第408話 ついに兄、結婚する伝説
こそーっと兄の結婚式が行われた。
うちの家族と、受付さんのご両親と兄弟が参列して、いわゆる教会でやるタイプのお式になった。
寸前まで宇宙さんは、「うちの神社でやればいいのに」と和式を推していたなあ。
今回は受付さんのこともあるんで、こういう洋式になってます。
ウェディングドレス姿の受付さんが、実に幸せそうであります。
兄に恋して、炎上してなうファンタジーを辞め、そこから一般で働いて、兄に声を掛けられて日本に来て、イカルガのメイン受付担当として二年間大活躍してきた人だ。
苦労の末に結ばれたということで、感慨もひとしおでしょう。
兄は人の心がないので、式の直前になっても私に、「次の予定だが、この式が終わった翌日にお前は新曲発表番組の収録にだな。ルンテもスケジュールが空けてあるから、二人で行ってきてくれ。ベルゼブブはシアワセヤの配信に参加してもらいたい。俺が作ってきたスケジュール表を送るから……」と仕事の話をしているのだ。
多分この人、結婚式とかに興味がないな……!
「兄としてはどうなんです、結婚」
「ああ、これでリアルで他人に言い寄られなくて済む。面倒で面倒で仕方がなかったんだ」
「さいですか」
「無論、相手とするならば信頼が篤い女がいい。彼女は俺が最も信頼する女性だ」
「おほー」
最後にアツい言葉を聞けましたよ!
受付さんもこれを聞いて、ぴょんぴょん飛び上がって、それからダーッと涙を流して泣いたので、お化粧が台無しになるところだった。
うんうん、報われるねえ……。
受付さんのご兄弟がスーッとやって来て、私にペコペコ挨拶した。
腰が低いお姉さんだ。
「あの子が何もかもなげうって恋に生きたのは正解だったなあって思いますね」
「なるほどー」
「お陰でこんな素敵な旦那さまと会えたし、きっと幸せな家庭を築いていくことでしょう」
「ほうほう」
「ところであなた、どこかで見たことが……。もしかして配信者をしていたりしますか。念の為にサインをいただいても?」
「あひー」
鋭い!!
私は適当にごまかして、そそくさと退散したのだった。
その後、新郎新婦と双方の家族での会食が行われた。
さらに祝電が届いてるんだけど、八咫烏さんからの祝電が読まれたら、兄が顔をしかめた。
あれは照れてるんだ。
私は分かるぞ。
兄と八咫烏さんは同時にデビューした同期で、ユニットを組んでバリバリ活動していたのだ。
なので、一番自分のことを知られている相手ということになるんだろう。
そりゃあ、式の最中は全く感情をあらわにしなかった兄も恥ずかしがるよね。
この人は多分、主導権を握れない相手が苦手なんだな。
うちの変人の相手は大変だと思うけど、受付さんなら御せると思っている。
この人が結婚の決断をするところまで、関係を詰めてったわけだし。
いやあ、おめでたいですねー。
私はお料理をパクパク食べた。
全部平らげて、お代わりしようかなーとか思ってたら、受付さんのお姉さんがびっくりした目でこっちを見ている。
し、し、しまった!
ここでさらにたくさん食べたら、怪しまれるのではないか。
くっ、デザートで一旦の締めとしておこう……。
「どうしたんだ? いつもより食べないじゃないか。お代わりできるんだからしてもいいんだぞ」
ち、父~!
こんなところで気遣いしなくてもいいですからー!
母がお代わりした。
向こうのご両親が目を丸くしている。
よし、母が突破口を切り開いた!
私も続くぞーっ!!
「お代わりください! 私たち、凄くよく食べる親子なんです!!」
勢いでこの場を乗り切ることにしたのだった。
なお、受付さんがもう受けに受けてずっと笑っていた。
ちなみに。
祝電で、なうファンタジーの委員長からお二人への言葉が読まれた時、新郎新婦がスーッと静かになった。
「あの人には何も話してないよな……?」
「話してないっていうか、繋がりはもう私はないけど……。なんで分かるの……?」
「恐ろしい人だ」
二人が戦慄する、なうファンタジー始まりの配信者、風花雷火委員長!
なんだかんだで底しれぬお人だ。
その後は、大京元長官とか、業界の大きい会社からの祝電とかが続いた。
会社間の付き合いはあるもんね。
ただ、そこからスーッと漏れ出て兄の結婚の話は世の中に広まりそうではある。
「ま、配信者じゃなくて社長が結婚したんだから炎上はしないでしょ……」
深く考えるのを止める私なのだった。
式が終わり、受付さんの一家はホテルに戻って行った。
明日からは東京観光らしい。
楽しんで行って欲しいー。
で、両親も帰り、私がお二人と一緒に残った。
これはこの後の仕事の詰めね。
「……で、お二人の新居はどうなるんですか」
「いきなりの質問! あのね、実はね、もう同棲はしてて……」
おっ、受付さんがのろけてきた!
「びっくりするくらい仕事とガン=カタの練習ばっかりで全然手を出してこないんだけど」
さもありなん。
「まあ私も忙しくて、帰ってくるとシャワー浴びてベッドに倒れてるから仕方ない……。実は会社に近いところにマンションを買ってて」
「ほうほう。じゃあ他の住民に気付かれないようにしなくちゃですねえ」
ここで兄が口を挟んできた。
「語弊があるようだな。マンションそのものを買った。つまり、一棟まるごとが俺の所有物ということだ。ここを社宅としても利用している。住人は全員我が社の社員だ」
な、なんだってー!?
トリットさんやバングラッド氏も住んでるそうです。
いつの間にそんなことに……!
あ、最近だそうです。
確かに、こういう設備ができたらイカルガの関係者も助かるよね。
お家賃は社宅ということで格安、お給料から天引き、管理費諸々はサービスになってるとか。
「じゃあスファトリーさんをそちらに移しても……?」
「彼女は異世界人で、まだ身の回りのことがあまり出来ないだろう。ある程度やれるようになったら引っ越してくるといい」
「了解です~」
イカルガは見えないところでも、着実に前に進んでいるんだなあ。
ってことで、私は二人の後についていって、マンションを見せてもらうことにするのだった。
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