第264話 ファティマ奮闘伝説
「それじゃあジナン・タワーのファティマさーん」
『はいはーい』
ファティマさんに繋がった。
彼女の配信も始まったみたいだ。
「配信スタートよろしくお願いしまーす!」
『はい。これからダンジョンを攻略して行きますね』
丁寧な彼女の言葉が返ってくる。
こちらでは、イノシカチョウの三人が、
「あっ、なるほど考えたねえ」
「ひえー、これでもエッチだよこれ!」
「なるほど、この手が……。オタクくんたちが喜んでくれるわね……」
とか感想を述べている。
ぼたんちゃん、かなり配信者の思考になってきてない?
ビクトリアがいつでも助けに行けるようにスタンバイ中。
ファティマさんはもともと素人だから、色々心配だもんね。
では彼女の配信を見てみよう。
※
「実は最初の服がセンシティブだってアワチューブさんから注意されてしまったので、上にシャツを着ています。どうですか?」
※『くるっと回る動きがめっちゃきれい』『かわいい』『えっちすぎる』『踊り子の服の上にちょっと透けてる白いワイシャツを羽織って、ボタンじゃなくてシャツの裾を縛ってリボン状にしてるのは十分センシティブなのよw』
「皆さん、ありがとうございます。日本のリスナーさんはとても暖かくて優しくて、大好きです。それではじっくりと攻略して参りますから、ご覧いただきつつ私とのお喋りを楽しんでくださいね」
※『ホ、ホスピタリティ~』『俺はママみを感じた……』『イカルガに俺達のママが……!!』
「私の武器はこの二本の曲刀、シミターです。私のルーツはアラブ系ですので、流れる血がこちらの武器を使ったスタイルに向いていたんだそうです。ちなみに刃がついているどころか、カラー仕上げされたプラスチックのおもちゃなので安全です。皆さんの同接力で、本物以上の力を発揮しますので、よろしくお願いいたしますね」
※『丁寧~』『好きになっちゃう』『Aフォンから普段より強めの光が出てるのは、ファティマさんが褐色お肌だからか』『明るい服装と肌色の対比がめっちゃ映えるんだよな』『あれ、その腕や足や腰に巻き付いてる布は……』
「この布はですね……」
『ゴブゴブー!!』
「モンスターたちが現れましたね。では、布の意味をご覧いただきます! それから、この戦いが終わったら、皆さんのリスナーネームを考えませんか? 考えておいていただけると、私、嬉しいです」
※『にっこり微笑んでから戦いに赴く~!』『うおおおお勝ってくれファティマちゃん!!』『むちむちなのに儚げなの凄い……すごいすき』
※
「ファティマさん、戦い方がきれいですねー。まさに剣舞。舞うように戦ってゴブリンたちを次々に倒します。正統派ですねー」
「見栄えがいいのは師匠の教えだからだね。私の妹弟子なので」
私の隣にぼたんちゃんがやって来て解説してくれる。
「ほへー。お兄ちゃんはあれなの? なんか戦う時にかっこよくなるように教えてくれるみたいな?」
「基本的な体捌きをやりながら、残心のところで決めポーズっぽくなるようにすると映えるんだよね。はづきちゃん、今からで良ければ手取り足取り教えてあげる……」
※『ぼたんちゃんのネットリした手つきがはづきっちに襲いかかる!』『ええぞええぞ』『コメンタリーなのになんでこっち側でも見どころがあるのこの配信w』
「あひー、そういうのはまた別の配信で」
「別の配信ならいいの!? いいのね!? じゃあ、じゃあ、今度コラボを!」
「ひえー」
「うおーっ、ぼたん正気に還れー!」
「うぐわーっ!」
なんかはぎゅうちゃんが、私に迫るぼたんちゃんを羽交い締め。
そのままブリッジして後ろに投げ飛ばした。
転がっていくぼたんちゃん。
※『見事なフルネルソンからの投げっぱなしスープレックス!!』『配信者の身体能力と耐久力あってこそのツッコミ芸だな……』『やっぱはぎゅうちゃんのパワーすげえわ』『ブリッジきれい』『インパクトの瞬間にフルネルソンを解いて受け身を取れるようにしたのだな!』『転がってダメージを逃がすぼたんちゃん』『イカルガはプロレスもやれるな……』
謎の称賛がイカルガエンタに集まる!
はぎゅうちゃんは褒められたことに照れながら、私の隣にストンと座った。
「んで師匠。見た感じファティマさんはどうなんです? 結構強いなーって思いますけど」
「強いねー。一番正統派かもしれない」
映像の中のファティマさんは、二本の曲刀とともに舞い、階段から手すりへ、手すりから上の階へと跳躍してモンスターをバッタバッタ切り倒す。
節目節目でカメラ目線になって、リスナーさんたちと会話している。
『それはいいですね! では皆さんの事は、愛しい子供たちたちとお呼びしますね』
ファティマさんの名前が、乳飲み子を独り立ちさせた聖母の名前から取られてるんだそうで。
なるほど、公式でオギャれるわけだなこれは……。
ほら、コメント欄に大きい赤ちゃんが大量に爆誕してる。
それを嬉しそうに眺めるファティマさん。
あっ、背後に迫る大型モンスター!
あぶなーい。
※『ママッ! ママーッ!』『うおおお、俺達のママを守るぞ!!』『届け俺達のママへの愛!!』
なんかコメント欄がもう光り輝いてる!
リスナーであるベビーたち、ファティマさんがママってことになって、謎のポテンシャルを発揮しだしたぞ。
ファティマさんの纏っている布が光りながら、風もないのにたなびき始める。
大型モンスターは、私がアメリカで出会ったブッチャーって言うモンスターのでっかいバージョン。
ものすごく大きな肉切り包丁を振り回してくるんだけど、これがファティマさんの布に絡められて、すっとよこに流れていく。
なるほど、布は見栄えとともに防具でもあるんだねえ。
『フレッシュミーッ!? フレッシュミート! アイウォントゥトゥイーッ!!』
気を取り直して、肉切り包丁とともに襲いかかるジャイアントブッチャー。
でも、その斬撃の内側に踊るようにファティマさんが入り込む!
『愛しい子供たちを守るのは、私の役目ですから……!』
ファティマさんが極彩色の竜巻みたいになった。
ブッチャーの全身に斬撃が叩き込まれるー!
「これは見栄えしますねー」
「師匠のファイトスタイルはシュールですからねえ。うちのもみじもシュールですし」
「リーダー! なんかブッチャーが多数出てくる感じみたい。私行くわね」
「いってらっしゃーい」
※『ビクトリア出撃か!』『チェンソー持ってる!』『肉屋モンスター相手に、真の猟奇的バトルを見せつけてやれー!』
こうしてビクトリアがファティマさんのところへ駆けつける!
二人ならどんな相手でも切り抜けられるでしょう。
そろそろ、ジェミニビルの攻略も後半戦に突入っぽい。
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