第30話 やっぱり持ってる私伝説

 配信開始。


「お前らー! その余裕ちょっとないけど、こんきらー!! 今からちょっとミノタウロス倒すので、お前らの同接パワーをちょっとだけ貸してくれー!」


※『こんきらー!』『こんきらー!』『こんきらー!』『よそのイベント中のゲリラ配信開始で草』『自由過ぎる』


 色々事情はあるんだけどね!?


※『ミノタウロス!? いきなり!?』『気をつけて!』『はづきっち、ゴボウの準備は十分か?』


「あ、ゴボウありまーす。なうファンタジーさんの方で用意してくれた、今朝収穫されたばかりのゴボウ! 埼玉県のモガーさんの畑でとれました! 見てよこの色、ツヤ! 反り!」


※『モガーさんありがとう!』『素晴らしいゴボウを作るやつだ!』『どひゃー美味そう!』


 配信と同時に、飛び出した私の体にみなぎる同説のパワー。

 なんか既に5,000人を超えてる。


 なうファンタジーファンじゃないけど、私の登録者だっていう人も結構多いのか……?

 私のファンが多い……?

 ほんとに……?


『もがーっ!!』


 ミノタウロス級と言われたモンスターが、闇の中から襲いかかってくる。


「きら星さん危ない!」


「こいつ、鎧を着たミノタウロスだ! 武器が通らない!!」


 他の配信者の人たちが叫ぶ中、私は「あっ、はい」とゴボウを握りしめてミノタウロスへ向き直った。


 そのゴボウが!

 ピンク色に光り輝く!

 なんだこのパターン?


 まさか……リスナーがゴボウを褒めたから!?

 ゴボウも褒められると、その威力が上がるのだ。


『もがあああああああ!!』


 鎧ミノタウロスが振り下ろしたのは、ものっすごくでっかい斧。 

 私の背丈より柄が長くて、刃は当たったら真っ二つ間違いなし。


 これを……私の手にした、モガーさん栽培の新鮮なゴボウが迎え撃つ!!


※『うおおおおおおお』『うおおおおおおお』『ゴボウいっけええええええ』『ゴボウの力を信じろ!!』おこのみ『ゴボウにパワーを!』


 ゴボウはさらに光り輝いた。

 そして、遥かに質量でまさるはずの大斧は、甲高い音を立てて弾き飛ばされる。

 あ、いや、刃がめっちゃ欠けてる!


 ゴボウが斧を倒した!


『もがあーっ!?』


 自分の勢いをゴボウによってまるごと返され、吹っ飛ぶ鎧ミノタウロス。


「す……凄くない、あの子!?」


「とんでもない勢いだ……! 登録者数だけじゃない。直接ブックマークしてるファンが多いタイプだ……!」


 他の配信者の人たちの声を聞きながら、私は素早く、飛び道具を取り出した。


 モスキラーさんからもらった、モスジュデッカ!


※『出たあモスジュデッカ!』『ミノタウロスなどGと変わらぬという王者の振る舞い!』


 そ、そんな強そうな意図は無いよ!

 これしか持ってきてないの!


 やりづらいなーと思いながら、プシューッとスプレーを掛けた。


『ウグワーッ!?』


 たちまちのうちに、全身を氷漬けにされて動かなくなる鎧ミノタウロス。

 えっ!?

 モスジュデッカってこんな効果だっけ!?

 家で使ったら辺り一帯が氷河期じゃん。


 同接効果、同接効果……!


『もがー!!』


※『はづきっち、後ろ後ろー!』『ミノタウロス挟み撃ちー!』『めっちゃミノタウロス出るじゃん』


「ありがとねー! よし、とりあえずモスジュデッカで牽制……」


『ウグワーッ!!』


※『一撃で氷漬けに!』


「え、ほんと!?」


 振り向いた私、思ったよりも近い所にミノタウロスの氷漬けがあって、そこにゴボウがペチンと当たった。

 砕け散るミノタウロス。


※『即死コンボ!!』『飛び道具と近接を兼ね備えたはづきっちが最強に見える』『だけど殺虫剤にゴボウが……!!』もんじゃ『モスジュデッカは極低温で昆虫を凍らせるスプレーだから体に一切の害がない! つまり、ゴボウとのコンビネーションは最適!』『モスジュデッカに詳しいニキ!』


 そ、そうだったんだー!

 じゃあこのゴボウも美味しくいただけちゃうな……。


 そうこうしていたら、なんかゴボウの輝きが強くなってくる。

 近づいてくる、ゴブリンやホブゴブリンと言ったモンスターは、私のゴボウが掠めるだけで『ウグワーッ!?』と光になる。


「幾らなんでも強くなり過ぎじゃない!?」


※たこやき『そりゃあ同接数一万超えたもの』


「は!?」


 言われて同接数を見て絶句してしまった。

 めっちゃ増えてる!

 どこから来てるの!?


※たこやき『トライシグナルのタグではづきっちが拡散されてるぞ』


 たこやき!

 何も言ってないのに私の表情を読んで……!

 だけど、実際トライシグナルのイベントなのに、私の宣伝みたいになってない!?

 大丈夫、これ?


 最後のミノタウロスをゴボウで叩いて光にしたら、溢れ出すモンスターは止まったようだった。

 トライシグナルの三人も、雑魚モンスターと戦ってたみたい。


 あっちはあっちで声援を受けて、登録者数が伸びていた。

 良かったー。


 主役はあっちだもんね。


「へへへ、それじゃあ私は脇役なんで、また画面外に行きますね……」


※『はづきっちが卑屈な笑みを浮かべてる!』『あれだけの活躍をした人間が浮かべていい表情じゃないんだよなあ……』『自己評価の低さが常に地の底に潜っている女』


 うるさーい!

 私は脇役に戻るんだー!

 そっと画面から離れ、配信を終えようとする私……。


 そこへ、カンナちゃんが猛烈な勢いで走ってきた。


「何してますの! こっちこっち! はづきさんを紹介しますわよー!!」


「な、な、何ぃーっ!?」


 とんでもない事態に、私は思わず叫んだ。


※『脇役になるの許してもらえなくて草』『ちゃんと仕事しろ』『責任から逃げるな』『責任外のノリで強大なモンスター倒してて草』『モンスターと戦うより目立つことが恐ろしい女』


 うるさーい!?


「皆様ー! 本日のスペシャルゲスト! きら星はづきさんですわよー! 拍手ー!」


 なうファンタジー公式チャンネルのチャット欄を、怒涛のごとくコメントが流れていく。

 み、みんな私を歓迎してる!?

 あったけー。


「えへへへへ、き、きら星はづきです、ども……」


※『緊張のあまりいつもキャラ忘れてるぞ、はづきっち』


 こんな状況で平常心を保っていられるわけないでしょー!


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