第39話 配信者チャリで来た伝説

「自転車から配信しまーす」


※『新しいなー!』『ずっと下り坂?』


「うちの高校丘の上なんで!」


※『うちの……?』


「あっ、たまたま! たまたま行った学校が!」


※『ですよねー』『流せ流せ』『自転車配信楽しみだナー』


「助かるぅ。あ、デーモン。アチョッ」


 すれ違いざまに、デーモンの群れを薙ぎ払って光にしておいた。


※『ついでのようにデーモンを!』『カメレオンデーモンって隠れられるだけで、強さは最下級のデーモンだと聞く……』『最下級でもダチョウと同じ速度で走るツキノワグマみたいな化け物なんだろ!?』『やっぱ配信者は頼りになるなあ!』


「どうもどうも……!」


 スパチャがチャリンチャリンと入る。


「あーっ、みんな無理をしないで……!」


 スパチャを気にしていたら、前方に出現していたオーガの群れに突っ込んでいた。

 私の自転車が触れるだけで、オーガたちが粉砕されて光の粒になる。


『ウグワーッ!!』×76


※『無法なw』『同接そろそろ二万人だぞ……と思ったら三万になった』『国が仕事中も見ていいって言ってくれたお陰だわ』『俺たちの同接力とスパチャでがんばれー!』


「ありがとうー!!」


 途中、個人経営の電気屋さんを発見した。

 家をモンスターに破壊されかかっていたので、私が近くまで走って行って、ゴボウを振り回した。


『ウグワーッ!?』×18


※『無法な……w!』『ここまで来ると、ネームドモンスター以外は一撃だな』『電気屋さん無事か!』『無事みたいだ』『はづきっち、電気屋のおっさんにお礼言われてペコペコしてる』『助けた側なのになあ……』


 いやいやいや、私、小心者なので……。

 で、ついでに修理代の足しになればと、電気屋さんにある一番高そうなもの……。

 エアコンを購入した。


 ここまでもらったスパチャは優に100万円を超えてたので、一番いいエアコンを三つ……。

 全て、ポーチに収納する。

 Aフォンのストレージはまだ余裕。

 すっごい容量があるなあ。


※『何に使うのエアコン……!?』


「いや、なんかこう、街中がダンジョンみたいになってるでしょ? だったら使えるかなーって」


※『マジでこういうとんでもない状況になるほど……』『はづきっち肝が据わるよな……』『頼れる俺たちの姫だ』


 お、おいお前ら褒め過ぎるなよー。


 兄に指示された場所までは、トンネルを抜けてすぐ。

 そしてこういうパターンの時、トンネルっていうのは……。


『キキキキキキキキキキキキッ!!』


 屋根にびっしりと、真っ黒なマントを羽織った影がぶら下がっていた。

 レッサーヴァンパイアの群れだ。


 それは侵入してきた私を確認すると、一斉に襲いかかってきた。


※『おいおいおい! 多すぎるだろ!』『はづきっち逃げてー!』『殺虫剤でも足りねえよあれ!』


「えーと、そこでこのエアコンが効果を発揮します。えっと、超低温の強風に設定して」


 ストレージから取り出したエアコンを、ドシンとその場に置く。

 たまたま、カメラにはメーカー名がよく写ってる。


「スイッチオン!」


 私がリモコンを操作すると、三台のエアコンが猛烈な勢いで冷気を吐き出した。

 電力はAフォンから供給されてる。

 このスマホみたいなアイテムはほんとに便利なのだ。


 エアコンが吐き出す冷気は、一瞬で、多分零下何十度という温度になる。

 飛びかかろうとしていたレッサーヴァンパイアが、次々に動けなくなって落ちてきた。


『ウ……ウグワーッ……』×144


「うー、さっむ……」


※『やべえ』『エアコンってこういう使い方できるのかよ……!!』『すげえよダイキーヌ……!』『いやいや、同接数の力でしょ! エアコンが魔法みたいな力を発揮しちゃった』


「寒いから止めますねー。エアコンは後で、この配信見たどなたか回収してください! すみません!!」


 私はカメラに向かって謝った後、自転車を走らせた。

 もう、ひたすら走ると轢いたレッサーヴァンパイアが消えていく。

 ついでにゴボウをかざすと、


『ウグワーッ!!』×36


 光の範囲にいたレッサーヴァンパイアが灰になって消えていった。

 このゴボウ、太陽と同じ効果が……?


 っと、いけないいけない。

 兄のところに急がなくちゃ!


※『レッサーヴァンパイアがカトンボ扱いだよ!?』『すげええええええ』『モンスターが落ちてるトンネルを平気で通過していく!』『待ってろ二十三区! 今俺たちの姫が行くぞー!!』


「だってほら、原因になってるダンジョンを踏破しないとダンジョンハザードは収まらないでしょ……。虫は無視して……なんつって」


※『ん?』『ん?』『今なんて……?』『は?』『うん?』『何か聞こえたような……』


 お、お前らー!

 すべり芸には厳しいなあ!


「あー、今トラウマになった。トラウマになりました!」


※『被害を訴えてきたぞ』『被害者面しながら次々にモンスターを殴り飛ばしてる』『喋りながらきちんと仕事をするところは流石だなあ』


「ありがとう配信者さん!」「俺、登録するよ!」「私も!」「がんばれー!」「応援してるから!!」


「あ、どうもどうも……」


 あちこちの家からなんか温かい声を掛けられながら、私は自転車でつーっと走っていくのだった。


※たこやき『ツブヤキッターで祭りになってる』


「どゆこと!?」


※たこやき『チャリで走ってる配信者が道沿いのモンスターを殲滅しながら二十三区に向かって突き進んでるって』


「えーっ!!」


 そしてすぐに、修理が終わった兄のスポーツカーが見えてきた。

 橋の上に停車していて、車の横には兄と、見覚えのある男性が立っている。


 あれは……。


「思ったより早かったな」


「やあはづきさん! ご一緒できて嬉しいよ」


「えっ、八咫烏さん!?」


「八咫烏、口説くなよ」


 兄が凄い目で八咫烏さんを睨む。


「……お前まさか、それでずっと俺を警戒してたのか……?」


 合流したら、妙な顔ぶれ。

 私は兄に物申したいけど、八咫烏さんがいると人見知りが発動してまごまごしてしまうのである!


「まあいい。お前は監視できるところに置いておく。助手席にそのままいろ。はづきは後ろだ。……自転車? 借り物か。よし、後部座席に乗せておけ!」


 ということで、いざ、二十三区なのだった。


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