第278話 今年も終わるよ夏休み伝説

 あっっっっっ……と言う間に、夏休み最後の日になってしまった。


「夏休みは儚い……。どうしてすぐいなくなってしまうんだろう。めちゃくちゃ盛りだくさんだった気がするけど」


 ケンタウロスやバードマンの人と出会ったり、ドラゴンが相談役になったり、魔将をいくらかやっつけたり、海鮮をお腹いっぱい食べたり、ビクトリアのご両親が遊びに来たり、カナンさんとファティマさんがデビューしたり、コミベで大いに楽しんだり、東京湾を割ったりした。


「うん、濃かった。割と濃かったな」


 満足してもいい気がする……!!

 こうして私はベッドから起き上がることにした。


 中学の頃は学校が始まるのが嫌で、最終日は昼までベッドから出てこなかったのだが。

 私も成長したのだ……。


 なにせ、今は居場所があるからね!


「お前ら、おはきらー。本当に寝起きの朝配信です。さっき起きました。まだ髪をセットしてません」


※『おはきらー!』『ほんまや、寝癖が凄いw』おこのみ『パジャマの上から雑にバーチャライズしただけのはづきっち、いいぞ~』


「みんなも朝からお疲れ様ね。私は今日で夏休みが終わりで……。あ、こういう話すると身バレに繋がるんだっけ?」


※たこやき『はづきっちの場合、通っている学校と住んでいる地域までバレてるようなものだからなあ……。おはようございます』


 そうか、そう言えばそうだった。

 うちの高校には毎日、聖地巡礼の人がやって来て写真撮っていくもんね。


「まあでもそんなわけで、私は夏休み最後の日をいかに過ごすべきか考えているわけですよ。お前らは何か面白いネタはないですか」


 私の無茶振りを受けて、リスナーたちが『うーん』と考え込み始めた。


※『旅に出たカナンちゃんが、他のエルフの人と朝食配信してるけど』


「それだ! 同時視聴しよう!」


 私はすぐさまそのネタに飛びついた。

 どれどれ……?


 あっ!


 ルンテさんも当たり前みたいに顔出しして、何人かでビジネスホテルの朝食ビュッフェを楽しんでるじゃん!

 いいなあー。

 配信の中では、ソーセージとオムレツばかり取ろうとするカナンさんを、ルンテさんがお説教している。


 ママという単語だけはフィルターが被っているので、かろうじて二人の関係性はばれてないみたいだ。


※『あのエルフの娘、マネージャーさんなんでしょ?』『カナンちゃんに似てるよね』『二人とも可愛い』『姉妹かな』


 親子です。

 ルンテさん、カナンさんの子どもの中では一番魔法の才能が無かったらしくて、色々それ以外で種族に貢献すべく頑張ってたそうだ。

 だからこっちの世界のマネージャー業もすぐにマスターできちゃったんだろうね。


『いい? ちゃんとサラダも食べる。ナットウも体にいいよ!』


『野菜はサプリメントで済ませばよくない……?』


『よくない! 体をいたわって!』


 おお、ルンテさんがまるでお母さんのようだ!

 カナンさんは渋々サラダをお皿によそっている。

 それはポテトサラダだから炭水化物だね。


 この朝食配信を見ていたら、私のお腹がグーッと凄い音を立てた。


※『すげえ爆音w』『余すこと無く腹の虫の声を拾ったな……』『こんな大きなお腹の音聞いたこと無いw』『はづきっちもご飯食べて!』


「はっ、そうします。まあ、今日が夏休み最終日だけど、明日と明後日は土日ですからまだ休めるんですけどね」


 ハハハと笑いながら本日の朝配信が終わった。

 今日は寝坊の私なので、父のお弁当はこれから作る。

 そして会社まで届けてあげる。


 一緒に行くカナンさんはもういないのだなあ……。

 夏の間ずっと一緒にいたので、ちょっと寂しい。


 一階では、母がワイドショーを見ていた。

 なんか長官が辞任するって記者会見している。


『こんな甚大な被害を出した責任をどう取られるんですか!』『辞任したくらいで責任から逃れられるわけでは!』


 なんか言ってるぞ。

 長官は頭を下げて、後任は誰々、自分は議員辞職しますという話をした。

 オーッとどよめく記者会見場。


 記者の人たちからシツレイな言葉がバンバン飛ぶ。

 長官は静かに段取りを進めて、記者会見をさらっと終えたみたい。

 なるほど、切り抜きようがなかったか。


「大京長官は大人ねえ。私だったらあんなことを言われたらテーブルを飛び越えて記者の人をぶっ飛ばしちゃう」


 母がなんかシュッシュッとシャドーボクシングしてる。

 最近、運動できるゲームでフィットネスみたいなことしてるもんね。


「長官はその気になったら、記者会見場を一人で更地にできちゃうからやらないんじゃないかなあ」


「あら、強者は強者を知るってやつ?」


「いや、私は別に強者ではない……お腹も減ってるし」


「昨日のお鍋の残りでおじや作ってあるけど食べる?」


「食べるー!!」


 昨晩は水炊きだったのだ!

 だし汁がご飯にしみしみで、おじやが物凄く美味しい。

 残っていたおじやは全部食べた。


「長官どうするのかしらねー。まだ若いでしょ?」


「なんかね、配信者になるって言ってた。色々話を聞いたらねえ、チャラウェイさんと八咫烏さんとでコーチングするって。あと、黒胡椒スパイスちゃんっていう美少女になったおじさんがいてね、四人でフォーガイズっていうコラボで活動したりするって」


「あー、バ美肉の人ね」


 母はこの業界に理解があるなあ。

 私は食事の後片付けをし、それから父のお弁当を用意した。


 基本はお米と冷食の詰め合わせ。

 一品は私の手作りで、母のお昼ご飯にもなる。


 うーん、水炊きで使いきれてないお豆腐ときのこが残ってる……。

 よし!

 私は思い立ち、調味料などを使ってなんちゃって麻婆豆腐を作った。


「あら美味しそう。さっき朝ご飯食べたばかりなのにお腹が鳴っちゃう」


「この母にして私ありだなーって本当に思う」


「そう?」


 この食欲は母譲りだもんね。

 なんちゃって麻婆豆腐は七割が母のお昼ご飯。

 三割……それでもそこそこの量なので、別のお弁当箱に入れて、本日の父は二段重ねの豪華お弁当。

 さあ、届けに行ってこよう。


 顔も洗って髪もセットして、私はお弁当を持って出かけるのだ。

 ついでに、最後の夏休みの日を堪能するぞお。


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