第375話 はづきへっぽこバトル伝説

『やあはづきちゃん、あけましておめでとうございます』


「あけましておめでとうございます~」


 八咫烏さんはお正月も黒いコート姿だ。

 常に物腰が柔らかい紳士的な感じなんだよね。

 彼が慌てる時ってあるのか!


 兄とは大違いだなあ。


『最近はご活躍らしいじゃないか。僕らも負けていられないな! 今日はゲームでコラボということで、よろしくね』


「あっはい、よろしくお願いします!」


※『八咫烏さすがの貫禄やなあ』『あの余裕を保つために、常にあらゆる状況を想定しながら活動してるそうだぞ』『マジで!?』『そして毎回想定外のことになって、平然とした風を装いながらポンをやる』


 あー。

 ある意味兄の同類だったか!!


 こと、ダンジョン配信の戦闘力だけで言うと国内五指に入るんだそうで、超絶強い。

 スポンジ射出ライフルのラーフ一丁でそこまで戦える人、世界にはそういないと思う。


 で、最後はうちの息子。

 スレイヤーVさんです。

 私がこの間作った、通常衣装の上に被せるおめでたい紅白ハッピを着ている。


『やあはづきママ。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします』


「今年もよろしくお願いします~。ハッピ似合ってますねえ」


『だろ? 俺もお気に入りなんだ。ファンからはめちゃくちゃに笑われているけどな』


※『平然とトンチキハッピを着てる辺り豪のものだw』『はづきっちがママって呼ばれてるのを見ると不思議な気分にもなるw』いももち『くそーっ、わ、私のママになってくれるはずの人だぞ!』もんじゃ『今サラッと重要情報が出てこなかったか?』


 私がママになるはず?

 おかしいな……。

 フルでアバターデザインをしてあげるのは、他に野中さんしかいないはず……。


 まあお前らはいつも不思議なことを言っているので気にしません。


 ということで、四人と挨拶を終えてから、本日のゲームです。


『死にゲーギャングバトル!!』


 ゲーム名が発表されて、うおーっとリスナーみんながどよめいた。

 ここ最近のわちゃわちゃバトルものでは最新作。

 有名ゲームキャラである上澄タマルと、その愉快な仲間たちをモチーフにしたバトルものだ。


 スレイヤーVさんがタマル、スパイスちゃんがヒロインでハーピーのポタル、チャラウェイさんが魔人ラムザー、八咫烏さんが雪だるまのフランクリン、そして私がこの作品の黒幕である邪神ヌキチータをキャラで使うことになった。

 でも、キャラクターはガワだけで性能差が無いんですよね!


 ステージの上でみんなでポカポカ殴り合い、ステージの外に落っことして、復活時間切れにさせれば勝ち。

 落っことされても時間内に戻れればセーフ。


 あとはステージあちこちにアイテムがあって、これを組み合わせて武器を錬成したりできる。

 それで殴り合うわけね。


 デフォルメされた五人のキャラがずらっと並ぶ。


『ゲームスタートだ! ヒャッハー!!』


 チャラウェイさんの宣言で、ついに戦いは始まった!


『はづきちゃんドーン!』


「あひー!? す、スパイスちゃんが狙ってくる~! 助けて息子~!」


『はづきママは自力で戦うことを覚えてもらわないとなあ』


「息子が厳しい~! うぐわー!」


 私は真っ先にステージ外に転げ落ちて、うまく這い上がれないまま時間切れ。

 ステージ下に蔓延する毒ガスでゲームオーバーとなった。


 な、なんという恐ろしいゲームなんだ……!!


※『約束された敗北』『はづきっちはほんとゲームだけは弱いw』『画面の前でコントローラー握ってわちゃわちゃ動いてるに違いない』


 なぜわかるのだ!?


 敗北した私は、天の声役になって戦場に次々にアイテムを投げ込むことができる。

 ええい、巨大な魚の死体を喰らえ!

 えっ!? お邪魔なだけの死体が潜水艦に錬成された!?


 スレイヤーVさんが潜水艦アタックで、八咫烏さんを吹っ飛ばす。


『ふふふ、想定内だよこれは。まだまだ復活の目が……復活の……復活……たすけてーっ!!』


 なんか叫びながら八咫烏さんがゲームオーバーになった。


※『迫真の悲鳴w!』『ダンジョン配信のほうが常に余裕だからなあの人w』『ゲームだと軽率に凄い悲鳴出すよなw』


 で、そんなスレイヤーVさんをスパイスちゃんが後ろから襲い、そこに棒を握りしめたチャラウェイさんが襲いかかりフルスイングで殴る。


『うわーっ! 棒強い!! 潜水艦より強いのか!』


『チャラちゃんやべー!』


『あひゃひゃひゃひゃ! 死ねーっ! フルスイングでぶっ飛ばしてくれるぅーっ!!』


 激闘の中、毒ガスが迫ってステージが狭くなる……!!

 限られた範囲内で、スパイスちゃんのスライディング攻撃が決まり、チャラウェイさんが毒ガスの中に放り込まれて『アギェーッ!!』とか迫真の悲鳴をあげた。


「リアクションが参考になるー」


※『紅一点が汚い悲鳴を参考にするなw』『アイドル売り始めたかと思ったらこれですよw』『はづきっちは汚れ役が似合う』


 なんですと!

 結局、スレイヤーVさんを持ち上げて毒ガスの中に放り込んだスパイスちゃんが勝利した。

 強い!!


 こんな感じで、落下したら即死の疾走するトラックの上での殴り合いとか、落下したら即死の疾走する電車の上での殴り合いとか、海から名状しがたき者が上がってきて邪魔してくる海上殴り合いとかをやったのだった。


 海の上だと私が超強かった。


※『はづきっち、明らかにモンスターみたいなのが妨害してくるステージだとクソ強いのなw』『最高のタイミングで妨害を活用するからな。天性の技だw』


 こうして、私たちのゲームコラボ配信は二時間の熱闘のうちに幕を閉じた。

 割と全員勝ってたけど、一番強かったのはスパイスちゃんだったな……。

 終始笑いっぱなしでお腹が痛い。

 これは腹筋の運動になりますわ。


 そして、ここで告知です。


『えー、スパイスたちフォーガイズがですね、ステージで歌ったりするイベントやります! そこで、きら星はづきちゃんをゲストに呼びます! 時期は2月! 楽しみにしててね!』


※『な、なんだってー!!』『そんなイベントが裏で……!?』『はづきっちがアイドルになっちまう!!』『もう既に偶像ではあるが!』


「そうだったのです。私が行くか、ベルっちが行くか楽しみにしていてください」


 これぞ、二人いるから色々できるでしょ戦法なのだ!!

 ベルっちとはどっちが行くか、あとでじゃんけんで決めておこう……。


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