第265話 攻略せよ、双子ダンジョン伝説

 ビクトリアが参加して、ファティマさんの配信が大いにスピードアップした。

 慣れてないところを補ってくれるもんね。


 ビクトリアが後ろからブッチャーをチェンソーで真っ二つにしながら登場した時は、コメント欄が阿鼻叫喚になった。

 いやあ、彼女の配信スタイルは全然変わらないなあ。

 私は一年前のアメリカで出会った頃を懐かしく思い出す。


 おー、バリバリ突き進んでる。

 スポンジライフルのラーフを取り出して、群がるモンスターをぶっ飛ばしてるなあ。

 で、ビクトリアが露払いをしたところで、ファティマさんが突っ込んで群れの中のボスをやっつける。

 完璧なコンビネーションではないか。


 デビュー配信でここまでできるのは流石だなあ。

 私の初配信なんかとんでもなかったからなあ。


「あっ、先輩、カナンさんがまた階段に座って水飲んでます! スマホいじってツブヤキックス見てますねー」


※『大物すぎて草』『クソ度胸w』『はづきっちから色々学んでしまったなw』


「疲れちゃったかあ。一人だとちょっと長いもんねこのダンジョン。視聴者は不安よな、じゃあ私、動きます」


※『ついにはづきっち動く!!』『家にカナンさんを住まわせてるもんな』『ビクトリアも住んでる』『つまりこれ、はづきファミリーイベントってこと!?』


「そうかも知れない……んじゃあ行きますね」


 空中回廊からチョーナン・タワーへ。

 ウワーッとモンスターが出てきたので、


「ていっ」


『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』

『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』

『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』

『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』

『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』×100


※『一撃でフロアがすっからかんになったぞ!!』『はづきっちの出陣だぞ? それくらいやるだろ……』『すぐ近くの階段にカナンちゃんいるな』『あれ、風で魔法の結界作っておやつタイムしてたらしい』『大物過ぎるだろw』


 カナンさん、すっかりちょっとやそっとでは焦らなくなったなあ。


「カナンさーん」


「おお、ハヅキ! 君の声は風の魔法結界を突き抜けて聞こえてくるな。ちょうどおやつを食べ終わったところだよ」


 立ち上がるカナンさん。

 二度目の休憩は終わったようだ。


※『新人なのにベテランのような立ち居振る舞い……』『他の配信者企業のエルフと比べても、大物感凄いよなあ』『まるで人生経験を重ねてきた人のよう……』


 みんなカナンさんが結婚したことあったり、お子さんがマネージャーになってたりするのは知らないのだ……。

 多分そのうちバレると思うけど。


「じゃあ、あまり時間がかかるとリスナーさんも大変ですし、サクサク行きましょう」


「そうしよう。ちまちまやっていくのも面倒でね……」


「もう一掃しちゃっていいですよ。ビルの会社も保険入ってるでしょうし」


「なるほど」


※『はづきっちが先輩らしいアドバイスをしている』『経験者は語るなあ』


「ところでカナンさん、リスナーネームは考えましたか」


「ああ。精霊の愛子たちというのはどうだ」


「高尚~!!」


※『特別感が凄い』『もりもり自己肯定感が湧いてくるぞ!』


 かなり上品なチャンネルになるのではあるまいか。

 カナンさんのこの先が楽しみだなあ。


「カップラーメンを一人で作って食べてみる配信をしてみようと思っている」


「リスナーが精霊の愛子なのにカップラーメン配信するの?」


※『配信の内容~w!!』『この人、やっぱりイカルガだわ』『イカルガエンタ、みんなどこかしらイカルガなんだよな……w』


 会社ごとの特色が生まれてしまったみたいだな……。


「ほんじゃ、行きましょ行きましょ」


「行こう行こう。お弁当美味しかったよハヅキ」


「おー、それはよかった」


※『はづきっち手作りのお弁当だったのか!?』『なんの説明もしないで黙々と食べてたぞw』『途中途中でおいしいって言ってたな……』『付き合いの長い夫婦かよw』


 こうして、私とカナンさんで最上階を目指す。

 カナンさんは、タワーの行き先が異なる複雑なエレベーターを一人で使えなかったので、階段を登ってきていたのだった。

 今回は私がいるぞ。


「いきなり最上階行こう。今、ファティマさんもビクトリアと一緒に非常階段を戦いながら駆け上がってるから」


「わざわざ階段を上がってるの? 疲れない?」


「なんかね、映画とかで非常階段を移動しながらバトルするとかよくあるから」


 そういうシチュエーションで強くなる人とかいるのだ。

 さて、エレベーターです。


 エレベーター自体がイミテーター化して牙を向いてくるのを、ゴボウでペチッと叩いて『ウグワーッ!? な、なんでもします勘弁してください』話し合い完了なのだ。


※『一発で分からせが完了した!!』『手加減して死なないようにできるんだな、あれw』


 エレベーターがブイーンと上がっていく。

 社長室直結ではないので、行けるところまで。


 出てきたら、そこにいた上位っぽいデーモンたちが凄く驚いたようだ。


『な、なんでエレベーターで!?』


「風の精霊よ、渦巻け! トルネード!!」


 カナンさん、仕掛けた!

 屋内でも風は吹いている。

 ほら、空調から風が……。


『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『ウグワーッ!!』『空調から竜巻が!!』


※『屋内の魔法ってそうやって使うんだ……』『現代に合わせて進化しているんだなこれ』『おお、同接数でパワーアップした竜巻がフロアをぐちゃぐちゃに!』『あっ、窓が割れた!!』


 窓が割れるということは、ダンジョンの壁が壊れて外の世界と繋がったということだ。

 凄い風が吹き込んできて、これでまたカナンさんの魔法の力がアップする。


「やりますねえ」


※『後方腕組みはづきっちだ』


「いやあ、私はカナンさんをここまでキャリーしてきただけで、あとは全部一人でできるでしょ」


 それくらいの強さがカナンさんにはある。

 おっおっ、天井が抜けた。


「最上階まで行くぞ、ハヅキ!」


「ほいほい」


「これ、とんでもないことだな。同接数の力でこれほど私の魔法が強くなるとは……」


「カナンさん、もともと戦える人だからねえ」


「それでもハヅキの力のほうが凄いぞ」


「まあ同接多いですからねえ」


※『はづきっちを基準にしたらいかんw』『あの人は特別製だからw』『でも、ここ最近デビューした新人で最強だろカナンちゃん』『現代魔法じゃこれだけのことできないもんな』


 うんうん、将来有望なのだ、カナンさんは。

 こうして、デビューイベントはついに最終局面なのだ!


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