第411話 呪いのギャラリー探訪伝説

「仮に画廊ダンジョンと名付けましょう。ダンジョン内に立っていたあの女の人が、多分デーモン化した画廊の主だと思われますねー。あ、どうもどうも、お邪魔してます」


※『デーモンとペコペコ挨拶し合う展開、初めて見たな……!』『久々のダンジョン配信、初っ端から魅せてくれるぜ』『この先何があるのか想像できない!』


 私はダンジョン化したレンタルスペースをトコトコ歩く。

 とても奥行きが広くなってる。

 で、あちこちに渦巻く闇みたいなのがわだかまっておりまして。


 おっ、ここは風景画ですね。

 描かれているのは灰色の空間と暗灰色に土色が混じった荒野。

 ところどころ、強烈な差し色が入ってる。


 おどろおどろしい感じで、見ているだけで中に吸い込まれそう。


『これはですね、私の心象風景を描いたもので、無理解な世の中への怒りと悲しみを色彩に込めまして』


「あっ、だからぐにゃぐにゃっと歪んでて青とか深緑の色が多いんですね」


『そうなんですよ~』


※『見てるだけでこっちも頭が痛くなってきそうな絵だ!』『なのに平気で講評して、デーモンと和気あいあいとしてるぞ!』『はづきっち、さらに成長したな……!?』


 絵は本当に吸引力があって、そこに描かれたどこでもない世界に人を取り込んでしまうみたい。

 絵のあちこちに人がいて、なんかこっちに向かって手を振ってるように見えるし。


「ちょっと失礼しますねー。あちょっ」


『あーっ、お客様、額縁をゴボウで叩かないでください! あーっ絵が!』


 私がゴボウでペチったら、絵が『ウグワーッ!!』と叫んで一気に縮小した。

 本当は抱えられる位のサイズのキャンバスだったのね。


 で、中からどさどさーっと数人の人が転がり出てくる。


「た、助かったー!!」「もうダメかと思った……」「ひ、ひい! デーモンがまだいる!」


『おのれ、私の絵の画材にしたはずなのにーっ!!』


「まあまあ、落ち着いてください。絵にナマモノを加えると腐ったりしそうじゃないですか」


『あっ、言われてみれば』


 ハッとするデーモン。

 気づいてなかったようだ。

 その間に、助けられた人達は外へ逃げていった。

 依頼人が驚く声がする。

 近所の人だったみたい。


「ということで次に行ってみましょう。えーと、今度は人物画? 半分身を乗り出して、こっちに向かって刃物を振り回してますねー」


『ここから先に通過できた客はいないわ。みんな切り刻まれそうになるから逃げ出すの』


「なんということでしょう。つまり他の作品群は誰の目にも止まっていないということでは」


『あっ!!』


 ハッとするデーモンの人。


「いけませんねー。恨みとかで凝り固まって、自作品が人の目に触れる機会を奪ってしまってます。なんかあれです? デーモン化したのは評価を得られない画壇への復讐とかそんな感じの」


『そ、そんなわかりやすいものではない! 私を理解しない芸術界に、私という存在を刻みつけるために……』


※『大体はづきっちの理解通りだった』『闇落ちの理由はそんなに多くないのよw』『しかしこう、陰鬱な感じの作風が多いなあ』


「ということで、こっちの刃物振り回す人物画を倒しますね。あちょー!」


 私は人物画の間合いに小走りで入っていった。


『もがー!!』


 刃物が振り回される。

 これをゴボウでコーンと打ち返したら、刃物がポキっと折れた。


『ウグワーッ!?』


※『一合持たないw!!』もんじゃ『大魔将を消し飛ばすゴボウだぞ。たかが絵から出てきた化け物じゃ相手にもならない』『あー、また額縁を優しく叩いたら化け物が消滅した』『絵本体を傷つけないように気を遣ってるのな』『やさしい』


『ああ、私の渾身の絵が! 親友の像がこんなにも容易く! 一緒に芸術の道を邁進しようねって言ってたのに真っ先に結婚して子供までできて幸せな主婦生活してるあんにゃろうの絵が!!』


「フクザツなドラマがありそうですねー。次行きましょうー」


※『ドライw』『はづきっちはこういうウェットなのをとことん無視するよなw』『興味がないのかも知れないw』


 次、その次、またその次、と見回してみたけど、大体が似たような感じ。

 ここは全部油絵で風景や人物、静物画が描かれてるんだけど……。

 大半は意識を持って、通りかかった相手を吸い込もうとするか、傷つけようとするかなのだ。


 静物画だけはスンッとして闇落ちしてない。


「これだけなんか、憎悪みたいなのが籠もってない感じですけど」


『そりゃあ、果物を描く時に憎しみ込めないですよ。私りんご大好きですし、このあと皮を剥いて美味しく食べましたし』


「なるほどー。じゃあこれは普通の絵、と。この絵すごく美味しそうで私好きですよ」


『えっ、ほんとに!?』


 デーモンが嬉しそうな顔をした。

 その瞬間、彼女がスーッと輪郭が薄れていく。

 なんだなんだ。


※『あっ、これ……!』『はづきっちに褒められて、成仏しちゃうやつだ!』『すでにゴボウで触れる必要すら無い領域に……』


『ああ~、ちょっとうれしくなった瞬間にそこから入りこまれて強制的に浄化させられる~』


 スーッ消えていって跡形もなくなるデーモンさんなのでした。

 そうしたら、画廊に渦巻いていた闇な雰囲気がパッと消えた。


 すっかり、あまり広くないレンタルスペースになる。

 幾つかの絵が並んでて、どれもこれも、なんか穏やかな雰囲気になっていた。


 デーモンがいたところには、固まった油絵の具が何色か落っこちていた。


 これ、静物画を描いてた時に服にくっついていた絵の具では。


※『物悲しい感じで幕を下ろしたな……!』『最後の一撃は切ない』『まあデーモンになった時点でもう救えないって言うからなあ』


「今回は犠牲者いなかった感じですね! 良かったですねー。あ、こちらに並んでいる絵は販売もしてるそうなんで、興味があるリスナーさんはぜひ来てみてください! それではー!」


※『ギャラリーの主がもういないのにw!』『画廊の宣伝して終わったぞw!』


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