第38話 うちの校舎から配信者が出てきた伝説

「バーチャルアップ!」


 最初から、お披露目衣装状態のきら星はづきがそこに出現する。

 同時に始まる配信。


「お前ら、こんきらー! 新人冒険配信者のきら星はづきでーす!!」


 素早く、はづきのアカウントからゲリラ配信のツブヤキをする。

 もりもりと、同接が増えていった。


※『こんきらー! 待ってた!』『こんきら! はづきっちどこで戦うの!?』『こんきら!! やれーはづきっちー!!』


「お前らー! お待たせー! 今日はですねー」


 私は配信をしながら教室を出る。


「この高校から配信して行きたいと思いまーす!」


※『な、なんだってー!?』『はづきっちの通ってる学校!?』『あ、いや、学校にダンジョンハザードが急接近っていう情報があるわ』『ほな、はづきっちだから偶然居合わせたんやろなあ』


 ご協力感謝感謝!

 訓練された私のお前らは、みんな私がダンジョンハザードに対抗するため、わざわざ学校に来たという方向で話を纏めてくれた。


 階段を降りながら、声を張り上げて配信する。

 昇降口にいた教師や生徒は、何事かとこちらを見た。


 そして、誰もが「あっ!!」と叫ぶ。


「新人冒険配信者の」「きら星はづきちゃん!!」「なんでうちの学校に!?」


 いつもは誰も注意を払わない、教室の隅のオブジェである私。

 それが冒険配信者のアバターを纏うと、この場の全員が注目せずにはいられなくなる!


 いやあ、世の中というのは見た目が十割ですねえ……。


※『はづきっちが遠い目をしたぞ』『またいらんこと考えてるんだろ』


 そうこうしている間に、生徒たちの一団が教師を突破した。

 扉を開けて外に飛び出す。


 うーん、まだパニックは収まってないか。

 そして運悪く、カメレオンデーモンの集団もこっちに到着したみたいだった。


 校門を抜けて、どんどん飛び込んでくるカメレオンデーモン。


 生徒たちの悲鳴が上がる。


「では、いっきまーす!! こんなこともあろうかと!」


 私は走りながら、ポーチに手を突っ込む。

 掛けていく先は、人々がどんどん道を譲ってくれて、私のための道になった。


 何の邪魔もなく、後者の外へと飛び出す。


『キシャアアアアアアアアッ!!』


「ぎゃああああああ!?」


 カメレオンデーモンは、手近な女生徒をその長い舌で殴りつけるところだった。

 デーモンクラスの一撃を浴びたら、同接なしの一般人なんか一発でぺちゃんこになる。


 絶体絶命!

 だけどなんか、私は間に合ってしまうのだ。


 ポーチから引き抜かれるのは、ゴボウ。

 なんとなく、今朝、近くのコンビニで買ってきたやつだ。


※『ゴボウ、キター!!』『初手全力!』『いけ! いけはづきっちー!!』


 チャットが猛烈な勢いで流れる。

 スパチャが連続で飛んできた。


 さらに今日はそれだけじゃない。


「うわあああああー!! やっちゃえはづきっちー!!」「モンスターやっつけろー!!」「ゴボウさばき見せてー!!」


 ゴボウの輝きは、昼の太陽にも負けないほど眩くなる!

 それはカメレオンデーモンの舌に触れると、何の手応えも無いままに一瞬で光に分解した。

 そのまま振り抜いたら、デーモンごと光に溶けて消滅する。


 デーモンたちは、すぐさま全てが私に向き直った。


 地上に生まれた太陽みたいな光、彼らにとっては目障りだったのかもしれない。


 一斉に襲いかかってくる。


「あちょーっ!!」


 私は我流の、ゴボウフルスイング!

 その一撃で、近づいてきていたデーモンが丸ごと全部、光になって吹っ飛んだ。


『!?』


 デーモンたちの動きが、ここで止まる。

 なんか、目を見開いて口をパクパクさせている。


※『決まったあああああああ』『ゴボウ一閃! 全てのモンスターは道を開けろ!』『今回はその場で観戦してるリスナーもいるのか。いいなあ』『生はづきっちみたいよな!』


 生とか言うなー!


 ちょっと遅れて、学校側から大歓声が上がった。


「やった、やったああああああああ!!」「冒険配信者って凄い! 凄いんだ!?」「はづきっち、配信だとあんなにカワイイのに!」「本物のはづきっち、カッコいい……!!」


 おっ!

 校内にガチ恋勢が生まれてしまったかな……!


 そこで、Aフォンからザッコ伝いに兄の声が聞こえる。


『デーモンを鎧袖一触だな。想定通りだ! あとは送った地図の場所へ移動しろ!』


「へーい。でも結構あるよ? 何か乗り物があれば……」


 私がキョロキョロしていたら、女子生徒の一人が駆け寄ってきた。


「は、は、はづきちゃん!!」


「あっはい」


 途端にキョドる私。

 

※『ちょっと前まで英雄みたいだったのに』『すぐコミュ障になる』『これでこそ我らのはづきっち』


 くっそー、反論できねー。


「こ、これ!!」


 女子生徒は何かを差し出した。

 陽の光を受けて、キラッと輝く。

 それは……。


「自転車の鍵……?」


「私の通学に使ってる自転車、使って! 乗る時はスカートの上からジャージはいてるけど、今のはづきちゃんならスパッツだから!」


「あ、ども……ありがと……」


 私が目を合わせずにボソボソ言うと、彼女はにっこりしたようだ。

 私の手に、自転車の鍵をぎゅっと握らせた。


 そしてちょっと距離を取る。


「がっ、頑張ってください!! 私、斑鳩ファンで、その妹だーっていうあなたのこと気に入らないって思ってたけど……。今、ファンになりましたから!!」


 眼の前で、私のチャンネルに登録する彼女。

 今度は私にも見えた。


 彼女はめちゃくちゃ微笑んでる。


※『エッモ』『えっ、仕込みじゃないの?』たこやき『撮れ高しかない』もんじゃ『自転車のサドルの高さは大丈夫か!?』おこのみ『スパッツで自転車乗るの!?』


 最初の三人衆も来た!

 負ける気がしない。

 私は借りた自転車に乗り……乗ろうとしてサドルが高いので、さっきの女子生徒に手伝ってもらって高さを合わせ、その間に襲いかかってきたデーモンをゴボウでペチペチ叩いて光にした。


「じゃあ、ちょっとだけ借ります。どもです」


 私はペコペコしながら、自転車を走らせた。

 びゅんと自転車が加速する。


 前に立ちふさがったデーモンは自転車に触れた瞬間にぶっ飛ばされて光になった。


『ウグワーッ!?』


 同接数、10.000人!


 今の私は止められないぞ!


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