第29話 ゲストイベント、やっぱりハプニング伝説
東京の某市の地下のなんかすっごい広い空間。
大雨の時、水を受け止めて溢れさせないようにするためにあるらしい。
で、こういうのがあちこちに用意されてるんだとか。
その一つに私たちは来てまーす。
周りは幻ファンのスタッフばっかり。
アウェイでーす!!
「あひー」
「はづきちゃんが隅っこで小さくなってる」
「私たち以上に緊張してくれる人がいると、なんか気持ちが楽になるよね」
「うーっし! せっかく来てくれたはづきちゃんのためにも、それに先輩方のためにも! イベント成功させますか!!」
「桜、声でっか」
「タバコ吸っても……あ、無煙ならいい? じゃあちょっと失礼して……」
本日デビューの三人娘も、緊張で硬くなってたみたいだ。
だけど私がめっちゃくちゃに緊張しているので、それを見てなんか楽になったのだろう。
ニコニコしながら、私をペタペタ触って声を掛けてくれる。
あったけー。
でも帰りたーい!
あるいは早くダンジョンに潜りたーい!
見知らぬ人たちの所にいるよりも、ダンジョンに潜ってたほうがマシだあ!
この地下空間は、少し進むと一気に広がる。
そこからがダンジョン化してしまっているということだった。
昔から、自殺志願者が迷い込むという評判があって、ちょっとした怪奇スポットにはなってたそうなんだけど。
「いやはや! 広いダンジョンだ! 攻略は大変だぞ……!!」
「ま、お披露目イベントと大規模レイドイベント同時ですから! やりますか!」
なうファンタジーの人気配信者たちがなんか頼もしいことを言ってる!
全部この人たちに任せちゃっていいんじゃないかな……!!
でも、これはお仕事だからそうは行かないのだ!
「うおお、私は陰キャを治すために、一人でコツコツダンジョンに潜れていたらそれで良かったのに……!」
有名になりすぎた!
なんか、なうファンタジーの大物配信者たちが次々挨拶に来るし!
私はペコペコして、どもりながら自己紹介するので必死だ。
「では配信開始します! ダンジョン入り口から、イベント開始! 四人はこっちで周囲の雑魚モンスター掃討をお願いします! きら星さんは袖の方で待機を!」
プロデューサーさんが色々指示してくれている。
兄は難しい顔をして、プロデューサーの横。
他大物配信者たちは、兄とたまに雑談したりなどしてたが、すぐに仕事モードの顔になった。
三人娘も緊張し始めている。
私は……。
「帰りてー」
心底帰りたかった……!!
「あ、あのー、ちょっとうちの配信開いていいですか……」
私が藁にもすがる思いで頼んでみるが。
「うちのイベントだからね。他所で配信されると困るんだよ」
ううっ、プロデューサーの人に断られてしまう。
うおー、お前ら、助けてくれー!
ツブヤキッターで詳しい事情をツブヤキするのも、イベント開始までは禁止されている。
企業とのやり取り、厳しいー。
そして私が大変なことになっている間に、ついにイベントが始まってしまった。
先輩配信者たちがダンジョンに向かっていく。
まずは入口付近の雑魚モンスターを狩り尽くして、安全なステージにするんだ。
スタッフの人たちはダンジョンへ入れない。
だから、特殊なAフォンを何台も使って先輩配信者の活動を配信している。
あらかた狩り尽くした辺りで、主役登場だ。
三人娘。
彼女たちが画面の前でバーチャライズする。
黒のドレスに、金色の鎧を纏ったカンナちゃん。腰には剣を佩いている。
青いローブにホットパンツの水無月さん。右手に本を、左手に短いロッドを持っている。
白い着物にピンクの桜と赤いマーキングの卯月さん。腰には赤い鞘の太刀。
「「「皆さん、はじめまして!」」」
は、始まってしまったー!
ツブヤキッターで、デビューイベントタグで探してみると、結構な数のファンが熱狂している。
盛り上がってる盛り上がってる……!!
そして私のお前らは……。
※『はづきっち、こんな光の舞台に出たら塩の柱になって消えてしまいそうだな』『陰の者だからな……』『はづきっちがんばれー!』『絶対また何か起こしてくれるぞ』『持ってるもんな』
私への理解度が高い。
それから、妙な期待はやめてくれー!
別に何も起こらないから!
あ、三人娘のライブが始まった。
なんか、ダンジョンで歌うんだよね、企業側の配信者って。
スパチャがビュンビュン飛んでいる。
一人ひとりがAフォンでアップになるたびに、彼女たちのチャンネルへ誘導するリンクが画面に出現する。
チャンネル登録者数がもりもり伸びてるみたいだ。
あひー!
こ、これが企業系配信者の力!
個人勢である私なんかとてもとても……。
既に一万人を超えつつある三人の登録者数をチェックして、私は陽の者たちの強さを思い知る。
陰の者である私なんか大したものでは……。
うわーっ、180.000人になってる……。
なんで増えてるの。
っていうか最近加速してない……!?
ここで三人娘のグループ名が、トライシグナルと発表されて、コメント欄は大盛りあがりに。
ひええ、とんでもないなあ。
やはり、個人勢である私は彼女たちの引き立て役よ……。
うん、そうなんだから緊張しないでほどほどにやろう!
行くぞ、私。
適度にやるぞ、私。
自分に言い聞かせた。
どうせ大したことなんか起こらないでしょ……。
「あっ、大型モンスター反応です!! 止められません!!」
「しまった! 同接のパワーがトライシグナルに向かっているから、止めることが難しいのか! ではここでトライシグナルに戦闘の指示を……」
「大型モンスター反応複数! こ、これは予測外です! ミノタウロス級! 現在の同接数では、配信者に同接力が分配されて撃退には力が不足します……!」
あれ?
なんか緊急事態です?
やばくないです?
あ、でも私の配信では緊急事態なんて毎度のことだった。
不思議と落ち着いていく私なのだ。
なんか、兄が悪い笑みを浮かべてませんかね。
恐るべき兄はプロデューサーさんにぼそぼそ囁きかけた。
プロデューサーさんは「うぐっ、だ、だがそれしかない」と呟いた後、私に向き直った。
「配信してくれていい! きら星はづきさん! 君には接近する大型モンスターの討伐をお願いしたい! ここで、我が社の配信者を失うわけにはいかないんだ! 頼まれてくれるか!」
なんか、めっちゃ頼られている!
私は頷いだ。
「わ、わわ、あわ、分かりました!! えっと、その、んじゃ、きら星はづき、いきまーす!!」
「あ、いきなり!!」
私はカッとなって、ダンジョンの中へと駆け出してしまうのだった。
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