第364話 今年は大変お世話になりました伝説

 台湾料理美味しかったー。


 食後に向かったぼたんちゃんの家は、お店から離れた住宅街にある。

 一戸建てだー。


「父はあのお店で稼いで家を建てたの。台湾から渡ってきて、腕一本で成り上がったのよ!」


「すげー」


「すごいー」


「あの美味しさなら納得」


 私たちは口々に感心した。

 そしてぼたんちゃんがお父さん大好きらしいことも確認した。


 ちなみに、お母さんはバリバリのキャリアウーマンで、日本中飛び回っているらしい。

 夫婦が丸一日一緒に過ごせるのは一ヶ月に一日くらいしかないとか……。


 ひえー、織姫と彦星みたいな夫婦だあ。

 なお、二人はLUINEの家族チャットで、しょっちゅう愛をささやきあってるらしいので夫婦仲は極めて良好なんだとか。


「考えてみると……私たちの両親はみんな仲が良い」


「確かにー」


「ほんとだ! いやその方がいいんだけどさ! なんでだ」


「それは当たり前よ。入学の時に面接あったでしょ? あれで家のことまで包み隠さず伝える必要があるから、大体良好な家庭環境の娘しか残らないのよ」


 な、なんだってー!

 うちの学校、そういう方針なんで、ちょこちょこ批判を浴びるらしいんだけど。

 卒業生全員がきちんと陽の光の下のルートを歩むので、OGたちからの援護射撃がものすごいらしい。


 そういう意味では、間違いなくお嬢様学校だったんだなあ……。


 家に上げてもらうと、もちろん真っ暗。

 ぼたんちゃんが電気を点けて回る。


「上がって上がって! 私の部屋はこっちだから!」


「なんで子供の部屋は二階が多いんだろう」


「あたしんちはマンションだから一階しかないなあ」


「うちは一階がパン屋と工房だから、住むのは二階だしー」


「そりゃあ、下の階はリビングとか応接間とか夫婦の寝室があるでしょ?」


 四人いると大変賑やかだ。


『ちょっとさっきの台湾ご飯の感動を言葉で伝えてもよろしい?』


 あっ、ベルっちが出てきたから今から五人です。

 ベルっちがぼたんちゃんに、台湾ご飯がいかに美味しく、素晴らしかったかを身振り手振りで説明している。


 ぼたんちゃんはなんか嬉しそうににへにへ笑いつつ、私たちを部屋に入れてくれた。


 おおー、整理整頓がきちっとされたきれいな部屋!

 真っ白なベッドがあり、奥には机。

 横には丸くて可愛いテーブルと、フリルの付いた可愛いクッション。


 これぞ、お嬢様の部屋……! というデザインだ。

 ベッドの頭のところに私のグッズがズラッと並んでるんだけど。


「うふふうふふ、ベルっちもはづきちゃんだもんね。むぎゅむぎゅされて嬉しい……」


 あっ、なんかベルっちに感激のハグをされて、ふにゃふにゃになったぼたんちゃんが!!


「チョーコ、なにげに師匠の大ファンだからさあ。普段はカッコつけてるけど、その心の壁を突破されるとああよ」


「今年一番ふにゃふにゃになった顔してるねー」


 さすが、付き合いの長いはぎゅうちゃんともみじちゃんは詳しい。

 さて、ぼたんちゃんがふにゃふにゃにされているうちに。


「今年は大変お世話になりました」


 テーブルで差し向かい、私は二人にペコリと頭を下げた。


「こちらこそだよ師匠~!! お陰様であたしの人生、360度変わったもん!」


「イノッチ、戻ってる戻ってるー」


「あっ、そっか」


「うちもお世話になってます。ほんとに……ほんとに、うちも家族もみんな救われました!! 先輩大好き!」


「あっ、凄いラブのパワーがもみじちゃんから!!」


 このやり取りに、ぼたんちゃんはとろけてばかりいられなくなったらしい。

 ベルっちをくっつけたまま、よろよろと歩いてきた。


「は、は、はづきちゃん! 私は正直、ノリと憧れでデビューしたんだけど……本当に良かったと思ってる……! ありがとう、私と、私たちと出会ってくれて……!」


「ぼたんちゃん~」


 ちょっと私もジーンときたよ。

 私、普段はアニメとかラノベとかマンガでしか感動しないので、サイコパスなんじゃないかと自分を疑ってたけど、人間だったんだねえ……。


『はづき、行くよ挟み撃ち!!』


「おっ、それはつまり前後からクロスでハグを?」


『ゴーゴー!』


「ちょっ!? そ、それはわた、私の心臓が持たない……あひーっ」


 私とベルっちで前後から熱烈ハグをしたら、ぼたんちゃんが私みたいな悲鳴をあげた。


 部屋の主を倒してしまった。

 なんかアニメだと瞳のハイライトがハートマークになってる感じで、ぼたんちゃんはベッドの上でひくひくしている。


「これは戦闘不能だねえ」


「よくよく考えたら、チョーコは特にこれという悩みも何もないけど配信者デビューして人気になってるわけでー」


「うんうん、あたしらの中で一番凄いかもしんない」


「なるほどー」


 振り返ったら、ぼたんちゃんがだんだん復活してくるところだった。

 ベルっちは持ってきたファッジを食べながらまったりしてるし、私は私でもみじちゃんとはぎゅうちゃんと雑談中。


「くっ……せっかくみんなを招いたのに、危うく一人だけ気絶しているところだった……」


 ベッドから起き上がるぼたんちゃん。

 パパッと制服を脱いで、部屋着に着替えた。


「チョーコはスタイルが良くていいなあー」


「シカコはまだ可愛い服似合うからいいじゃん。あたしなんか筋肉がつきっぱなしだし。なんかね、女子からのファンレターが凄いの。お、男にドン引きされてるのでは……? ウワーッ、こ、恋がしたぁい」


「みんな色々悩みがあるのだなあ」


 私は他人事みたいに言いながら、ぼたんちゃんが淹れてくれるお茶を飲むのだった。


「えー、みんなを招いたのは他でも無いわ。短い冬休みだけど、中学の頃みたいにダラダラ過ごすのってもったいないでしょ? 配信者にもなった私たちにとって、時間はとっても貴重なものなので」


 うんうん、確かに。

 かと言って新年からダンジョンはちょっと慌ただしいしね。


「初詣配信を企画します!!」


 ここでぼたんちゃんが凄い計画をぶち上げてきた。

 な、な、なんだってー!!


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