第41話 風紀委員長と一緒伝説

 借り物の自転車を走らせる私。

 配信は続いているけど、長時間になってきているからそろそろみんな疲れてきてないかな……?


「お前ら、休みながら見てね……!」


※『優しい』『はづきっちの気遣いにほろっとくるぜ』『ガチ恋しちゃう』


 むふふ、私に惚れてはいけない……。

 なんかみんな元気そうなので、私は安心。


 自転車でモンスターを倒しながら、目的地へと進んでいった。


 兄は本当に、目的のダンジョン間近まで車を進めてくれていたらしい。

 入り口前で、見知った顔を見つけた。


「はづきちゃーん!」


「はづきちゃん来たあ!」


「ういーすはづきちゃーん」


「カンナちゃん! 卯月さん! 水無月さん!」


 私は手を振った。


「いけませーん! 自転車の片手運転は色々危険! 両手で安全運転を心がけましょう! ただし! 配信者が自転車に乗りながら戦闘する場合は例外です!」


 いきなり大きな声で指導が飛んだ!


「ええーっ!?」


 いつの間にか、横を学校の制服姿の女の子が並走している……!

 黒髪ロングの小柄な彼女。

 どこかで見たことが……。


「……という挨拶代わりの指導をですね。ありがとうございます。一発目のキャラ立てにご協力いただきまして。あ、わたくしこういう者です」


 彼女はすごい速度で走りながら、ポケットから名刺を出してきた。


「あ、どうも……」


「ピピーッ! 片手運転です!」


「どうしろって言うんですかー!?」


 自転車を止めて、名刺を受け取った。

 そこには彼女の名前が書かれている。


 なうファンタジー第一期生配信者 風紀委員長 風花雷火


「えっ!! あ、あ、あなたが……なうファンタジートップ配信者、風花雷火さん!!」


 私だって知ってる。

 今のバーチャライズする冒険配信者業界の黎明期を支えた、偉大な人の一人だ!


 ライブダンジョンのゼロナンバー配信者、コスモちゃんとか、他にもそういう生きる伝説みたいな人は何人もいる。


「これはどうもどうも……」


 私がペコペコしていると、コメントが騒がしくなった。


※『委員長にペコペコしている間にモンスターが!』『危ないはづきっちー!!』


「ご安心ください!」


 風花雷火は、腕の風紀委員腕章に挟まれていた鞭を取り出す。

 これをビュンっと振ると、接近してきていたモンスターが次々粉砕されて光になった。


「わたくしの同接数は十五万人。普段の十倍の力ですから」


 彼女がにっこり微笑む。


「十五!! これがトップ配信者の力……!」


 私はおののいた。


※『はづきっちもそろそろ五万人行くけど?』『超速でトップへの道を駆け上がっている女が何か言うとる』


「そういうことです!」


 風花委員長は私のコメント欄を見た後、微笑みながら指を突きつけた。


「人を指差すのはマナー違反です」


 あっ、自分で指を曲げた。


※『その形は一本拳じゃん』『やる気だぞ委員長』


「ほあちゃー!」


「あひー!」


「すみません。コメントで期待されると思わずやってしまうんですよね。配信者のサガというもので」


「す、すごい人だあ」


※『はづきっちを飲んでくるタイプ初めてだな……!』『さすが配信者界のレジェンドは強いぜ』


 お前らもざわついている!


「話の続きをよろしいですか? つまり、わたくしはあなたに注目しているんです、きら星はづきさん!」


「わ、私に!? あひー!?」


「あのー! 委員長、そろそろ、その……。ダンジョンを攻略しないと……」


「ああ、そうでした」


 カンナちゃんが恐る恐る話しかけてる。

 自分の会社のトップ配信者だもんなあ。


「それじゃあ行きましょうか、諸君!」


「はいっ!」


「うっす!」


「ほーい」


 トライシグナルの三人を率いて、ダンジョンに颯爽と潜っていく委員長。

 元気な人だなあ……。


 私は自転車を押しながら、後をついていくことにした。


※『自転車置いて行ってもいいんじゃ?』


「借り物だし!」


※『ストレージにしまっておけないの?』


「そ、そっか!! お前ら頭いいなあ!」


 自転車を抱えて、ベルトポーチにギュッと詰め込む。

 スポンっと入った。


「おほー、便利~」


※『自分の機能でしょ』『うっかりし過ぎである』『かわいい』


「はづきさーん?」


「あっ、はいはい!」


 委員長に呼ばれて、私はバタバタとダンジョンに駆け込んでいった。


 ここは、使用されなくなった地下鉄に続いている通路。

 半ダンジョン化してるけど、多分ダンジョンハザード前は普通の廃墟みたいな感じだったんだろうなー。


 迷惑系アワチューバーが潜り込んで、どういう手段を使ったのか封印を解いちゃったわけだけど……。

 あの人たち、目立つためならなんでもやるからなあ。


「うおーっ! 怨霊退散ですよー! 未練があってもこちらに残っているのはルール違反です!」


 鞭が唸りをあげて、デーモンがバリバリと倒されていく。

 強い強い。


 トライシグナルの三人も頑張っているけど、委員長の破壊力はとにかくとんでもない。

 鞭の射程距離は長いし、巻き起こす衝撃波で普通のモンスターならふっ飛ばしてしまう。


 そこそこのデーモンでも、まともに当たったら無事では済まない。


「つえー」


※『はづきっち楽してて草』『そのゴボウは飾りか』


「いやいや、大先輩が頑張っていらっしゃるところで私のような素人が……うへへへへ」


※『登録者34万人の卑屈ぅ~!!』


「また増えたの!?」


※たこやき『さっきの学校配信でかなり増えてる』


 それにしたって異常だろ!

 ぐえーっ、34万の監視が私に向いている……!

 さぼれない!


「あ、あの、私もやりまっあひー」


 私は駆け出したら、石に躓いて吹っ飛んだ。

 そこへ偶然、トライシグナルの頭上へと、天井からスライムみたいなデーモンが降ってきて……。


『!? ウグワーッ!!』


 私とゴボウにぶつかられて、スライムっぽいのが叫びながら消えた。


「あひー! べとべと!!」


 魂みたいなのを失ったスライムは、ただのネトネトになった。

 バーチャライズした服は、汚れてもちょっと時間が経てばきれいになるけれど……。


※『ありがてえありがてえ』おこのみ『素晴らし……素晴らし……生きてて良かった……盛り上がりから滴るねっとりとした液体……』


「センシティブセンシティブー!!」


 ちょっと動いたらこれだ!

 どうなってるの全くー!!


 この光景を、委員長が振り返って見ていた。


「なるほど、きら星はづきさん……。なかなかやりますね……!!」


 何が!?


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