第31話 イベントクライマックス伝説
ボ、ボスモンスターだーっ。
ダンジョンの奥底には必ず怨霊がいて、そいつが年月を経たり、なんかよく分からない力を受けてデーモン化している。
今回の相手は、ヌメッとした見た目の真っ黒な巨人。
顔がなくて、ツルツル。
腕は地面につくほど長くて、指先が分かれていない。
「こいつは……グレーターデーモンだなー。グレーターって言うんだからなんかグレートなんだろうなあ」
なんかちょっとホストっぽい配信者の人がそう呟いた。
強いのかな……?
「あ、今、強い? って聞こうとした? したね? あれはね、強いよー。うちの近所の柴犬より強い」
※『教えたがりお兄さんだ……!』『はづきっちホストから逃げてー』
チャット欄のお前らがなんか心配してくれてるんだけど。
モンスターの時よりも心配してない?
これが今回のイベントのクライマックス。
ボスモンスターをみんなで倒してエンディングという筋書きらしい。
ここからは、ゲストの人たちも自分のチャンネルで配信オーケー。
同接数をたくさん稼いで、一気にみんなでボスモンスターをやっつけてしまおうという話になるのだ。
※『別に、はづきっち一人で倒してしまっても構わんのだろう?』
やめろやめろフラグ立てないで。
※もんじゃ『妙だな。あの見た目……。グレーターデーモンの一体だが、デーモンは上位になるほど姿でその脅威性を現すと言われている。あいつからはそういうものが何も感じられない。まるで顔がないみたいな……』『考察ニキ来た』
もんじゃが指示厨からニキって呼ばれるようになってる……。
私のリスナーの人間関係、激動だな。
「はづきさん! よそ見してる暇はありませんわよ! 行きますわよー!」
「これがイベントのラストだね。魔法で決めるよ」
「よっし、私は得意の居合で!」
トライシグナルの三人!
呼び名があると便利だなあ。
三人とも、やる気満々。
新人さんは眩しいなあ……。
※『はづきっちベテラン面してて笑った』
う、うるさいぞー!?
※『はづきっちはコメントに反応して面白い動きをするからホント好き』
す、好き……!?
「はづきさーん!?」
いけない!
コメントと思わずやりとりしてしまう!
そして、私が楽しくお前らとコミュニケーションを取っている間に、事態は急変していたのだ!
ホストっぽい先輩配信者が二人いる。
二人!?
今日はホストは一人だったはず。
でも、二人。
片方はめちゃくちゃ大きいけど。
「こいつ……俺の姿を真似して……!?」
「聞いたことあります! 海外で出現したデーモンですけど、ドッペルゲンガーという配信者に擬態して同じ能力を使うタイプが……!」
色々出てくる、新情報。
でも、擬態はいいけど大きすぎない?
4mくらいあるんだけど……。
「くっそー!! 俺のアイデンティティが~!! ホストは二人もいらねえんだー。あ、いや、世の中にはたくさんいるけどね」
ホスト配信者の人が怒っている!
「仲間の姿を奪われたぞ!」
「ボコれボコれ」
「や、やめろー! 俺の姿を集団でボコるなー。あーれー」
なうファンタジーの人たちが、ワーッとよってたかってドッペルゲンガーをタコ殴りにする。
だけど、ホストの人の姿に変わったデーモンはかなり強くなっているようで、配信者集団相手に一歩も引けを取らない。
「ああーっ、俺の姿がボコボコにされてるう。だけど俺のアイデンティティは守られる。だけど巨大な俺がボコボコ。うごごごごご」
「だ、大丈夫ですよ。Aフォンでモザイクかけちゃえば似てるだけの大きいモンスターですから……」
思わず私が声を掛けたら、彼はハッとした。
「そうか! 俺の姿を真似する奴なんか、モザイクかければいいんだ! おいみんな! モザイク! モザイクだ!」
※もんじゃ『そうだな。これは恐らく、配信者の姿をコピーすることで同接数の力をデーモン自体も使うという能力だろう! モザイク処理をするのは正しいぞはづきっち!』『はえー、知恵者ニキ』
あ、そういうこと!?
完全に理解したわ。
※『はづきっちが今気付いた顔した』『天然……!』『やっぱ持ってるなあ』
モザイク処理をされたドッペルゲンガーは、一気に弱体化した。
なうファンタジーの人たちによって追い詰められていく。
トライシグナルの三人も奮闘し、三人の合体魔法みたいなのが飛んだ。
そういうのあるんだ……!!
※『はづきっちもああいう派手な魔法使えるといいな』『ゴボウで殴って殺虫剤使うだけだから、明らかに魔力ゼロ系配信者だよな』『配信者の中では底辺のタイプのはずなのに……』
うん。
私も自分が底辺という方がしっくりくる……。
「あっ、ドッペルゲンガーが逃げる!」
「速い!」
「呪文詠唱間に合わないってー!!」
私はみんなの声を聞いて、即座にモスジュデッカを取り出していた。
そして、動き出そうとして、鎧ミノタウロスが残した斧につまづいて転ぶ。
※『はづきっちの奇妙な動きが始まったぞ!!』『来たな』たこやき『撮れ高の予感……!!』
お前らがなんか言ってるけど、見てる暇がない。
私はどうにか起き上がろうとしていたら、向こうが騒がしくなった。
逃走を図ったドッペルゲンガーが、凄い跳躍でみんなを飛び越え、こっちにやってきたっぽい。
「あひー! こっち来ないでー!」
私は回避するつもりで後転して、ドッペルゲンガーから距離を取る!
※『うおお、謎の動きで的確にドッペルゲンガーの着地点をトレースした!』『デーモンを逃さないつもりか!』『はづきっち、やる時はやる女だぜ……!!』
えっ!?
真上に来てるの!?
「あひー、つーぶーさーれーるー!?」
私は情けない悲鳴を上げながつつ、股の間から手を伸ばしてモスジュデッカを苦し紛れに撒き散らした。
『ウグワーッ!?』
私の真上に降り立つところだったドッペルゲンガーは、至近距離で全てのモスジュデッカを喰らい、全身を霜に覆われる。
デーモンの股間をぐねぐねと抜けた私。
どうにか立ち上がった。
そしてゴボウで手近にあったデーモンのアキレス腱をペチッと叩く。
『ウグワーッ!?』
あ、気付いたらゴボウが直視できないくらい凄い光を放ってた。
それが、ペチられたドッペルゲンガーの足から腰、胸、頭へと駆け上がっていき……。
デーモンは全身を光に包まれながら、粉々に砕け散ったのだった。
「お、おおー……」
※『旧衣装のままボスモンスター倒したな』『体操服の見せ場がー』『次は頼むぞはづきっち』
「お、おう……」
リスナーから期待されている……。
着替えのタイミングを工夫しなくては……。
ボスモンスターが倒されたことで、ダンジョンの雰囲気が変化してきている。
大型のダンジョンコアが見つかり、ダンジョンの中にスタッフの人たちも入ってきた。
プロデューサーさんがイベント終了の合図をしている。
なうファンタジーの人が集まって、なんかみんなで手を振ってる。
いかん!
私も手を振らねば……!!
だが、大変恥ずかしかったので、画面の端の方で小さく手を振っておいた。
※『笑顔引きつってて草』『ダンジョン攻略最大の功労者がしていい顔じゃないだろw』
後日、様々な切り抜き職人によって、私の動画が大量にアップされ……。
私のチャンネル登録者がまたまた増えることになるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます