第40話 首都高もダンジョン伝説
兄のスポーツカーは、何故かピカピカ光りだす。
なんでだなんでだ。
※『そりゃあはづきっちと八咫烏が乗ってるんだもん。判定としては配信者の武器でしょ』『大物配信者が二人も! そして運転しているのは伝説の元配信者!』
な、なるほどー!
「だけど、大物配信者って八咫烏さん以外にどこに……?」
後部座席でキョロキョロする私。
※『ハハハ抜かしおる』『ツッコミをさそってるな』たこやき『素だろうな』
何を言われているんだ……!!
※おこのみ『ところではづきっちが狭い後部座席にすっぽり収まっているのはなかなかえっち……』
おこのみが良からぬことを言おうとした時!
そりゃあスポーツカーの後部座席はオマケみたいなものだから、私みたいに背が低いのじゃないと狭いかもだけどー!
スポーツカーが何かに接触した。
『ウグワーッ!!』
叫び声が聞こえる。
「やるねえ! この車そのものが武器になってるってわけだ! これは俺も楽ができちゃうかな……っと!」
八咫烏さんが窓を開け、そこにスポンジ弾を発射する銃のおもちゃ、ラーフを構えた。
正面ではでっかいモンスターが光になって消えていくところで、横からは車内に入り込もうとデーモンみたいなのが掴みかかってきている。
「ほいっ!!」
『ウグワーッ!!』
スポンジ弾で撃ち抜かれて、デーモンが消滅する。
八咫烏さんのチャットが大いに盛り上がった。
「スポンジなのに凄い威力! 人気配信者は違うなあ……」
※『ゴボウで近接戦闘を挑むストロングスタイルが何か言ってますぞ』
うん、改めて言われると自分の正気を疑うよね!
「首都高に突入する。ここから一気に駆け抜けるぞ」
兄が宣言すると、アクセルを踏んだ。
スポーツカーVMAXが加速する。
高速の入り口は壊されていて、あちこちに車の残骸がある。
そしてすごい数のモンスターがひしめいているじゃない。
「ひえーっ、ダンジョン化してるう」
「ダンジョンハザードここに極まれりだね。ここ十年で最大規模じゃないかな。ライブダンジョンさんの活躍で、北関東のダンジョンハザードはほぼ収まりつつあるようだけど……これは一つのダンジョンから溢れ出した量じゃない。どこかでダンジョンハザードの連鎖が発生しているな」
八咫烏さんが分かりやすく解説してくれた後、彼のAフォンからザッコの音声が流れた。
なうファンタジーの人たちだ。
現状を確認し合ってる。
「な、なんか一気に動いてますね……」
「ああ。うちの事務所も総動員だよ! 風紀委員長が率先して、今ダンジョンを一つ潰したところだ。そこからどんどん攻略範囲を広げていくつもりらしい」
大手事務所の本気だー!
「凄いなあ。私はちんまりした個人勢だからそこまで活発には動けな……」
※『はづきっち横、横ー!』
「横?」
コメントに言われて顔を向けたら、そこからデーモンが侵入してこようとするところだった。
「あひー!?」
慌ててゴボウを抜き打ちに放つ。
デーモンがひっぱたかれて『ウグワーッ!!』光になった。
「車が武器になっても、横から入ってくるんだね……」
「くっそ、俺の車がまた傷物に……」
兄が悲しそうな声を出した。
※『泣かないで』『斑鳩かわいそう』『おもろ』『引退したのに持っている男』『実力ピカ一だったけど、常になんかやべえハプニング起きてたもんなあ』『そのハプニングを悪態つきながらクリアするのがかっこよかったんだよ』『変わってない』
なるほどなるほど。
兄も大変だったんだねえ。
※『はづきっちとタイプ一緒じゃん』
「な、なにぃーっ!」
窓からデーモンをペチペチ叩いて撃退しつつ、私は見逃せないコメントに反応してしまった。
「わ、私はもっとこう、おしとやかでこじんまりしてて、虫も殺さないような感じです……!」
※『抜かしおる』『殺虫剤の企業案件で完璧な仕事しているのにw』『虫を殺すと言えばはづきっちやな!!』
「うおわーっ、ふ、風評~!! 私の配信者としてのイメージが~!」
※もんじゃ『イメージは完璧にリスナーに伝わってるぞ』
解せぬ。
「はづきさん、戦いながらずっとリスナーといじりあいしてるなあ。流石だよ」
「あいつの余裕があるんだか無いんだか全くわからないところは、他にない魅力だからな」
「おっ、妹ちゃんののろけかい?」
「うるさいぞ黙れ」
※『鳥鳩尊い』『鳥鳩久々の供給~!』『幸せ~!』『こう言ったらよくないけどダンジョンハザードありがとう!』
向こうのチャットも盛り上がってるなー。
そんな感じで、ダンジョン化した首都高を走ること数十分。
ちょっとだれてきた頃合いで、私はリスナーと雑談しながらゴボウを振り回していたら。
※『雑談しながら何体のデーモン倒してるんだこの人』
数えてないよ!
「首都高を出るぞ! ここから先が目的地だ!」
スポーツカーが高速から降りる。
一般の道路は、モンスターで溢れかえっていて……!
「どひゃー! 区内大変過ぎる……!」
「そりゃあそうさ。ここはダンジョンハザードのそもそもの発生源がある場所だ。うちの新人ちゃんが風紀委員長に率いられて攻略を開始してるはずだよ」
「ほへー」
※『八咫烏の話に凄い相槌打ってて草』『長時間高速乗ってて頭がプーになってるな』『起きろはづきっち! 多分クライマックスだって!』
「はへ? お? あ? おおー」
※『返事がさらに曖昧になってて草』『さすが俺たちの姫だわ』
なんかコメントが盛り上がっている。
なんだなんだ。
頭が雑談モードから抜けてないんだけど。
「つまり、ここで俺は停める。ダンジョンの位置はAフォンに送っておいた。ここからはお前が一人で行けということだ」
兄からの無情な宣告!
「く、車で楽々な移動はここで終わりってこと……?」
「お前、借りてきた自転車があるだろう」
ハッとする私だった。
「そ、そうだ! 自転車、お前がいる~! じゃあ行ってきます」
自転車とともに、私はモンスターがあふれる外に出た。
同接パワーを受けて光る自転車を、よっこらしょと地面に置く。
それに触れたモンスターが『ウグワーッ!』と消えた。
「俺はここで囮になってるからさ。頑張って来てよ!」
八咫烏さんが手を振る。
私も、小さく小さく手を振り返した。
※『警戒してるみたいで草』『本当に斑鳩以外の男が苦手だな』
うるさーい!?
こうして私は、ダンジョンハザード発生地点。
迷惑系アワチューバーが解き放ってしまった、危険なダンジョンへ突入するのだ。
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