部分にコアがある。だから本体を見ずに足元を見ると、キラリと輝くコアを貫けるわけだ」
※『解説しながら戦ってる!』『ほんまよく喋るわあw』『それにモンスター知識が豊富だぞ!』『すごい個性だな、このエルフw』
※
「あっ、エレベーターから出てきた。弓矢で大暴れしてる。カナンさん、配信者の力を受けるとめちゃくちゃ強いなあ」
さすが、本場ファンタジー世界で戦ってきた人だよね。
しかも今何をやっているとか、あのモンスターはどういう相手でどこが弱点だとか、全部説明してくれている。
これは資料的価値が高い配信なのでは……?
だけど流石に情報量がめちゃくちゃ多いので、ここで休憩ということになった。
カナンさんもちょうど真ん中のフロアまで来ている。
「カナンさん、そこで一旦休憩です! 次はファティマさんに行ってみまーす」
『了解した。では私はここでお弁当を食べる』
堂々とご飯を食べ始めた。
大物だと感心するコメント欄なのだった。
さてさて、お次のファティマさんは……。
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