第236話 発売、はづきフィギュア!伝説
私のフィギュアがついに発売しました!
ということで、店頭に並ぶ前に予約した人たちの手元へ、どんどん届いているらしい。
ツブヤキックスが到着報告、開封報告、ブンドド報告で溢れた。
ブンドドっていうのは、ブーン、ドドドーッって口で言いながらガチャガチャ動かして遊ぶやつ。
そして海外にもどんどんフィギュアが出ていく。
タンカーに満載されて出発したらしいけど、これを襲った海上のダンジョンがタンカーに触れて爆散したりしたらしい。
なんだなんだ。
『はづきっちフィギィア、いままででトップクラスのご加護があるぞ!』『聖遺物じゃん』『いや、ホーリーシンボルだ!』
ウワーッと盛り上がる、ツブヤキックス上のお前ら。
そこまで……!
でも本当に、私のフィギュアを持ったままなら、並のゴブリンくらいだと相手にならないらしい。
一般人がそうだからねえ。
「これは、手にしたものに同接20人相当の加護を与えるものだな。いや、目分量なんだが」
事務所に行ったら、私のフィギュアでブンドドしてた宇宙さんが急に真面目な顔になって、そんなことを言った。
「はあはあ。20人は凄いんですか」
「ホブゴブリンを一般人が倒せるかギリギリのレベルと言ったら凄さが分かるかな?」
「そ、それは凄い」
大変感心してしまった。
「いやはや、私も驚きだ……。こんな代物が世間に出回ったら、私の商売が上がったりだよ。だが、いやあ、よく動く……。作りも精密で……」
「あひー、フィギュアの太ももとかなでなでしないで下さい!」
センシティブですよ!
「あ、済まない済まない……。君の目が届かないところでやろう……」
いそいそと去っていく宇宙さんなのだった。
それはそれでどうなんだ。
あと、何をしに来たんだあの人。最近よく遊びに来るなあ。
社長室に顔を出したら、兄とたこやきがなんか動画を見ていた。
「いいな」
「でしょう」
「なになに」
「おやはづきっち」
二人が見てる動画は……たこやき謹製の私のまとめ動画だった!
バングラッド氏との激戦(私が一方的にレースで負けて「あひー」って言ってるやつ)をさらにギュッと凝縮編集した見事なもので、こ、これは私の尊厳はどこに……!!
「はづきっちはいつも美味しい題材を提供してもらってます。ありがとう」
「ど、どういたしまして?」
「俺が新作のまとめ動画をチェックしているのだが、今回のものもなかなかだぞ。フィギュアの発売と合わせ、再生数が素晴らしいことになりそうだ」
兄は大変満足げである。
なんかイカルガエンターテイメントの株価が、天元突破する勢いで上がり続けてるらしい。
うちは今、空前の好景気。
さらに、異世界人配信者としてカナンさんを迎える予定だとか、他に新規の配信者デビュー準備など諸々……。
「うおわー甘いぃぃぃぃぃ」
「歯が溶けるぅぅぅぅぅぅ」
「一口で体重が増えそうぅぅぅ」
受付さんと見習いさん二人がなんか向こうでのたうち回ってる!
なんだなんだ!
でもこの悲鳴、なんか覚えがある……。
見に行ったら、しっとりした感じのドーナツ生地にお砂糖をたっぷり振ったお菓子を食べていた。
横には超苦いセンブリ茶。
だけど、それでようやく対抗できるほど甘いお菓子がこれらしい。
「グラブジャムンでは……」
「あっ、はづきちゃんよく知ってるねえ……」
甘さに震える受付さん、どこか恍惚とした表情をしていた。
「実は、ビクトリアちゃんの紹介で配信者をやってみたいっていう女の子の差し入れなんだけど」
「あー分かりました。ファティマさん」
「そう! 知り合いだった?」
イカルガエンターテイメントでは、夏休みにデビュー予定の配信者として、カナンさんとファティマさんがいるのだった!
知り合いがどんどん配信者になるー。
「俺の予定では、配信者が全部で十人になったところで一段落だ。ちなみに、お前に続く我が社の配信者第二位はビクトリアだ。今度アニメーションの声優としてレギュラー出演も決定している……」
「な、な、なんですってー!!」
最近忙しそうなビクトリア、なかなか会う機会が無いと思ったら……!
「いや、まだ本人には話していない。この間ウェブラジオでボイスドラマに出たりして、順調に独自のキャリアを積んでいっているが……そこから是非にと先程声が掛かってな」
凄い!
そしてその直後にビクトリアがやってきて、アニメの声優やる? とか聞かれて「あひー」と私そっくりの悲鳴をあげていたのだった。
おお、ビクトリアが衝撃のあまりへなへな崩れ落ちる!
シュババッと走ってビクトリアを支える私。
「や、やるわ……! リーダー、私やるわ!!」
「ファイトビクトリア!! できるできる、絶対にできる!!」
「やるわやるわ!!」
二人でうおーっと盛り上がる。
そうしたら、奥のスタジオからファティマさんがにゅっと顔を出した。
「あら、ビクトリア。はづきさんも。ナマステ」
「ファティマさんナマステー」
ちょっとしたら、日本語教室から帰ってきたカナンさんも合流した。
うーむ、この顔ぶれ、イカルガは国際的になってきたな!!
というか、日本人配信者は私と兄とイノシカチョウだけじゃん。
「これからは異世界人が日本に移住してくることだろう。そうなれば、彼らから人気が出やすいのはやはり異世界の人材であったり、もっと国際色豊かな配信者だ。イカルガはそれを見据えて動く」
今まさに絶好調だというのに、さらに攻め続けるのだ!
兄はやる気だなあ。
自身も完全にアバターを自由に使えるようになって、あちこちに出ているみたいだし。
ちなみに経営に関しては、宇宙さんとお兄さんも協力体制になっているとか。
後はうちの母と、母の友達のマネージャーさんと。
うむむ、イカルガはどこまで行くのだ。
これは凄いことになりそうだなあ、と私は思うのだった。
後日……私にも声優として出演しませんかみたいなオファーが来たけど、これは丁重にお断りしたのだった。
絶対に緊張してなんも喋れないからね!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます