第277話 夏の終わりのラーメン企業案件伝説
カナンさんが旅立った。
私の部屋が一人用に戻ってしまったなーとか思うのだ。
広くなったー。
いつの間にか増えていたカナンさんの服や私物も無くなってる。
Aフォンに収納していったんだろう。
頑張ってほしいなあ……。
彼女が旅をしながら配信をする話は、イカルガエンタのチャンネルでも放送された。
リスナーさんたちからはなかなかの反響。
まあ、主には……。
※『カナンちゃんが旅をするということは、おらが村に来る可能性が!?』『全日本行脚しながら魔将を追いかける!? 股旅物だ!』『イカルガに新しいスタイルの配信が出てきたなあ……』
好意的~!
理解あるリスナーさんたちで実に良かったのだ。
ちなみに、魔将ペルパラスとの戦いはアーカイブでたくさんの人が見ており、カナンさんのかっこいい活躍と、それをフォローして立ち回るもみじちゃんの謎に満ちた活躍が話題になった。
ダークエルフの集団の足元がとろけたピザチーズになり、動きの拘束とチーズの熱さで攻めながらそこにカナンさんの魔法でとどめを刺させるとか。
謎だ……。そして見ているとお腹が減ってくる戦い方だ……。
「というわけで、今日はお腹が減った私のための食品を紹介する案件な配信です」
※『カナンちゃんともみちゃんのを振り返ってたと思ったら、ヌルリと始まったぞw!』『はづきっち、さらにできるようになったな……』『そのテーブルの上にある小さな袋が?』
「そうです! フリーズドライ本格とんこつラーメンです! この小ささまでフリーズにドライされたんで、軽くてどこでも持ち運べます。場所も取らないし安全ですね」
※『確かに』『でも食べる時はかさばるんでしょう?』『丼いるもんな』
「そこでブウブウフーズが開発したこの携帯用丼がですね。Aフォンに収納される畳み込み機能を応用して作られていて、別次元へ本体を畳み込むのでポケットティッシュサイズまで縮みます。まあちょっとお高いんですけど!」
※『超技術がラーメンどんぶりのために!?』『日本人ならやるだろうな……』
「一応現代魔法が付与されてて、ただし回数制限があります。回数復活のためには皆さんの気力とか精霊力みたいなのを注ぎ込むんだそうで。つまりですねー。丼を褒めてもらうと同接数パワーで丼の畳み込み回数が増えます」
※『謎の技術!!』『あ、でも俺らが配信見てわあわあ言ってると配信者が強くなるのと同じなのか』『ついに一般化されるようになったのか……』
「罵倒すると呪詛が溜まってダンジョン化するので気をつけてくださいね。じゃあラーメンを作っていきまーす」
※『さらっとおっそろしい事を言ったなw』『一般販売していい代物なのかw!?』
私は携帯用丼を展開すると、そこにフリーズドライとんこつラーメンをコロンと入れた。
カッサカサでかるーい。
こんな小さなものがとんこつラーメンに?
「えっと、ここで用意していたお湯を入れてですね」
「はい、はづきちゃんどうぞ」
「お母さんありがとー」
※『久々のはづきママ!』『全人類が娘さんにはお世話になっております』『世界的な危機管理の意味合いで』
「皆さん、いつもはづきちゃんを応援してくれてありがとうございます」
※『清楚~』『この母にしてはづきっちあり』『ママッ、ママーッ』『だが斑鳩のママでもある』『この母にしてあの斑鳩ありなのか……?』
すぐ話題になっちゃうんだから。
「お母さんは座って見てて。じゃあ急遽二人分をですね。ここにお湯をドボドボーっと注ぐと……。ほら、もりもりもりっと膨らんでいくとんこつラーメン!」
※『今、無から丼を取り出したのが気になってそれどころじゃない』『携帯用丼の超技術がメインなんじゃないのかw!』
「そっちもメインなんです。今回はなんと、フリーズドライ本格とんこつラーメン『味の同接100万人~とんこつスペシャル~』と携帯用丼の『A丼』の案件なんですねー」
※『ネーミングよw!』『もう欲しくなってきた』
「あっあっ、お湯で一気にとんこつラーメンが戻ってきてます。これはたまらない香り……。ああ~」
※『はづきっちが飯の顔に!!』
「ああ~」
※『はづきママもなんか悩ましい声をあげてるぞ!』『このママにしてこのはづきっちありなのよw』
あっという間にラーメンになってしまった。
私と母は無言でラーメンをサッと箸でかき混ぜると、「「いただきます」」と手を合わせてつるつる食べ始めた。
※『ラーメンASMR始まった!』『は、腹が減る~』『確かにこれは効果的な案件……』『食べてる間一切食レポしないのなw』『ラーメンは飲み物だからな。食べきったら何か言うんだろう』
汗をかきながら完食した。
まだまだ全然食べられる。
お代わりがほしいなあ。だけど今は配信だ。
「ということで、とても美味しいとんこつラーメンができました! もう食べきりましたけど。美味しかったですねー。福岡ラーメンをもうちょっとマイルドにみんな食べられる味にした感じで、クリーミーなスープまで完飲でした」
※『うおおお、は、腹が減ってきた……』『はづきっち! 早く通販先のURLを出すんだ!!』いももち『はづきちゃんが完飲したスープ……!! うう、仕事のためには節制しないとだけどこれくらいはいいよね……』
「URLはこちらです! 今なら、きら星はづきキャンペーンで私のステッカーも付いてきますー」
※『ご加護のついたとんこつラーメンってことじゃん!!』『やべえ、売り切れるぞ!!』『急げ!!』
ということで、私が宣伝した『味の同接100万』は、販売受付開始から2分でサーバーダウンし、その後必死に復活したサーバーも何度かのダウンを繰り返しながら、創業以来最高の売上を叩き出したらしい。
販売受付三日間で、半年分の総売上に匹敵する純利益が出たとか……。
そして、ネットニュースで『はづきっち、ラーメン案件配信でまたも株式市場を激動させる!』『いきなり市場に革命を引き起こすのは勘弁して欲しい』とか書いてあったのだった。
ちなみにラーメンは生産が全然追いつかないので、到着まで一年待ちですよ……!
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