イケてる?私の立志編

第32話 つかの間の休息、次なる伝説のきっかけ

 大イベントが終わった……。

 私はすっかり気が抜け、翌日の配信はお休みしたのだった。

 でも学校には行った。小心者だからサボれない……。


 卯月さんは普通に学校に来て、しかも毎日配信を開始してる。

 鉄人か!


『はづきちゃん一緒に帰ろう! ちょうどカンナも大学終わるって言うから合流できるし。ミナ? あいつは昼夜逆転してるから寝てる』


 卯月さんから声が聞こえてきそうな雄弁なLUINE来たあ。

 まあ、陰キャな私と言えど?

 親しい人に一緒に帰ろうって誘われたら、そりゃあ一緒に帰っちゃおうかなーって思いますよねー。

 あれ? これで私も陽キャかな……? グフフフフ。


 校門の裏口で、卯月さんと合流した。


「推薦通ってたから、試験受けなくても大学進学確定。やったね」


「お、おめでとうございます」


 ちっちゃく拍手したら、卯月さんはニッコリして私をぎゅーっと抱きしめた。


「あひーっ」


「ふかふかしてるはづきちゃんをハグすると、落ち着くなあ……。んじゃ行こう行こう。あのね、おすすめのお店があってね」


「買い食い……!?」


 とんでもないお誘いに、私は震えた。

 基本的に自宅へ直帰する以外の生き方を知らなかった私だ。

 友達と一緒に、学校帰りにどこかでお茶をする……!?


 ま、まるでリア充じゃないか……。

 恐ろしい、これが陽キャの力……。


「あ、はづきちゃん寄り道ダメなタイプ?」


「いえ! いえいえいえいえ! 大丈夫です! 全然いけます! やりましょう!」


「そっかそっか! じゃあ行こっか!」


 そういうことになったのだった。

 学校のクラスメイトだと、「ちょっと遠慮しときますぅ」となるんだけど、不思議とこの人たちだと平気なんだよね。


 やはりこれは、配信者としてのシンパシー……!?

 ありそう。


「はづきちゃんの表情がコロコロ変わってる」


 なんか卯月さんに顔を覗かれつつ、私たちは普段の通学路からちょっと離れたところへ。


「うおーい」


 卯月さんが野太い声を出して、遠くに手を振った。

 私はビクッとする。


「わほーい」


 向こうで、見覚えがある人が手を振り返していた。

 カンナちゃんだ。


 ……二つ年上の卯月さんがさん付けで、四つ年上のカンナちゃんがちゃん付け……。

 ま、いいか。


「あっ、制服はづきちゃんだ! レア~!」


 駆け寄ってきたカンナちゃんが、私を抱きしめてきた。

 トライシグナルの人たち、めっちゃハグしてくるな!?


「こ、こ、こんにちはー」


「今日ははづきちゃん、夜配信なの? お茶付き合ってもらって大丈夫?」


「あ、私、今日配信、お休みなんで……」


「そっかそっか、学業と両立しなきゃだもんねえ。昨日の今日でちゃんと学校も行ってて偉い。私、一限だけ出、後は食堂で昼寝してたよー」


 ここで卯月さんが、自分をぐっと指し示す。


「ふふっ、私は学校も配信も両方する!」


「鉄人とはづきちゃんを一緒にしたらかわいそうでしょー」


「女子高生捕まえて鉄人呼ばわりするな」


「ふふふ」


「ほら、はづきちゃんに笑われた!」


「桜、人を笑わせるの好きじゃなかったっけ?」


「笑われるのはやなのー!」


 にぎやかに騒ぎながら、私たちは喫茶店へ入った。

 個室を選択。


 普段はバーチャライズしているとは言え、声はそのままだから、バレてしまう可能性がある。

 冒険配信者って有名人だから、バレると色々面倒くさいのだ。


「今日から私たちも配信者だからね! 頑張らなくちゃ!」


「うんうん、全力でやる! ってかカンナはキャラ作ってるから大変でしょ? 私はほぼほぼ素だもん」


「キャラ作っててもすぐ素になるから。口調だけ気をつけてるし……! あ、でもキャラと言えば」


 二人の視線が、ズゾゾッとスムージーを飲んでいた私に注がれた。

 な、な、なんですかな?


「はづきちゃんのキャラ付け凄いよねえ……素だとは思うけど」


「うんうん。あれを素で出せるの、本当に強い! 才能だよ」


 褒められてるのか!?

 いやいや、なんかうちのリスナーも似た感じの事言ってくるし。

 うちのお前らは口は悪いけど、一致団結して私の配信の手助けしてくれるしなあ。


「ま、ま、まあ、なんか陰キャっぽいとこを気に入ってもらえてて、複雑ですけど……」


 ぼそぼそ言ったら、二人はニコニコした。


「私たちから見たら、はづきちゃんってすっごい人なんだよ? なのに謙虚なの凄いなーって思う」


「そうだねえー。同じ学校にこんな凄い人がいたんだーって私も思うわー。昨日だって助けられちゃったし」


「あ、いえいえ、いやいや、そんなそんな」


 恐縮しながらスムージーをズゾゾッと吸ったら、カンナちゃんがチーズケーキを奢ってくれた。


「これは験担ぎ! すぐに収益化して、ケーキをガンガン食べられるようになってやるんだから!」


 おお、カンナちゃんが燃えている!


「トライシグナル三人で一気に収益化したいねー。ダンジョン潜りまくらなきゃ!」


 卯月さんは、体が幾らあっても足りなさそう事を言ってる!

 でもなんか、こうして三人でお茶しながら喋っていると……女子会って感じがする。


 これが伝説にうたわれる女子会……!!

 私はそんな事を考えつつ、自分が着実にリア充への道を歩んでいることを実感するのだった。




 夜。

 配信が無いので、布団に転がりながらエゴサをしたりする。


 ふと、冒険配信者タグで変な書き込みを見た。


『冒険配信者ばっかり注目されてずるいよなーって思いません? そうじゃない俺らだって、ダンジョン潜って色々できるはず! ……ってことで今夜! やっちゃいます! 解放!』


 なんだろう?

 アワチューブ配信者……アワチューバーだと思うんだけど。


 冒険配信者じゃないのかな?

 そんな人がダンジョンに潜って何をするんだろう……?


 私は考えながら、そのまま寝てしまったのだった。

 朝には、その人たちの配信がアーカイブ化されていて……大きな騒ぎになっていたのだった。


 彼らは都心にあった、地下鉄ダンジョンに侵入。

 厳重に封印されていたそれを、『伝説のダンジョン、解放してみた!』という配信で、解き放ってしまったのだった。


 アーカイブは、解放された途端、溢れ出したモンスターによって配信者たちが飲み込まれ、絶叫を上げながらカメラが揺れて途切れるところで終わっている。


 ツブヤキッターのタグ、第一位は、ダンジョンハザード……!


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