第449話 うちのクラスにきら星はづきがいる伝説

 実はうちのクラス、きら星はづき……はづきっちが在籍してるんだよね。

 最初はちょっと引っ込み思案な子なのかなと思って、いつ声を掛けようかなと思ってた彼女がまさか。


 考えてみたら、彼女がどんどんキラキラしていって、クラスでも目立つようになってきた時点でもうはづきっちだったよね。

 おどおどしてるけど、絶対後ろに下がらない。

 気付いたら最前線にいて、眼の前の課題を突破してる。


 うーん、はづきっちだ。

 もうそんな彼女と同じクラスで三年過ごしてる。

 これって凄くない?


 ただまあ、クラスのみんなとの約束で、このことは絶対バラさないと決めている。

 私たちだけの秘密だもんね。


「あひー」


 また鳴いてる!

 バレるバレる、バレちゃう!


 クラスのみんなが結託して、一斉に声を大きくしておしゃべりする。


「バレなかった」


 はづきっち、バレてる!

 バレてるから!

 外にもバレちゃうから!


 世界のヒーローになってる彼女、日常では大変危なかっしい。

 守護らねば……。


「そう言えばさ」


 他の子と喋っていたかーゆんが私を振り返った。


「どしたの」


「バイト先の友達が辞めるって言っててさ」


「そうなんだ? そもそも、かーゆんがバイトしてたって知らなかったかも」


「うちの方針で、社会勉強しといてってことでね。社会を知らないといけないよとか言われて」


「そっか、かーゆんのお父さん社長さんだもんねー」


「ちっちゃい会社だけどね! んでさ、割の良いバト先があるって言うんだけどー。求人見せてもらったら超怪しくて」


「ほえー」


「これこれ」


「時給1700円! お得じゃん」


「だよねー。実働時間も少ないし。でも、なんか嫌な感じがしたからさ、誘われたけどやらないことにした」


「嫌な感じ?」


 スマホに表示されているその求人を見たら、なんだか私も胸がムカムカしてくる感じがした。


「あ、確かに気持ち悪いかも」


「でしょー。でもその子すっごい笑顔でさ、『一番いいの、ここにきら星はづき嫌いな人歓迎って書いてあるから』って言うんだけど」


 ?

 なんだそれ?

 私が覗いてみても、何も書いてないんだけど。


 リロードしたら出てくるとか?

 かーゆんが画面を再度読込したら、求人は消えてしまったのだった。


「なんだなんだ」


「なんだろう」


 私達は二人で首を傾げた。

 結局その日はそのまま。


 私も例の求人を探してみたけど、全然見つからなかった。

 だけど、中学の頃の友達が何人か、その求人を見たらしい。

 そして他の学校や、あるいは友達の友達みたいな人たちが求人に応募してるらしい。


 で。

 受かった人たちは戻ってこなかった。

 ちらほらっとそういう人がいると聞いてる。


「最近ダンジョンがまた増えてきたよねー」


「師匠、この間のは割と強い魔将がいましたよ。もう、親の仇ーって感じで襲ってきたからびびったっすわー。力任せで粉砕しなかったら危なかったなあ」


 はづきっちとお喋りしてる、のっぽの子はイノッチ。

 実は、イカルガエンターテイメントの配信者、猪又はぎゅうちゃんだなのだ!


 はづきっちと仲の良い三人も、いつの間にか配信者になっていた。

 それがどんどん大物になって、今では日本の配信者でも上から数えたほうが早いくらいの人たちじゃないかな。


「うんうん、なんか魔将がさ、私達に私怨を抱いてるみたいなー。まあ気のせいかあ」


 はづきちゃん! 

 クラスの中でそういうこと言ったらだめ!


 クラスメイトがみんなで声を大きくして誤魔化す。

 ナイスなチームワーク!


 そこに、チョーコちゃんこと蝶野ぼたんちゃん、シカコこと鹿野もみじちゃんも到着して、気持ちだけ声を小さくして会議を始めた。

 これ、実質的に配信者トップの人たちの会議なのでは……?


 聞いちゃっていいのかなあ。

 ちょうど誰とも喋ってなかった私は、知らん顔をして近くでスマホをいじった。

 癖になってる、メガネを直す動作をやって息を殺す。


 うーん、四人ともちょいちょい節穴だから、気付かれないぞ……。


 話を立ち聞きしていたけど、四人とも最近増えてきたダンジョンの話をしてる。

 ここで私、閃いてるんですけども。


 その求人、ダンジョンのボスモンスターになる仕事だったりするんじゃないですか?

 いや、だがそんな話を一素人であり、一クラスメイトでしか無い私がこれほどの人たちに言うのはね、ちょっとね。


「魔将がやっぱ、ずっと恨み言ばっかり言っててー」


「逆恨みよねあれ。自分が上手く行かないのを私達に八つ当たりしたって仕方ないじゃない」


 あの求人がそう言う人たちにだけ刺さるような仕掛けをしてあって、それでみんな誘い込まれているのでは?

 あ、私達に求人が見えなくなったの、そういうことか。

 世の中への恨みとか全然無いもんね。


 私と友達も一緒にこの学校受けたけど、私より成績がよくて内申も良かった知り合いは、裏で気に入らない子をいじめたりしてたらしい。

 で、私が受かって彼女は落ちた。

 筆記では絶対彼女のほうが上なのに。


 謎だ……。

 だけど、受かってみたら、この学校はそういう問題がない子ばかりが集まっていたのだ。


 謎だ。


 そう言えば、学校がダンジョン化するとかは珍しくないらしいけど、うちの学校って一度もダンジョン化してないし。

 ダンジョンハザードに巻き込まれた時、突然はづきっちが現れてモンスターたちをぶっ飛ばして。


 そこから伝説と、私の妙にエキサイティングな学生生活が始まったんだった。


「あれ?」


 いけない、気付かれた。

 はづきっちが私をじーっと見ている。


「委員長、さっきからずっと立ってて何してるの」


「あ、なんか教室の中で通信の状況が変わっててね……」


「そうなの? なんと……」


 あっあっ、はづきっちがスマホを持って歩き始めた。

 試す気だ……!


 彼女は本当にマイペースなのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る