第276話 カナンさんの決意伝説

 私の誕生日配信は、大好評のうちに終わった。

 いやあ、凸待ちしてたけど、沢山の人とお喋りできたなあ。

 ついでに魔将もやっつけたし。


 東京湾を割った時はどうなることかと思ったけど、夜には元通りになっていた。

 私は迷宮省からの感謝状を受け取り、帰宅したのだった。


 そうしたらもう夜ですよ!

 朝に出発して帰りが夜。

 お腹はペコペコ。


 母が山盛りのチャーハンを用意してくれていたので、これを貪り食らった。

 そしてお風呂に入ってほこほこになって、寝たのだった。


 翌朝……。


「ハヅキ。昨日のアーカイブを見てもらえば分かると思うのだけど」


 朝からカナンさんが何か思い詰めた感じなのだ。


「おはようー。どうしたの」


「これだ」


 彼女が見せてきたのは、アワチューブのアーカイブ。

 カナンさんの配信だ。


 マイクロバスから降りて、魔将の眷属と戦うカナンさん。

 あれ?

 なんか彼女だけ別の相手とやり合ってない?


 黒装束を身につけた真っ青な肌のエルフみたいなのがたくさん出てきているんだけど。

 これが、イカルガのみんなと交戦している。


「実はあの機に乗じて、全国に降り立った魔将が一斉に動いていたんだ。そして私が戦ったのは魔将ペルパラス。魔王に下った古きエルフだ」


「あー、話に聞いてたやつ!」


「ああ。ペルパラスの部下であるダークエルフどもは、それぞれが通常のエルフを凌駕する力を持つ。だが同接数パワーを得た私は奴らを文字通り消し飛ばしてやった。そこでペルパラスが現れる」


 あっ!

 カナンさんの解説どおりに、かなり風格のあるダークエルフが出てきた。

 男性か女性か分かんないな。


 めちゃくちゃギラギラ輝く銀色の髪と目をしていて、真っ黒なローブをまとっている。

 おお、カナンさんとペルパラスの魔法がぶつかり合う~!


 だがカナンさんがちょっと押されてるか……?

 というところで、もみじちゃんがすすーっと入ってきて、ホットドッグのソーセージをスポーンと飛ばして状況を打破した。

 ソーセージによって魔法を打ち消されたペルパラスが焦った顔をして、撤退を始める。


「一体何が起こったんだろう……」


「私にも全く分からないが、もみじに助けられた。あれはなんなんだろう。ペルパラスも全く意味が分かってなかったが、あまりに意味不明だったので逃げたんだ」


 私とカナンさんで首をひねるのだった。


「だが、私は決意した。ペルパラスを追う。追いながら、世俗のことを学んだ娘のルンテを連れて配信の旅をする。しばらくのお別れだ」


「なるほどー。いいと思います」


「あっさりと!」


「カナンさんの選んだ道だもんね! あと、今のままだとあの魔将相手には、ちょっと同接数が足りてないみたいなんで……登録者を増やしたり宣伝を強化したりしましょう。そこはルンテさんにお願いしときますね」


 ザッコでお願いを飛ばす私。

 ルンテさんからはすぐにOKの返事が帰ってきた。


『うちのママは急に動きますもんね。はづきさんご迷惑おかけします! じゃあすぐ迎えに行きます』


 行動が早い!

 こうして、カナンさんは今日、我が家から巣立つことになるのだった。


 それはそうと、朝食……!

 ぴょんぴょんになった髪にスチームを当てて伸ばし、顔を洗って食卓に私登場。


 家族と昨日の配信がどうこう、という話をして、次にカナンさん旅立つ、という話をして大いに盛り上がった。

 じゃあカナンさんの壮行会をしようということになり、昼過ぎに行きつけのラーメン屋に行くことにしたのだった。


 で、そんな話をしながらテレビを流してたんだけど……。


『今回の事件の責任を取り、迷宮省長官大京嗣也氏が辞任、議員としても辞職を……』


「あら、凄く頑張ってたのにねえ」


「政権批判の道具に使われたんだろうなあ」


 なんか両親が言っているが、あの人はこうやって自分を人柱にして批判を集めて、今回の大騒動の決着をつけるつもりだって私は知ってるのだ。

 直接話をしたし、私の配信を見てたたくさんのリスナーはみんな知ってるもんね。


 で、あの長官は配信者になるとか……。

 凄い転身だあ。

 生身で同接なしで、同接十万人クラスのモンスターを倒してたし、人気出そうだなあ。


 長官の後任の人大変そう。


「色々強硬策も取ってたからな。ほうぼうで恨みを買ってたんだろう。何度か暴漢やらに襲われてたからな、あの人は」


 父も詳しいなあ。

 なお、長官を襲った人たちは全員、一撃で顎を砕かれてお縄になったらしい。

 まああの長官じゃねえ。


 さてさて。

 父のお弁当を詰めて送り出し、正午までは昨日の配信の後片付けとか、ほうぼうにお礼のメールを書いて送ったりしつつ。

 気がつくとお昼だ。


 カナンさんと母とビクトリアの四人でラーメン屋に行き、みんなでしょうゆラーメンを食べた。


「カナンさん、元気でね」


「カナン、ちゃんと野菜も食べるのよ」


「カナンちゃんのお嬢さんがマネージャーさんしてくれるんでしょ? 子どもが頼れると親としても安心よね」


 母だけ視点が違うぞ!

 カナンさんはラーメンを食べきった後、目を潤ませながら「短い間だったが、世話になった。必ずやペルパラスを倒し、再会することを誓う。この町とイカルガエンターテイメントと、そしてきら星はづきの名にかけて」


 うんうん!

 頑張ってほしい!!


 こうして彼女は旅立って行ったのだった。

 まあ、ザッコでいつでも連絡は取れるんだけどね。


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