第239話 日本にようこそドワーフさん伝説

「なるほど。エルフの他にも、ニッポンの全土に我が世界ファールディアの民が漂着しているのね」


 カナンさんがベッドにより掛かりながら、会社支給のAフォンをいじってる。

 情報収集してるなー。


「カナンさん、すっかりAフォンの使い方覚えた?」


「ええ。この子が私に教えてくれるから。ハヅキもAフォンを完全に使いこなしているでしょう? 一人前の魔法使いたるもの、使い魔(ファミリアー)を従えるものよ」


「いやいや、魔法なんてそんな大したものは……」


 昨日やったアンチ蠱毒バトル配信を思い出す。

 うん、陰陽術ならちょっと使えるな……。

 実戦だとまだるっこしくて、自分で前に行ったほうが楽だけど。


「キュウシュウにドワーフたち。彼らは炎の力が強い場所に現れるけれど、キュウシュウは炎が強いのかしら。トウホクがエルフ。山と森が多い土地は私たちと相性がいい。何故かみんな、トウキョウに連れてこられているけど」


「エルフは見た目が可愛いですからねー。ドワーフはヒゲモジャだったりムキムキだったりするんで、現地で頑張ってもらうんじゃないかと」


「どういうこと……?」


 配信者事務所の人たちが、エルフをデビューさせたらヒットする!と睨んでるんだと思う。

 うちの兄もそこに含まれてはいるんだけど、あの人の場合は「戦力になる」っていうのを考えてそうだ。


「他には……カンサイという場所ではハーフリングが出現と。こっちはあっという間に社会に溶け込んだみたい。ハーフリングと相性がいい土地なの?」


「そうかも知れない……」


 その他、中部地方にバードマン、中国・山陰地方にマーマンとマーメイド、北海道にはセルキーというアザラシに変身する種族が出現した。

 日本にやってきた異種族さん、なんと総合計で500万人くらいになるらしい。

 す、凄い……!!


 お国はこの事態に、「人口を増やすチャンス! 日本語と文化を伝えて、新しい仲間として迎え入れよう!」みたいなことになった。


「私たちの間の言葉に、別の森の掟には従え、というものがある。私たちが故郷を追われ、この世界のこの国に保護されるなら、国のやり方を学び実行することは当然と言えるでしょう」


「カナンさんは真面目なのだ……」


「長らくジョークを言えるような状況ではなかったもの。こんなにゆっくりできているのは生まれて初めて。ここは本当に平和な場所ね」


 そんな事を言いながら、ベッドに寄りかかった姿勢が次第に寝そべる形にずり落ちていく。

 かっこいいことは言ってるんだけど、この人いつもこうやって寝落ちするんだよね。

 ちなみにエルフはお腹出して寝てても、体内の精霊とかを活性化させて体温維持したり、ウィルスを追っ払うので風邪は引かないらしい。便利ー。


「カナンさん、寝ちゃう寝ちゃう」


「ハッ! ま、また自堕落になるところだった」


 起き上がるカナンさん。

 この人は元旦那さんも子供もいるので、ポジション的にはうちの母みたいな感じなんだろうけど……。 

 ちょいちょい私に似ている気がする。


「部族を導く者としての責務から初めて解放されたから、猛烈に気が緩んで……。昨日もハヅキの母上と二人でぼーっと動画を見て一日を過ごしてしまった」


「見事に自堕落になってる! じゃあ、この土日の休みで九州行こう。ちょうどチャラウェイさんが長期で滞在してるし」


「キュウシュウ……。ドワーフたちがいるところか。遠い昔、私の祖父母の時代には、エルフとドワーフは森と火を崇める立場上、仲が悪かったと言うが……」


「今も仲悪い?」


 私は仲介とかできないぞ!!

 人見知りするからな!


「いや、そもそも魔王の攻勢によって距離的に断絶し、ここ三百年は接触していないそうだ」


「だったら大丈夫でしょ」


 私は決断した。

 兄に連絡をして、土日で九州への弾丸旅行を決行する許可をもらう。

 一瞬で飛行機のチケットを取ってくれた。


『ついでに出現した魔将を倒してしまっても構わんぞ』


 うーん、あの人は本当に行動が早い。


 翌土曜日。

 私はカナンさんとともにリムジンバスに乗り、空港へ。

 そして空路にて九州へ向かうのだった。


 到着!!

 飛行機の中で軽食が出たので堪能したよ!


 飛び上がる飛行機に、カナンさんが猛烈に怯えてずっと私の腕を掴んでいたけど。


「な、な、なんで飛んだんだ? 今でも信じられない。あれは鉄だ。鎧や矢じりと同じものだ。小さければ矢羽を付けて飛ばせるが、あんな大きな物を飛ばすなんて正気の沙汰じゃない……。ま、まさか中にドラゴンがいるのか? いや、あれ程の大きさならヒューダが……」


 ヒューダっていうのはドラゴンの仲間で、翼が無いけど空をニョロニョロと飛翔する蛇みたいなやつだって。

 色々な生き物がいるんだなあ。


 カナンさんの故郷のファールディアというところは、モンスターもわんさかいるみたいだし。

 というか、ダンジョンに出現するモンスターってファールディアから来てたりするのでは?


 ありうる。

 でも、今までドラゴンとかそのヒューダとかは出てきてないので、まだまだダンジョンの規模が小さいから出現しないとかなんだろうか。


 ちょっと見てみたいな、ドラゴン。


 空港に降りたカナンさんは、フラフラしている。


「空を飛んで私の中にいる精霊たちも混乱している……。恐ろしい恐ろしい」


「明日も帰りに乗りますが」


「ひい」


 絞め殺されたような悲鳴が!

 大丈夫だと思うけどなあ。


 私、アメリカ近海で飛行機ごとダンジョンに突っ込んだことあるけど、なんか無事に出てこれたし。

 かなり安全な乗り物だと思う。


 福岡の空港から出たら、なんかチャラチャラしてウェイウェイした人が出迎えてくれた。

 懐かしきチャラウェイさん!


「チャラウェイさーん!」


「ウェーイ! はづきっちー!! 久しぶりー!!」


 お互い駆け寄って、ハイタッチする。

 そうしたら、チャラウェイさんの後ろに背が低くてずんぐりした人がたくさんいて、ワーッと駆け寄ってくる。


「なんじゃなんじゃ」


「おっそろしい精霊を中に飼ってる娘じゃ」


「魔将と同じ作りをしとる」


「チャラウェイの! この凄まじき娘がまさか!」


「おう、そうだぜ! この世界で超絶イケてる配信者、きら星はづきっちだぜ!!」


 ウォーッ!!と吠えるずんぐりさんたち。

 あ、この人たちがドワーフかあ!

 でも一緒にいると私が目立って仕方ない!


 私は慌ててバーチャライズした。

 よし、きら星はづきモード!

 身バレは防がなくちゃね……。


「変身したぞい!!」


「精霊の力が解放された!」


「ここにいてもビリビリ感じるぞい!」


「バイブスが上がってくるぞい!!」


 ヒャッホー!!と盛り上がり始めるドワーフ。

 これを後ろでカナンさんが、じーっと見ていた。


「祖父の代のドワーフは、もっと落ち着いたというか、頑迷で物分りの悪い存在だったと思ったけど」


 そうしたら、ドワーフの先頭にいた人がふむ、と頷いた。

 モヒカン頭で剃り上げた側頭部にドクロとか星の入れ墨がされてて、全身あちこちからチェーンを下げている。

 変身後のチャラウェイさんとシナジー高そうだなー。


「もしやお主はエルフか? わしらドワーフも変わったのだ! 詳しい話は後で聞かせてやろう。今はほれ」


 モヒカンドワーフの人がAフォンを取り出して見せてきた。

 この辺りの地図が表示されてて……。

 一角に、ダンジョンの表記!


「こいつを攻略して、あんたの実力を見せてくれ、きら星はづきっち!」


「わ、私ー!?」


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