第412話 二曲目発売前伝説
インペリアルレコードのノリマキさんから、「二曲目の歌、雨雲叩き割り、快晴! のですね、発売イベントをバベルレコード直売店で」という提案があったのだった!
な、なんだってー!
バベルレコードは、世界の言葉の壁を超えて音楽を届ける! をモットーにした海外の音楽系販売店。
本土であるアメリカだともう通販とかダウンロード販売ばかりで実店舗はほぼ無いけど、日本ではまだ生き残っているのだ!
私はあんまり行くこともないんだけど。
「いいんですか!? いっぱい人が来ますよ。交通規制かかりますよ!」
「あっ、その可能性が……」
ノリマキさん、事の重大さに気付いたらしい。
私のリスナーさんが1%来るだけで、駅からバベルレコードまでの道が全部封鎖されますからね!
周辺駐車場も全部埋まるんじゃないかしら。
ということで、私が直接行くというのはナシになった。
1%もこないと思うけど、それでも相当まずいですからね!
「じゃあどうしましょうか。って、考えるの私ですもんね」
ノリマキさんがそう言った後で、コーヒーをずずーっと飲んだ。
そう!
私達は今、バベルレコードが見える世界的コーヒーチェーン店にいるのだ!
ここで私からの提案。
「それじゃあ配信者らしく、大画面に映るのはどうですか? ほら、ちょうど場所も渋谷だし」
一昨年のハロウィン以来の渋谷!
昔のここはウェイとか陽の巣窟みたいなイメージで恐ろしかったけど、今は普通にビジネスマンとか観光客の人が多くて、賑やかな普通の街(人通りはめっちゃ多いけど)になってる気がする。
駅から見えるあのでっかい画面に映れば、かなり目立つんじゃないかな。
まあその映像が流れてる期間、私は絶対に渋谷に寄り付かないけどね!
恥ずかしいでしょ!
「なーるほど! 確かに王道ですね。私としては、はづきちゃん独自のを考えてたんですけど、思いつかなくて……」
「えっと……例えば今って、スマホのAR機能で宣伝できるじゃないですか。だから渋谷の街をカメラで映したら私の歌の宣伝とかプロモが流れるようにして」
「そ、そ、それだ!」
「映像はPVから取っていただくと……」
「締め切り的にはそれが現実的ですよねえ……。はづきちゃん忙しいのに、今日ここまで付き合ってくれただけで感謝です」
「いえいえ、美味しいバルのお料理を奢ってもらえると聞いて……」
私の中でベルっちも興奮しております。
こうして私、ノリマキさんと二人でバルに行き、個室で大いにお肉料理を堪能したのだった。
人目が無いから、ベルっちも実体化して二人でもりもり食べた。
さて、二曲目のプロモーションが始まりましたよ!
私は渋谷だけでやると思ってたら、新宿でも始まってて仰天した。
イノシカチョウの三人と映画を見に行ったら、AR広告を覗いていたもみじちゃんが「はひー」とか言ったのだ。
「どうしたのどうしたの」
「先輩がAR広告に~!」
「あっ、新宿でまでやってる!」
もみじちゃんのスマホの中で、私はPVのアクションそのままに、道を駆け抜けながら光り輝くゴボウを振り抜くところだった。
これ、水の大魔将と風の大魔将戦をイメージした曲とPVなんだよね。
空を包みこむ暗雲を、ゴボウがなんか切り開いて光が降ってくるという感じ。
王道かつちょっとトリッキーだった一曲目とうって代わり、ダウナーな曲調からどんどんアップテンポになっていく、やっぱりトリッキーな曲になっております。
私はどうやらトリッキーな方が歌いやすいらしい……。
さらに映画館で、宣伝で私の曲が流れたりした。
は、は、は、恥ずかしい~!
ざわつく映画館。
「はづきっちの新曲!?」「PVかっこよ!」「まだアワチューブで発表されてないよね!?」「絶対買う~」
女子の声が多いな……?
いつものお前らは大半が男性だと思ってたが。
「ああいうのは、女子でも男の口調で書き込むものよ。場の空気ってものがあるじゃない」
ぼたんちゃんは詳しいな。
「チョーコは別のアカウントで師匠のチャンネルに潜んでるもんねえ」
「こ、こ、こらーっ!」
ぼたんちゃんが小声で怒って、私を挟んで隣りにいるはぎゅうちゃんをポコっと叩いた。
お前らの中にぼたんちゃんがいたのか!?
驚愕の事実だ。
なんか、他にはさといもさんがほぼ毎回いるし。
野中さんは忙しいだろうに、私がイベントに出たからお礼で顔出ししてくれてるんだろうなあ。
「あっ、始まる」
ぼたんちゃんの打撃を受けても全く動じず、もみじちゃんがポップコーンをもぐもぐしながらそう言った。
ここから私達は鑑賞モードなのだ。
話題の女子スポーツのアニメ映画でしたよ。
面白かったー。
映画の後、はぎゅうちゃんが体をわきわき動かしながら、
「やっぱね、スポーツに挑戦みたいなのはやってみたいと思うんだよね。師匠がいるうちに、あたしら女子高生四人組で!」
「うん、いいと思うわ。でもそれってイノッチが映画に影響されたから思いついたことじゃない?」
「あたしはもともとスポーツ少女と呼ばれていてー!」
「うちもいいと思う。で、何をやるの? 陸上だとイノッチの独壇場でしょ? うちはスポーツ全般が不得意ではあるー」
「そうだなあ」
「そうねえ」
「ふーむ」
私も一緒になって考えた。
そこで、新宿駅東口に来たら。
でっかいビジョンで、私の宣伝がガーッと流れたのだった。
「あひー」
不意打ちである!
インペリアルレコード、どれだけ宣伝にお金を掛けているんだ!
あっ、映画館で流れたということは、全国で宣伝してるんだよねあれ!?
そして渋谷と新宿でも!
わ、私に逃げ場なし!!
そう言えばカナンさんも、遊びに行った地方の温泉で私の宣伝を見たとか言ってるし。
スファトリーさんがよく使うファミレスでは、コラボキャンペーンが始まったとか。
ノリマキさん、やり手だ!!
そんなこんなで、来てしまうのだ、発売日!
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